相続専門税理士 髙原誠の「円満相続コラム」

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相続税申告よもやま話(2)-遺産分割協議、不動産の売却…相続専門税理士として心がけていること

2020年8月18日 [ 相続 ]

相続税申告よもやま話(2)

私たち相続専門税理士がお客様からご依頼があったときに心がけていることがあります。それは、「相続財産にどのようなものがあり、各財産の評価額はいくらか、また法定相続分で相続した場合、いくらぐらいの相続税がかかるのか、できるだけ早い段階でご提示すること」です。

相続税は、申告義務がある場合、原則、相続開始から10か月以内に申告・納税しなければなりません。期限後申告には、本税に加え、「延滞税」「無申告加算税」といったペナルティが課されるため、まず期限内に申告することが重要です。

また、ただ申告するだけなら、期限ぎりぎりまでに私たちのほうで計算を行えばよいのですが、お客様の立場に立つと、実際には、期限のもっと前の段階で、計算を行っておいたほうがよいことがあります。

「遺産分割方針」を定めるための情報提供

相続税申告よもやま話(2)

相続税申告では、まず「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」が適用できるかを検討しなければなりません。

「配偶者の税額の軽減の特例」とは、配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、1億6000万円か配偶者の法定相続分相当額かのどちらか多い金額までは相続税がかからないという制度です。

また、「小規模宅地等の特例」は、個人が、相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人等の事業や居住の用に供されていた宅地等について、定められた要件を満たす場合に、一定面積の評価額を80%もしく50%減額するものです。

両特例とも適用できるかどうかで相続税額が大幅に変わるため、これらの適用要件を満たすかどうかをしっかり見極めねばなりません。

両特例は、申告時に適用を受けようとする場合には、申告期限までに「遺産分割方針(誰が、どの相続財産を取得するのか)」を決めておく必要があります。相続が開始して遺言がない場合、「遺産分割協議」を相続人の間で行い、「遺産分割方針」を定めます。「遺産分割協議」を行うには、被相続人の財産にどんなものがあり、その金額がいくらぐらいなのかを把握しておくことが不可欠です。そのため、依頼を受けた税理士が、相続財産の内訳および評価額をできるだけ早い段階で提示することが求められます。

また、相続人の中に未成年者がいる場合、注意が必要です。未成年者は、基本的に「遺産分割協議」に参加することができないため、家庭裁判所に「特別代理人」を申し立てる必要があります。申請の際には、分割協議書案を提出しなければならず、提出から手配完了まで1か月程度の時間がかかる場合があるので、より一層、迅速に行動しなければなりません。

そして、相続争いなどを理由として申告期限までに遺産分割協議が整わない場合には、法定相続分により相続したものとして申告を行うことになります。この場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告時に提出することで、後日、分割方針が決まったとき、特例を適用し、納め過ぎていた相続税を戻してもらうことが可能です。

ただし、そのような場合であっても、一度は、それらを適用しない高い税額で申告・納税を行わねばなりません。やはり、申告期限までに遺産分割方針を定め、申告を行うことが、相続税を低く抑えるポイントといえます。

相続税額のいち早い把握

相続税は「現金一括納付」が原則です。そのため、たとえば、相続財産の多くが不動産で、現金が少なく、相続人に相続税を納めるだけの資力がない場合には、納税資金が不足するため、何らかの手立てを考えねばなりません。

最もよく行われるのが、相続財産である不動産を売却し、現金化する方法です。ただ、不動産売却で注意しなければならないのは、不動産会社に仲介を依頼してから売買契約が成立し、実際に資金を手にするまで、通常、2~3か月程度の時間を要すという点です。つまり、申告期限間際に不動産の売却を依頼しても、期限までに手元に現金を確保できない可能性があるのです。

私たちが実際に請け負った事例で、相続税を支払うために「生産緑地」(※)を売ろうとしたものの、「生産緑地」の解除に時間がかかり、その後、売買契約が成立し、現金が手に入るまでには申告期限を過ぎてしまうことがわかったため、一時的な延納を申請したケースもありました。

(※)生産緑地…市街化区域内にある農地や山林で、都市計画によって指定された生産緑地地区内の土地。生産緑地の指定を受けると、その土地の所有者は、農地としての維持管理を求められるほか、農地以外としての転用・転売は原則、許可されない。転売するためには、生産緑地の指定を解除することが必要で、土地所有者の死亡後、相続した者が農業を営まない場合に、市区町村に買取申し出を行い、所与の手続きを経て、指定が解除される。

手元資金を準備できない事態を避けるために、私たちは、まず法定相続分で相続した場合に、どれだけの相続税がかかるのか、そして、財産内容の兼ね合いから、納税資金の不足が見込まれるかどうかを、できるだけ早い段階でお客様にご提示するよう心がけています。

相続税申告よもやま話(2)

生前から取り組むべき申告の作業

相続が開始すると、相続税申告だけでなく、葬儀や法要の対応、銀行口座や株式、不動産の名義変更、生命保険金の受け取り、年金の受給停止依頼など、しなければならないことがたくさんあります。そのあわただしい中において、申告に不備がないように、最善を努めるのが、私たち相続専門税理士の使命です。

しかしながら、申告の際に重要となる「遺産分割方針の策定」や「相続税額の把握」は、実は、被相続人となる方が亡くなる前でも、十分、検討できる事項です。つまり、被相続人となる方がお元気なうちに、財産の内訳と各財産の評価額、およびそこから導かれる相続税額の把握を行い、そのうえで、当事者間で、財産分割についての話し合いをしておき、残す財産と手放す財産を整理しておくのです。その内容を「公正証書遺言」としてまとめておけば、いざ相続が開始してから申告にかかる作業を、大幅に減らすことができます。

相続税申告は、相続が開始してから始まるのではなく、実は、生前のうちから始められることを、意識しておきたいものです。