
被相続人から相続した財産の山林が、「保安林」の場合があります。
保安林は通常の土地とは異なり、固定資産税の通知が来ないことも多いため、相続税評価額がいくらになるのか見当がつかずに不安を感じる方も多いものです。
この記事では、保安林の相続税評価額の計算方法や計算式、評価額が減額される仕組みについて解説します。
この記事を読むことで、ご自身の保安林がどの程度の価値として評価されるのか、その目安を理解できるようになります。
もくじ
保安林とはどのような森林か
保安林とは、不動産登記規則で定められた「地目」の一つです。
通常の山林とは区別されており、登記簿上で確認することができます。
相続税の計算に入る前に、まずは保安林という制度そのものについて理解を深めておくことが重要です。
ここでは、保安林の定義や確認方法について整理します。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 定義 | 公益目的(水源涵養、災害防備など)のために農林水産大臣や都道府県知事が指定した森林 |
| 目的の例 | 水源涵養保安林、土砂流出防備保安林、防風保安林など計17種類 |
| 主な制限 | 立木の伐採制限、植栽の義務、土地の形質変更の制限 |
| 所有者の義務 | 指定された指定施業要件(森林法33条)に従って森林を管理する義務 |
公益目的のために指定された森林
保安林とは、森林法に基づいて指定される、公共の利益を守るための森林のことです。
例えば、美味しい水を育む「水源涵養保安林」や、土砂崩れを防ぐ「土砂流出防備保安林」などが代表的です。
これらの森林は、所有者の私有財産であると同時に、社会全体にとっても重要な資産であるため、国や地方公共団体によって厳格に管理されています。
所有者であっても自分勝手に木を切ったり開発したりすることはできません。
参考:保安林制度|林野庁
伐採および伐採後の造林の届出等の制度|林野庁
保安林かどうかは登記事項証明書で確認
相続した山林が保安林かどうかを確認する最も確実な方法は、法務局で取得できる「登記事項証明書(不動産登記簿謄本)」を見ることです。
地目の欄に「保安林」と記載されていれば、それは間違いなく保安林です。
ただし、稀に地目が「山林」のままであっても、実際には保安林として指定されている場合もあります。
より確実に確認するためには、その山林がある都道府県の林務担当部署や市町村等の役場で「保安林台帳」を閲覧するか、問合せを行うことをおすすめします。
相続税評価では「山林」として扱われる
相続税の財産評価においては、地目は9種類に大別されます。
この場合、「山林」には不動産登記法上の「保安林」も含まれることになっています。
したがって、保安林を相続した場合の評価は、原則として「山林」の評価方法(純山林、中間山林、市街地山林など)に準じて行われることになります。
参考:土地の地目の判定|国税庁
保安林の相続税、なぜ評価が難しい?
保安林を相続する際に多くの方が直面するのは、その評価方法の特殊さと難しさです。
一般的な宅地や通常の山林であれば、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書を見れば評価額が記載されていますが、保安林の場合は事情が異なります。
例えば、登記上の地目が「山林」であっても、その所在する地域や現況によって評価方法が大きく異なるためです。
ここでは、なぜ保安林の評価が一筋縄ではいかないのか、その主な理由を解説します。
| 項目 | 一般的な山林 | 保安林 |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 課税される | 原則として非課税 |
| 評価証明書 | 評価額の記載あり | 評価額の記載がない(0円)場合が多い |
| 相続税評価 | 路線価方式又は倍率方式 | 倍率方式(近隣山林の評価を準用) |
| 利用制限 | 比較的緩やか | 伐採や開発が厳しく制限される |
通常の山林との評価方法が異なる
通常の山林は、その所在地によって評価方法が異なります。
