
7月に入り、今年も相続税路線価が公表されました。
不動産をお持ちの方にとっては、資産評価や相続税への影響を改めて意識するきっかけになるのではないでしょうか。
近年は税制改正による評価方法の見直しも続いており、「今の保有形態のままでよいのだろうか」とお悩みの声も増えています。
そこで今回は、不動産経営の法人化に興味をお持ちの方に向けて、法人化すべきか否かを判断するための7つの比較軸を整理します。
もくじ
【初級編】基本となる比較軸
①税率
法人化を検討するうえで、まず押さえておきたいのが税率の違いです。
法人税と所得税の税率比較は、以下の通りです。

②社会保険・扶養
次に見ておきたいのが、社会保険や扶養との関係です。
法人化のメリットのひとつに、賃料収入を役員報酬などの形で家族(配偶者・子・孫等)に分配できる「所得分散」がありますが、受け取る側の状況によっては思わぬ影響が出ることがあります。
例えば、妻に役員報酬を支給した場合では、その妻が別途パート勤務をしたことで収入が一定額を超え、夫の扶養から外れてしまったケースがありました。
こうした場合、妻自身に税負担や社会保険料負担が生じ、家族全体の手取りがかえって減ってしまう例もあります。
その他、すでに勤め先のある方であれば、副業規定に抵触するケースも考えらえます。
法人は所得分散がしやすい反面、こうした点にも目を配る必要があります。
一方、個人事業の場合は所得分散の自由度こそ高くありませんが、社会保険や扶養に関しては法人ほど細かく気を配らずに済み、シンプルに運営しやすいという面があります。
③手間・コスト
法人事業では、税務申告や社会保険の手続き、法務対応など管理しなければならない事項が数多くあり、それに伴い、税理士や司法書士などへの報酬も個人事業に比べて高くなる傾向があります。
個人事業の場合はこれらの負担が比較的軽く、身軽に運営できます。
この点では個人事業に軍配が上がります。
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【中級編】検討を深める比較軸
④貸付用不動産評価
令和8年の税制改正により、貸付用不動産の相続税評価方法が見直されました。

この見直しは個人所有の不動産が対象です。
相続開始前5年以内に取得・新築した貸付用不動産については、これまでの路線価等による評価ではなく、通常の取引価額をベースに評価されることになります。
相続直前の駆け込み取得による節税は、事実上難しくなりました。
一方、法人の場合は、従来どおり、株式評価において相続開始前3年以内に取得した不動産は通常の取引価額で評価しなければならないと規定されています。
個人所有の場合より縛りの期間は短いものの、いずれにせよ、長期的な視点での計画が求められます。
⑤資金コントロール性
②でも触れたとおり、法人事業と個人事業では収益の分配方法が異なります。
法人では、賃料収入を役員報酬として家族へ分配したり、家族(役員・従業員)を保険の被保険者とする保険契約に加入して将来的な分配につなげたりすることが一般的で、その金額は法人側で調整できます。
分配を増やせば個人への還元に、抑えれば法人内への留保となり、次の投資資金の確保にもつなげられます。
一方、個人事業でも給与支給は可能ですが、同一生計の親族への給与を経費計上するには一定の要件があります。
生命保険料控除にも限度額が設けられており、資金コントロールの柔軟性は高くありません。
【上級編】相続を見据えた比較軸
⑥将来の相続税への影響
個人事業の場合は、賃料収入が蓄積された資産がそのまま相続財産となり、相続税が課税されます。
法人事業(出資者が被相続人)の場合は、法人の株式が相続財産となり、その評価額には法人に内部留保された利益が反映されます。
相続人それぞれの相続税負担は、相続時の株主構成によって変わります。
「法人化すれば相続税対策になる」と思われがちですが、法人内に蓄積した利益も、最終的には相続税で回収される可能性がある点は押さえておきたいところです。
ただし、子だけが株主となっている場合は、法人内に利益が蓄積されても親の相続財産には直接影響しません。
一方で、子が経営権を握ることになる点には注意が必要です。
⑦相続までの期間
最後に重要となるのが「相続までの期間」です。
期間が長いと見込まれる場合は、資金コントロールの柔軟性が高い法人事業が力を発揮しやすくなります。
一方、期間が短いと考えられる場合は、あえて法人化せず、シンプルな対策に徹するほうが得策なこともあります。
法人化するか否か?
以上、7つの比較軸を整理しました。
7つの比較軸のまとめ
| 比較軸 | 法人事業の特徴 | 個人事業の特徴 |
|---|---|---|
| ①税率 | 比例税率(税率は概ねフラット) 所得が増えても税率が大きく変わらない | 累進税率(5%~45%+住民税) 所得が増えるほど税率が上がる |
| ②社会保険・扶養 | 所得分散の自由度が高い分、目配りが必要 | 所得分散の自由度が低い分、目配りが少なく済む |
| ③手間・コスト | 管理事項が多く、コストがかかる | 管理事項が比較的少ない |
| ④貸付用不動産評価(令和8年税制改正) | 株価評価において、取得後3年以内の貸付用不動産は取引価額相当額で評価 | 取得後5年以内の貸付用不動産は取引価額相当額で評価 |
| ⑤資金コントロール性 | 役員報酬・保険等で調整しやすく、留保や再投資の柔軟性が高い | 調整の柔軟性は比較的低く、資金の流れはシンプル |
| ⑥将来の相続税への影響 | 株式が相続財産となる 株主構成により影響が変わる | 不動産・賃料収入の蓄積が相続財産となる |
| ⑦相続までの期間 | 期間が長い場合にメリットを発揮しやすい | 期間が短い場合に対策を絞りやすい |
どの軸でも一方が有利と断定することはできず、現在の税負担を重視するか、将来の相続税対策を重視するかといった考え方によっても最適な答えは変わってきます。
また、法人化以外の手法が適している場合もあります。
相続までの期間の見通しや資産状況をもとに、具体的な条件を整理しながらじっくり検討を進めていくことが、望ましい〝法人化の花道〟だと思います。
「そろそろ真剣に考えたい」とお考えの方は、一度ご相談ください。
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