
「相続税申告」とは、亡くなった方(被相続人)から財産を取得した相続人等(相続人、遺贈による取得者及び相続時精算課税による受贈者)が、納めるべき相続税を計算して税務署に申告する手続です。
申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内で、遅れると無申告加算税といった追徴課税がされてしまいます。
また、納付期限も同一で、納付が遅れると、この納付期限(法定納期限)の翌日から完納までの日数に応じた延滞税を負担しなければなりません。
本記事では、申告が必要なケース、必要書類、進め方、注意点、税理士の選び方までを整理します。
相続税申告とは
相続税申告は、被相続人から財産を取得した相続人等が自ら税額を計算して、その税額を確定させ、税務署に申告する国税の手続で、いわゆる「申告納税方式」の一つです(国税通則法16条1項1号)。
期限・提出先・遅延時の扱いという3つの基本を押さえておくと、その後の準備がスムーズに進むでしょう。
| 観点 | 要点 |
|---|---|
| 期限 | 相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内 |
| 提出先 | 被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署(※) |
| 遅延時 | 無申告加算税・延滞税などの追加負担が生じる |
※書面により郵送提出する場合、「業務センター」宛に郵送します。
期限は相続開始から10か月以内
相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内と定められています(相続税法27条1項、33条)。
この期限を法定申告期限及び法定納期限といいます(国税通則法2条7項及び8項)。
通常、被相続人が亡くなった日の翌日を起算日として数え、これらの期限が土日祝日にあたる場合は翌開庁日が期限です。
10か月というと余裕があるように感じますが、葬儀、四十九日の満中陰法要、金融機関の手続等と並行するため、実際には短く感じがちな期間です。
申告先は被相続人の住所地の税務署
申告書の提出先は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です(相続税法附則3項)。
相続人自身が住んでいる地域の税務署ではないため、間違えないよう気を付けましょう。
相続人が複数いる場合も、申告書は共同で作成することができ、同じ税務署に提出します。(※)
※書面により郵送提出する場合、「業務センター」宛に郵送します。
期限超過時のペナルティ(加算税・延滞税)
法定申告期限内に申告をしないと、無申告加算税が課税され、悪質と判断された場合には無申告加算税の代わりに本来納付すべき税額に対して40%に相当する重加算税が課されます(国税通則法68条2項)。
法定納期限内に納税されないときには、本来納付すべき税額に対して、延滞税がかかります(国税通則法60条)。
税務署は、市町村等の役場からの死亡情報などをもとに、相続税がかかる可能性のある家庭を把握しています。
後から申告漏れが発覚することは珍しくありませんので、十分注意しましょう。
- 法定申告期限内に申告をしないと、無申告加算税が課税される
- 悪質と判断された場合には、無申告加算税の代わりに本来納付すべき税額に対して40%に相当する重加算税が課される
- 法定納期限内に納税されないときには、本来納付すべき税額に対して、延滞税がかかる
相続税申告が必要なケース
相続税申告が必要になるのは、課税対象の遺産総額(相続財産に相続時精算課税適用財産額を加え、被相続人の債務及び葬式費用を差し引いた額)が基礎控除額を超える場合と、税額をゼロにできる特例を適用する場合の2パターンです。
特例のなかには「税額がゼロでも申告しなければ適用を受けられない」ものがあり、申告不要と誤解しやすい点に注意が必要です。
| 主な場面 | 申告の要否 |
|---|---|
| 課税対象の遺産総額が基礎控除額を超える | 必要(差額に相続税が課される) |
| 配偶者の税額軽減を適用する | 必要(税額ゼロでも申告) |
| 小規模宅地等の特例を適用する | 必要(税額ゼロでも申告) |
課税対象の遺産総額が基礎控除額を超える
相続税申告が必要になる典型は、課税対象の遺産総額が基礎控除額を超えるケースです。
基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