市街地から遠く離れた、宅地の価額の影響を受けない「純山林」や、その中間の「中間山林」などは、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価する「倍率方式」が用いられます。
一方で、市街地にある「市街地山林」は、路線価地域にある場合、その山林が宅地であるとした場合の価額から、宅地に転用するためにかかる造成費を控除して評価する「宅地比準方式」がとられるなど、区分によって計算プロセスが複雑になります。
市街化区域内にある宅地以外の土地の相続税評価額を計算するための「宅地比準方式」について、具体的に解説します。
固定資産税が非課税で評価額がない
保安林は、その公益性の高さから固定資産税が非課税とされています※。
そのため、市町村から届く固定資産税の課税明細書を見ても、保安林の欄には金額が記載されていないか、あるいは評価額がゼロとなっているケースがほとんどです。
相続税の計算で一般的に用いられる「倍率方式」は固定資産税評価額を基礎とするため、その基礎となる数字が手元にないことが、評価を難しくさせている大きな要因といえます。
※地方税法348条2項7号により定められています。
参考:第4節 山林及び山林の上に存する権利|国税庁
相続税評価額と固定資産税評価額の違いや確認方法、評価の見直しで節税になるケースを解説しています。
伐採制限があり価額の判断が複雑
保安林には、水源の確保や災害防止といった目的のために、木を伐採したり土地の形を変えたりすることに対して厳しい制限がかけられています。
この制限の厳しさは保安林の種類や指定内容によって異なり、全く伐採できない場合もあれば、一部なら伐採できる場合もあります。
この制限の強弱が土地の財産価額に直結するため、ご自身の保安林がどのような制限を受けているかを正確に把握しないと、正しい評価額を算出することができません。
参考:保安林制度|林野庁
保安林の相続税評価額の計算方法
ここからは、具体的な相続税評価額の計算手順について解説します。
保安林の評価は、基本的には「倍率方式」を用いますが、前述のとおり固定資産税評価額がない場合の対応がポイントになります。
| 手順 | 内容 | 計算式等の概要 |
|---|---|---|
| 1.自用地価額の算出 | 本来の土地の価値を計算 | 近隣の純山林の固定資産税評価額 × 評価倍率 |
| 2.控除額の計算 | 制限による減額分を計算 | 自用地価額 × 控除割合 |
| 3.評価額の確定 | 最終的な相続税評価額 | 自用地価額 - 控除額 |
近隣の山林を参考に自用地価額を算出
固定資産税評価額が付されている地域でも、宅地への転用が見込めない市街地山林などは、近隣の「純山林」の価額をもとに評価します。
純山林とは、市街地から遠く離れており宅地の価額の影響を受けない山林のことです。
急傾斜地などで多額の造成費用がかかる(評価計算上、0又はマイナスとなる)土地は、転用の経済合理性を欠くと判断されます。
このような場合、近隣の純山林(市街地から離れた山林)の価額を参考に計算を進めます。
市町村の資産税課などで確認できる課税情報が、適正な単価を把握するための手がかりになります。
自用地価額に国税庁の評価倍率を乗じる
近隣の山林の単価が分かったら、それにご自身の保安林の面積(地積)を掛け合わせ、更に国税庁が公表している「評価倍率」を乗じます。
この評価倍率は、国税庁のホームページにある「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で地域ごとに確認できます。
こうして算出された金額が、その土地が制限のない通常の山林だった場合の本来の価額、すなわち「山林の自用地価額」となります。
参考:財産評価基準書|国税庁
更に伐採制限による控除割合を乗じる
保安林には伐採制限があるため、通常の山林と同じ価値があるとは言えません。
そこで、先ほど算出した自用地価額から、制限の厳しさに応じた一定の金額を差し引くことができます。
これを「評価減」といいます。
具体的には、自用地価額に国税庁が定めた「控除割合」を乗じて控除額を算出し、それを自用地価額から差し引いたものが、最終的な保安林の相続税評価額となります。
参考:財産評価基本通達123(保安林等の立木の評価)|国税庁
評価額が減額される控除割合とは?
