相続税申告事例 第6回-傾斜のある市街地農地の評価は?
相続税は、相続開始時点の現預金、株式、家屋、土地といった相続財産の評価額を算定し、その総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超える場合、原則、相続開始後10か月以内に、税務署に申告を行う必要があります。
相続財産の中で、一番のウェイトを占めるのが「土地」です。土地は、評価がとくに難しいために、判断が分かれることも少なくありません。そのため、土地の評価額を適正に算定できるかが、適正申告のカギとなります。
K県S市在住の川口様(仮名)は3か月前にお父様を亡くされ、300㎡の畑などを相続されました。自分で申告することを検討していましたが、土地評価でつまづき、当グループホームページを見たことをきっかけとして申告業務をお任せいただくことになりました。
市街地農地の評価
今回の事例でカギとなったのは、「市街地農地の評価」です。財産評価基本通達によれば、農地は、農地法などにより宅地への転用が制限されており、また、都市計画などにより地価事情が宅地の場合と異なることから、その価額は「純農地」「中間農地」「市街地周辺農地」「市街地農地」の4種類に区分して評価するものとされています。
「純農地」「中間農地」の評価は、その農地の固定資産税評価額に、国税局長が定める一定の倍率を乗じる「倍率方式」で行われ、また「市街地周辺農地」「市街地農地」の場合は、「倍率方式」のほか、「宅地比準方式」がとられます。
「宅地比準方式」とは、その農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額から、その農地を宅地に転用する場合にかかる1㎡あたりの造成費(宅地造成費)を控除し、それに農地の面積をかけて評価する方法をいいます。造成費は、整地、土砂の積み上げ、擁壁の構築等に要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長が定めます。
平たん地と傾斜地では、造成費の計算方法が異なり、また傾斜地では、その傾斜度が大きいほど、造成費の金額が大きくなります。
奥に急な傾斜が
相続された300㎡の畑を川口様に案内していただくと、土地の傾きは、道路から見て前面部分は緩やかであるものの、奥は急傾斜となっていました。
傾斜度については、原則として、評価する土地に最も近い道路面の高さを起点とし、その土地の最奥部の点となす角度をもって測定されます。
土地家屋調査士による現地測量を行ったところ、評価対象地が接する道路と土地の最奥部のなす角度は約12度と判定されました。ちなみに、道路と緩やかな部分のなす角度は約4度でした。
これに基づき土地の評価額を求め、現預金や株式などの評価も行って申告書を作成し、税務署に提出しました。
今回の申告作業をご自身でされた場合、道路と緩やかな部分のなす角度の約4度をその農地の傾斜度として申告してしまったかもしれません。その場合、市街地農地の評価額は、当グループによる評価額より約400万円上がり、約160万円も余計に相続税を支払っていた可能性があります。
このように、当グループでは相続専門税理士と相続に強い不動産鑑定士との協働により、適正申告を実現することが可能です。
今回のポイント
市街地農地が「宅地比準方式」で評価されている場合、傾斜度に応じた適切な宅地造成費が控除されているかどうかなどを、一度、確認してみよう。
―この記事を書いた人― | |
藤宮 浩(ふじみや ひろし)(不動産鑑定士) 埼玉県出身。平成7年宅地建物取引主任者資格試験合格。平成16年不動産鑑定士試験合格および登録。平成24年ファイナンシャルプランナーCFP登録。主な著書に税理士・髙原誠との共著『日本一前向きな相続対策の本』(平成27年現代書林)、不動産鑑定士・小野寺恭孝との共著である『これだけ差が出る 相続税土地評価15事例 基礎編』(平成28年クロスメディア・マーケティング)、『現地調査・役所調査からみえてくる、相続税土地評価の減額要因』(令和元年税務経理協会)。セミナー講演、各種媒体への出演、寄稿多数。雑誌『家主と地主』への寄稿は70回を超える。 |
![]() 藤宮浩 (不動産鑑定士) |
髙原 誠(たかはら まこと)(税理士) 東京都出身。平成17年税理士登録。平成18年税理士・吉海正一氏とともにフジ相続税理士法人を設立、同法人代表社員に就任。相続に特化した専門事務所の代表税理士として、年間約700件の相続税申告・減額・還付業務を取り扱う。不動産鑑定士の藤宮浩と共著あり(詳細は藤宮のプロフィールを参照)。セミナー講演、各種媒体への出演、寄稿多数。 |
![]() 髙原誠 (税理士) |