「法定相続人」とは、民法で定められた相続人のことで、配偶者は常に相続人となり、そのほかに第1順位=子(または孫等の代襲相続人)、第2順位=直系尊属、第3順位=兄弟姉妹が順に相続人となります(民法887条、889条及び890条)。
例えば法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、3,000万円+600万円×3=4,800万円が基礎控除額となり、課税対象の遺産総額がこの金額以下であれば申告義務は生じません。
ただし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用して結果的に税額が0円となるケースでは、特例の適用そのものに申告が要件として求められているため、申告が必要になります。
なお、相続税法上、「法定相続人」との文言はありませんが、相続税の申告書ではこの「法定相続人」との記載があり、「民法上の法定相続人」とは、少し範囲が異なりますので注意が必要です(相続税法15条)。
「相続税法における法定相続人」は、相続放棄者もこの人数に含まれます。
実子がいる場合には養子は1人まで含まれ、実子がない場合は養子2人まで含まれます。
また、特別養子縁組(民法817条の2第1項)による養子や配偶者の実子で被相続人の養子となった者(いわゆる連れ子)は、実子とみなされるなどがあります。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、3,000万円+600万円×3=4,800万円
- 相続放棄者もこの人数に含まれる
- 実子がいる場合には、養子は1人まで含まれる
- 実子がない場合は、養子2人まで含まれる
- 特別養子縁組(民法817条の2第1項)による養子や、配偶者の実子で被相続人の養子となった者(いわゆる連れ子)は、実子とみなされる など
配偶者の税額軽減を適用する
配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が取得した課税対象となった遺産のうち、「1億6,000万円」又は「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額まで、相続税がかからない特例です。
この制度は、被相続人の財産形成に配偶者が寄与してきた点や、遺された配偶者の生活保障への配慮から設けられています。
この特例の適用を受けるには申告書の提出が要件となっており、税額がゼロでも申告しなければ特例は使えません。
なお、対象となるのは戸籍上の配偶者に限られ、内縁関係にある人は適用対象外です。
また、二次相続(配偶者が亡くなった際の相続)では基礎控除・法定相続人の数が減り、税負担が重くなる傾向があるため、一次相続で軽減枠を使い切る配分が最適とは限らない点にも注意が必要です。
小規模宅地等の特例を適用する
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地や事業に使っていた土地について、一定要件を満たすと評価額を最大80%減額できる特例です。
居住用の宅地なら330㎡までの部分について、評価額の80%が減額されます(事業用の宅地は400㎡までの部分について評価額の80%、貸付事業用の宅地は200㎡までの部分について評価額の50%が減額されます)。
この特例は、被相続人と生計を共にしていた家族が、自宅や事業用地の相続税負担のために住まいや事業を失う事態を避ける趣旨で設けられています。
適用を受けるためには、取得者ごとに定められた要件(配偶者・同居親族・家なき子・生計一親族 等)を満たす必要があり、使用貸借(無償で貸していた土地)や、被相続人と別居していた親族が持ち家に住んでいる場合などは対象外となるケースが多い点に注意が必要です。
この特例で相続税がゼロになる場合でも申告書の提出が要件で、申告しなければそもそも特例が適用されません。
- 居住用の宅地は330㎡までの部分について、評価額の80%が減額される
- 事業用の宅地は400㎡までの部分について、評価額の80%が減額される
- 貸付事業用の宅地は200㎡までの部分について、評価額の50%が減額される
適用を受けるためには、取得者ごとに定められた要件(配偶者・同居親族・家なき子・生計一親族 等)を満たす必要があります。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
相続税申告が不要なケース
相続税申告が不要になるのは、そもそも税額が発生しないケースです。
課税対象の遺産総額が基礎控除額以下になる場合と、申告不要で各種控除適用の結果、税額がゼロになる場合が代表例です。