保安林の評価額を大きく左右するのが「控除割合」です。
この割合は、その保安林にかけられている制限がどれくらい厳しいかによって決まります。
適正な評価には、現地調査と自治体での調査で土地の「標準的でない部分」を正確に把握しなければなりません。
制限が厳しければ厳しいほど、自由に利用できないため評価額は低くなります。
| 伐採制限の種類 | 制限の内容 | 控除割合 | 評価額の割合 |
|---|---|---|---|
| 一部皆伐 | 伐採の方法として特定の樹種を定めないもの | 30% | 70% |
| 択伐 | 抜き切りによる伐採のみ許可されるもの | 50% | 50% |
| 単木選伐 | 特定の条件下での選木伐採のみ許可されるもの | 70% | 30% |
| 禁伐 | 伐採が一切禁止されているもの | 80% | 20% |
参考:財産評価基本通達123(保安林等の立木の評価)|国税庁
伐採の制限区分によって割合が違う
控除割合は、法律に基づいて指定された伐採制限の種類に応じて細かく決められています。
この区分は、その保安林が指定された際に定められた「指定施業要件」によって確認できます。
ご自身の山林がどの区分に該当するかは、都道府県庁の林務課などで保管されている「保安林台帳」を確認するか、又は「保安林決定通知書」などを参照することで判明します。
この区分を間違えると評価額が大きく変わってしまうため、慎重な確認が必要です。
一部皆伐の控除割合は3割
比較的制限が緩やかな「一部皆伐」の場合、控除割合は30%(0.3)と定められています。
これは、評価額から3割を差し引くことができるという意味です。
例えば、自用地価額が1,000万円の山林であれば、そこから300万円を控除し、残りの700万円が相続税評価額となります。
多くの保安林はこの区分に該当することが多いのですが、必ず公的な書類で確認するようにしてください。
禁伐の場合は控除割合が8割になる
最も制限が厳しい「禁伐」の場合、控除割合は80%(0.8)にもなります。
これは、木を一切切ることができないため、経済的な価額が著しく低いとみなされるからです。
この場合、自用地価額が1,000万円であっても、800万円が控除され、相続税評価額はわずか200万円となります。
このように、保安林の評価においては、制限の内容を正しく反映させることで、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
保安林の相続で注意すべきポイント
保安林の相続は、単に税金の計算をして終わりではありません。
「森林法」などの不動産関係諸法令による規制を正確に把握する必要があり、将来的な管理・処分についても特有のルールが存在します。
ここでは相続発生後に必ず知っておくべき注意点をまとめます。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 届出義務 | 土地の所有者となった日(相続開始の日)から90日以内に市町村へ届出 |
| 指定解除 | 原則として個人的な理由では解除できない |
| 売却 | 買い手がつきづらく、価格も低くなる傾向がある |
市町村への所有者届出が90日以内に必要
森林法により、保安林を含む地域森林計画対象民有林を相続した場合は、その土地がある市町村の長に対して届出を行う義務があります(森林法10条の7の2第1項)。
この届出の期限は、土地の所有者となった日(相続開始の日)から90日以内と定められています。
遺産分割協議がまだ終わっていない場合でも、相続人の共有物として期限内に届出を提出する必要があります。
土地の問題を事前に整理し、こうした法的手続を適切に行うことは、残された家族に負担やトラブルを残さないための「思いやり」として非常に大切です。
届出を怠った場合、10万円以下の過料が科される(森林法213条)可能性があるため、忘れずに手続を行いましょう。
個人的な理由での指定解除はできない
相続した保安林を使わないからといって、簡単に保安林の指定を解除することはできません。
保安林の指定解除が認められるのは、公益上の理由で指定の必要がなくなった場合や、公共事業のためにやむを得ず転用する場合など、極めて限定的なケースに限られます。
「税金を納めたくないから」「家を建てたいから」といった所有者の個人的な都合では解除は認められないのが原則であることを理解しておく必要があります。