「税額ゼロでも申告が必要」な特例と混同しやすいため、線引きを確認しておく必要があります。
| ケース | ポイント |
|---|---|
| 課税対象の遺産総額が基礎控除額以下 | 申告そのものが不要 |
| 未成年者控除・障害者控除でゼロ | 各種控除を適用した結果、申告不要 |
課税対象の遺産総額が基礎控除額以下になる
課税対象の遺産総額が基礎控除額を超えなければ、原則として相続税は発生せず、申告も不要となります。
法定相続人が配偶者と子1人の合計2人なら基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2=4,200万円)で、課税対象の遺産総額がこの金額以下なら申告は不要となります。
ただし、暦年課税による生前贈与のうち相続開始前3〜7年以内(2024年1月1日以降の贈与から段階的に延長)に受けた贈与財産や、相続時精算課税制度で受贈した財産(基礎控除110万円を超える部分、経過措置あり。)は、相続財産に加算されるため、加算漏れがないかを確認した上で判定する必要があります。
未成年者控除・障害者控除で税額がゼロになる
課税対象の遺産総額が基礎控除額を超えても、未成年者控除・障害者控除・相次相続控除の適用で相続税額がゼロになる場合も申告不要です。
未成年者控除は、法定相続人である未成年者が対象で、「相続人が満18歳になるまでの年数×10万円」を税額から差し引きます(令和4年4月1日以降の相続から18歳基準。それ以前は20歳)。
障害者控除は、法定相続人である障害者が対象で、「相続人が満85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)」を税額から差し引きます。
いずれも相続開始時点で日本国内に住所があることが原則要件です。
これらの控除額を差し引いても税額が残る場合は申告と納付が必要です。
未成年者控除額 = 満18歳になるまでの年数 × 10万円
障害者控除額 = 満85歳になるまでの年数 × 10万円(特別障害者は20万円)
- いずれも法定相続人であることが必要です。
- 相続開始時点で日本国内に住所があることが原則要件です。
※18歳基準は、令和4年4月1日以降の相続から。それ以前は20歳
相続税申告が不要な場合においてゼロ円申告をするメリットとデメリット
課税対象の遺産総額が基礎控除額以下ではあるがほぼ同額であるとか、不動産(主に土地)が含まれているといった場合、あえて税額ゼロ円の相続税の申告書を税務署へ提出するという考え方があります。
税務署が被相続人の相続開始の情報を入手し、申告期限前に、相続人に対し「お尋ね(相続税の申告等についてのご案内)」文書を送付し、相続財産の把握や申告書提出の意向の記載を求めてきます。
この「お尋ね」に回答する義務はないのですが、回答書に「相続税の申告予定である」と記載する方もいらっしゃいます。
まず、ゼロ円申告をする最大メリットは、将来の税務調査への備えとなります。
特に、不動産や非上場株式など評価困難な財産がある場合、どのように評価したのかという記録が残ります。
仮に、被相続人に新たな財産が発見されたなどにより、課税漏れを指摘され、修正申告書を提出する場合、無申告加算税ではなく、本来の税額に対する割合の低い過少申告加算税が課税されます(国税通則法65条)。
延滞税についても、計算期間の特例が適用されますから(同法61条)、負担額は少なくなります。
二つ目のメリットは、被相続人の相続財産の範囲や評価を整理でき、相続人間のトラブル防止となります。
三つ目のメリットは、配偶者がご存命の場合、将来の「二次相続」で再び相続税の問題が生じた際、財産評価の根拠、財産が誰に帰属しているのかの確認が容易となり、次回の相続手続がスムーズとなります。
また、二次相続対策として、何をすればよいのかが明確となります。
このような相続対策業務についても、相続専門税理士に相談することをおすすめします。
一方、デメリットとしては、「必要書類を集める手間がかかる」とか、「税理士に依頼した際の報酬が必要である」などです。
- 将来の税務調査への備えとなる
- 被相続人の相続財産の範囲や評価を整理でき、相続人間のトラブル防止となる
- 配偶者がご存命の場合、将来の二次相続で財産評価の根拠や財産が誰に帰属しているのかの確認が容易となり、次回の相続手続がスムーズとなる
相続税申告に必要な書類
相続税申告に必要な書類は、大きく分けて、「相続人全員に共通する書類」、「相続財産の種類ごとに集める書類」、「特例・控除の適用時に追加で必要な書類」の3種類があります。
書類の取得先や発行までの日数が、書類ごとに異なるため、着手の順序を決めて動くことが期限内完了の鍵になるでしょう。
| 書類の種類 | 主な取得先 |
|---|---|
| 相続人全員に共通する書類 | 市町村等の役場 |
| 相続財産の種類ごとに集める書類 | 金融機関・法務局・市町村等の役場 |
| 特例・控除の適用時に追加で必要な書類 | 自作・税務署 |
相続人全員に共通する書類
相続人全員に共通する書類は、被相続人と相続人の関係を確認するための書類で、どの申告でも用意が求められます。
具体的には、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本と住民票、印鑑証明書、遺言書又は遺産分割協議書の写し、マイナンバー確認書類などです。
令和6年3月からは、戸籍謄本の広域交付が始まり、最寄りの市町村等の窓口で被相続人の戸籍を一括請求できるようになっています。
参考:法務省|戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
財産の種類ごとに集める書類
相続財産の種類ごとに集める書類は、相続財産の内容や評価額を確認するために、財産の種類ごとに集めます。
預貯金や出資金なら金融機関の残高証明書と過去の通帳、有価証券なら証券会社の残高証明書(端株は、証券会社ではなく信託銀行が管理しており、照会先は信託銀行又は証券保管振替機構です。)、不動産なら登記事項証明書・固定資産税評価証明書・公図・地積測量図・名寄帳、生命保険なら死亡保険金の支払通知書と保険証券、債務なら借入金の残高証明書などです。
金融機関の残高証明書は、発行まで数日〜2週間程度かかるため、早めの手配が期限を守る要点となるでしょう。
特例・控除の適用時に追加で必要な書類
特例や控除を適用する場合、制度に応じた追加書類の準備が必要です。
申告期限までに遺産分割が整わない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」、「家なき子要件」(配偶者や同居親族がいない被相続人の宅地を、持ち家のない別居親族が相続する場合の特例枠)を使う場合は、相続人の賃貸借契約書、被相続人が老人ホームに入居していたなら入居契約書と介護保険被保険者証などが求められます。
適用する特例によって書類が変わるため、早い段階で適用可能性のある特例を洗い出しておくと、必要書類の見通しが立てやすくなるでしょう。
相続税申告の進め方
相続税申告の全体的な流れは、「相続人と相続財産の確定」「財産評価」「遺産分割協議」「申告書作成・提出」の4ステップです。
| ステップ | 主な作業 |
|---|---|
| 相続人・財産の確定 | 戸籍調査、財産目録の作成 |
| 財産評価 | 不動産・有価証券などの評価額算定 |
| 遺産分割協議 | 分割方法の合意、遺産分割協議書の作成 |
| 申告書作成・提出 | 申告書作成、税務署への提出、納税 |
相続人と相続財産を確定する
はじめに行うのは、法定相続人が誰かを確定させることと、被相続人が保有していた財産・債務の全部を洗い出す作業です。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(改製原戸籍謄本・除籍謄本を含みます。)と、法定相続人全員の戸籍謄本を取り寄せて確認します。
異父・異母兄弟や被相続人が認知した子など、思わぬ相続人が判明することもあるため、この工程は省略できません。
そして、相続人を確定させると同時に、預貯金、現金、不動産、有価証券、生命保険金・死亡退職金(みなし相続財産)、貴金属・美術品などのプラスの財産だけでなく、借入金・未払医療費・未払税金や葬儀費用といったマイナスの財産も含めて整理します。
なお、名義預金(※)や生前贈与を受けた財産も、加算漏れがないか確認します。
※「名義預金」や「名義保険」という考え方があり、その判定には、民法(裁判例等を含む。)と相続税法に精通した専門的な知見が必要です。
相続財産を評価する
洗い出した財産について、相続税法上の評価額を算出します。
預貯金や上場株式はほぼ時価で評価しますが、土地の評価には「路線価方式」又は「倍率方式」を用います。
「路線価方式」とは、国税庁が公表する路線価を用いて評価額を算出する方式で、主に市街地の宅地評価に用いられます。
「倍率方式」とは、固定資産税評価額に評価倍率を掛けて評価額を算出する方式で、路線価が付されていない地域で用いられます。
土地の形状・接道状況・利用制限などによって評価額が変わるため、評価は、相続税申告のなかでも専門性が高い工程です。