売却は可能だが買い手を見つけるのが難しい
保安林であっても、売買自体は法律で禁止されていません。
しかし、伐採や開発に厳しい制限がある土地を欲しがる買い手は非常に少ないのが現実です。
購入しても自由に使えないため、通常の山林に比べて市場価格は低くなる傾向があります。
もし売却を検討する場合は、森林組合や近隣の山林所有者に相談するか、山林売買に詳しい専門の不動産業者を探すなどの対策が必要になります。
家族にトラブルを相続させないよう、早めに専門家へ相談し、境界確定などの整備を進めておくことがおすすめです。
相続税の専門家である税理士に相談する
ここまで解説してきたように、保安林の評価は専門的な知識と調査が必要です。
ご自身だけで判断して申告を行うと、評価額を高く見積もりすぎて税金を納めすぎたり、逆に安く見積もりすぎて税務調査で指摘を受けたりするリスクがあります。
そのため、税理士に相談することが安全です。
最後に税理士に相談するメリットを紹介します。
| 相談先の選び方 | チェックポイント |
|---|---|
| 専門性 | 土地評価、特に山林や特殊な土地の評価に慣れているか |
| 実績 | 相続税申告の年間件数や過去の事例が豊富か |
| 対応 | 節税だけでなく、手続や将来の活用まで親身に相談に乗ってくれるか |
特殊な土地評価は専門知識が必要
保安林の評価には、自治体での資料収集や、現地調査による現況確認など、多くの手間と専門知識が求められます。
特に「近傍比準」による自用地価額の算出や、適切な「控除割合」の適用判断は、経験豊富な専門家でないと難しい場面が多々あります。
また、保安林以外にも相続財産がある場合、全体としての節税対策を考える上でも、土地評価に精通した税理士のサポートが必要です。
相続税申告の実績が豊富な税理士を選ぶ
税理士なら誰でも土地の評価が得意というわけではありません。
企業の決算業務を主に行っている税理士もいれば、相続税を専門に扱っている税理士もいます。
保安林のような特殊な評価が必要な場合は、「相続税に強い」税理士を選ぶようにしましょう。
ホームページなどで過去の解決事例や申告実績を確認し、山林の評価経験があるかどうかをチェックすることが大切です。
初回無料相談を活用して疑問を解消する
多くの税理士事務所では、初回の相談を無料で受け付けています。
まずはこの無料相談を利用して、ご自身の状況を話してみることをおすすめします。
そこで「保安林の評価について詳しいか」「手続の流れを分かりやすく説明してくれるか」などを確認し、信頼できるパートナーを見極めることが、円滑な相続手続への第一歩となります。
保安林の相続税評価なら実績豊富なフジ相続税理士法人へ
保安林は一般的な山林よりも評価が難しく、土地の形状や法規制を正確に把握する高度な専門知識が求められます。
評価の仕方一つで、納税額に大きな差が生じることも珍しくありません。
フジ相続税理士法人は、相続専門の税理士だけでなく、土地評価のプロフェッショナルである「不動産鑑定士」が在籍しているのが大きな強みです。
税務と不動産鑑定の両面から土地を精査することで、複雑な権利関係にある保安林でも適正かつ納税者に有利な評価額を算出することが可能です。
地主様や不動産オーナー様に選ばれて32年以上、累計10,000件を超える豊富な実務経験に基づき、お客様ごとの状況に合わせた最適な解決策をご提案します。
保安林の評価や手続に不安がある方は、まずは「初回無料相談」にてお気軽にお問い合わせください。
今のお悩みを、相続と不動産の専門家に相談してみませんか?初回のご相談は無料です。オンライン相談にも対応していますので、家にいながら、専門家にご相談いただけます。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- 保安林は固定資産税が非課税のため、相続税評価では近隣の山林価額を参考にする「近傍比準」を用いる。
- 伐採制限の厳しさに応じて30%〜80%の控除が適用され、通常の山林よりも評価額が低くなる。
- 相続開始の日から90日以内の届出義務がある。売却も困難で、評価や手続に不安がある場合は早めに専門家へ相談することが重要である。
保安林の相続は複雑に見えますが、正しい評価方法を知れば過度な税負担をおそれる必要はありません。
まずは手元の資料を確認し、適切な一歩を踏み出してください。