参考:財産評価基準書|国税庁
土地の価格の種類や路線価方式・倍率方式による計算方法、評価単位の区分方法を解説しています。
遺産分割協議を行う
遺言書がある場合は原則として遺言の内容に従い、遺言書がない場合、相続人全員で誰がどの財産をどのくらい取得するかを話し合い、合意内容を「遺産分割協議書」にまとめ、法定相続人全員が署名し実印で押印します。
相続人が1人の場合は不要です。
分割方法が決まらないままだと、原則として配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を申告時点で適用できず、いったん高い税額で申告することになります。
ただし、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、期限後に分割が整った時点で更正の請求により特例の適用を受けられます。
期限に間に合わせる意味でも協議の早期着手が求められます。
申告書を作成して税務署に提出する
相続人・財産・分割方法が確定したら、相続税の申告書(第1表〜第15表と付表)のうち該当するものを作成し、必要書類を添えて税務署に提出します。
提出方法は、①e-Tax、②郵送により業務センターへ送付、③所轄税務署への持参(時間外収受箱への投函)のいずれかから選び、納税も同じ期限内に完了させるのが原則です。
相続税は現金一括納付が原則ですが、現金一括納付等が困難な場合、延納・物納の制度もあります。
期限内に納めるのが難しい場合、納税の猶予や換価の猶予制度があります。
それぞれ申請期限や手続・要件が異なりますので、事前に税務署や税理士に相談することをおすすめします。
- e-Tax
- 郵送により業務センターへ送付
- 所轄税務署への持参(時間外収受箱への投函)
相続税申告で注意したい点
初めて相続税申告を進めるときにつまずきやすいのは、土地評価・名義預金・特例要件の3点です。
同じ財産でも判断次第で税額が変わる領域のため、注意点を事前に押さえておく価値は大きいと言えるでしょう。
| 注意点 | 影響 |
|---|---|
| 土地評価 | 評価方法によって税額が大きく変わる |
| 名義預金 | 判定が困難で追徴課税の対象になりやすい |
| 特例要件 | 判断を誤ると特例が使えず税額増 |
土地評価で税額が大きく変わる
土地は、相続財産のなかでも評価が難しく、評価方法の選び方や減価要因の見落としで税額が大きく変わる領域です。
間口が狭い土地、無道路地、がけ地、セットバックが必要な土地、都市計画道路予定地の区域内にある土地、高圧線下地など、相続税評価額を下げる可能性のある減価要因は複数あります。
これらの減価要因は、机上での資料確認だけでは把握しきれず、現地調査・役所調査を通じて初めて明らかになるケースも存在します。
土地評価の精度が、そのまま最終的な納税額に反映される工程と言えるでしょう。
評価が難しい土地の場合は、相続税に強い税理士に加えて、実地評価を通じて時価評価はもちろん、財産評価基本通達に定められた減価要因に精通した不動産鑑定士が関与することで、評価の妥当性を高められるケースもあります。
- 間口が狭い土地
- 無道路地
- がけ地
- セットバックが必要な土地
- 都市計画道路予定地の区域内にある土地
- 高圧線下地 など
名義預金の判定には困難を伴う
「名義預金」とは、口座の名義は配偶者や子・孫でありながら、実質的な出捐者や管理者が被相続人である預貯金のことです。
名義が被相続人以外であっても、実態として被相続人の財産と判断されれば相続財産に含める必要があります。
普通預金と定期預金では帰属の考え方が異なり、専門家でなければ、名義預金か否かの判定は困難であり、名義預金ではないと思っていたものが、税務調査で指摘を受け、追徴課税の対象になることがあります。
通帳の開設者や管理者・印鑑やキャッシュカードの保管者・入出金の実態及び出捐者などを確認し、被相続人の財産と総合的に判断できるものは漏れなく計上することが求められます。
その判断に迷うときには、相続税法等に精通した専門家に相談することをおすすめします。
- 通帳の開設者や管理者
- 印鑑やキャッシュカードの保管者
- 入出金の実態
- 出捐者 など
特例適用の要件で判断を誤ることがある
節税効果の大きい特例には細かい要件が定められており、要件の理解を誤ると特例が使えず、税額が跳ね上がりかねません。
例えば、小規模宅地等の特例では、被相続人が老人ホームに入居していた場合や二世帯住宅の場合など、適用可否が判断しにくい場面が少なくありません。
同居の実態・住民票の記載・介護認定の有無といった事実関係を事前に確認する必要があります。
「使えるはず」で進めて後から要件を満たさないと分かるより、早い段階で相続専門の税理士に相談して要件を確認するほうが安全でしょう。
相続税申告を税理士に依頼するかどうかの判断
相続税申告は自分で行うこともできますが、財産構成や特例適用の有無によって難易度が変わります。
現預金中心でシンプルなら自力での申告も現実的ですが、土地が絡む場合や特例を複数使う場合など、相続専門税理士に依頼するほうが結果的に有利になることも少なくありません。
税理士の選び方次第で申告後の納得感が変わると考えられるため、判断の観点を整理しておきます。
| 選択肢 | 向いているケース |
|---|---|
| 自分で申告 | 財産が現預金中心・特例利用が少ない |
| 税理士に依頼 | 土地を含む・特例活用・時間が取れない |
| 選び方 | 相続専門か、土地評価に強いか、確認する |
自分で申告しやすいケース
自分で相続税申告を行いやすいのは、遺産の内容がシンプルで特例の利用が限定的なケースです。
財産が現預金中心で土地を含まない、又は土地があっても自宅のみで路線価方式が明確に使える、相続人が1〜2人で遺産分割協議も円満に済んでいる、といった条件が整うときは自力で完了させることも現実的でしょう。
ただし、書類収集や税務署への確認対応にかかる時間は想定より大きくなりやすく、平日の時間確保が難しい場合は相続専門の税理士への依頼を検討するのがおすすめです。
税理士への依頼を検討したいケース
土地や非上場株式など評価の難しい財産を含む場合、複数の特例を組み合わせて適用する場合、複数の相続人において遺産分割の調整が必要な場合、申告期限まで3か月以内など時間的余裕が少ない場合など、税理士への依頼を検討したほうがよいケースと言えるでしょう。
相続税申告は、「相続税法の知識」と、「不動産の評価力」の両方が求められる業務であり、税理士といっても土地評価に精通しているわけではないため、税理士選びが結果を左右する可能性があります。
税理士に依頼すれば、必要書類の整理や収集の分担、財産評価、遺産分割による税額の試算、申告書の作成を並行して進められます。
限られた時間の中でも、各相続人の事情や税負担を踏まえて遺産の分け方を検討し、財産を適正に評価した上で、適切な税額を申告・納付しやすくなります。
納め過ぎや申告漏れだけでなく、検討が不十分なまま遺産分割を決めてしまうリスクも抑えられるため、相続手続全体を円滑に進めやすくなります。
- 土地や非上場株式など、評価の難しい財産を含む場合
- 複数の特例を組み合わせて適用する場合
- 複数の相続人において、遺産分割の調整が必要な場合
- 申告期限まで3か月以内など、時間的余裕が少ない場合
相続を専門とする税理士を選ぶ観点
相続を専門とする税理士を選ぶ際、相続と不動産両方への専門性、遺産分割等の提案力、税務調査対応の実績、顧問税理士との連携、相続後の不動産相談への対応力等を確認するのがおすすめです。
- 相続税だけでなく、不動産にも精通しているか(不動産の相続税申告の取扱実績、土地評価への対応力など)
- 財産評価基本通達に精通した不動産鑑定士などと連携できる体制があるか
- 遺産分割協議が難航した場合に、複数の分割案を提示してくれるか
- 税務調査を見据えた事前対策と、実際に調査が入った際の対応まで任せられるか
- 既に顧問税理士がいる場合、その税理士と連携が取れるか
- 申告後も、相続した不動産の管理・活用について相談できるか
紹介や付合いを起点に依頼先を決める場合でも、これらの観点は依頼前に確認しておきたいポイントです。
税理士報酬は、財産総額に応じた料金体系が一般的です。
遺産総額の0.5〜1.0%程度が相場の一つとされる水準ですが、安さだけでなく、上記のポイントを踏まえ、複数の観点で相談先を選びましょう。
まとめ
相続税申告は、相続開始から10か月以内という限られた期間の中で、財産の把握・評価・分割協議・書類収集・申告書作成のすべてを進めていく手続です。
基礎控除額を超える課税対象の遺産があれば申告が必要となり、税額をゼロにできる特例を使うためにも申告書の提出が要件となります。
書類収集の負担、土地評価の難しさ、名義預金や特例要件の判断ミスといった落とし穴が多い領域です。
土地を含む相続や、特例活用の余地が大きい相続では、生前や相続開始直後のタイミングで専門家に相談することが、期限までの負担軽減と適正な納税額の両立につながるでしょう。
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