セットバックが必要な宅地の土地評価における現地調査と役所調査のポイント

セットバックが必要な宅地は、通常の相続税評価額に対して7割相当の控除が認められています。

セットバックの要否判定を行うには、評価対象地が接するすべての道路の種別や認定幅員、管理幅員等の確認など、さまざまな調査が必要となるため、あらかじめ調査すべき内容を把握しておくことが、作業効率を上げる鍵となります。

対象地を効率的に調査するためのポイントを、実務目線で解説します。

この記事でわかること

  • 現地調査でセットバックの現況を確認するときのポイント
  • すでにセットバックが完了している場合でも現地調査をすべき理由
  • セットバックの要否判定に必要な情報を役所で取得する際のポイント

「セットバックを必要とする宅地」の評価の概要

建築基準法42条2項に規定される道路に接する土地が、4mの道路幅員を確保するために道路との境界を土地側に後退することをセットバックといいます。

建築基準法42条2頂

都市計画区域若しくは準都市計画区域の指定若しくは変更又は第六十八条の九第一項の規定に基づく条例の制定若しくは改正によりこの章の規定が適用されるに至った際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離ニメートル(同項の規定により指定された区域内においては、三メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は、ニメートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。

ただし、当該道がその中心線からの水平距離ニメートル未満で崖地、川、線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては、当該崖地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離四メートルの線をその道路の境界線とみなす。

セットバックの取り方

建築基準法42条では道路を原則として幅員4m以上のものと規定しており、同条に定める道路を建築基準法上の道路といいます。土地に建築物を建てるためには、原則として建築基準法上の道路に2m以上接道する必要があります(都市計画区域外を除く)。

しかし、同条2項では、この規定が適用される以前から建築物が建ち並んでいる幅員4m未満の道路で特定行政庁の指定したものについては、建築基準法上の道路とみなすこととしています。

これが「42条2項道路」と呼ばれるもので、原則としてその中心線から2mの線を宅地との境界線とみなします。

42条2項道路に接する土地で建物の建て替えや増改築をするときは、道路幅員が4mとなるように、原則として道路の中心線から両側に2mずつ後退した線までを道路敷きとして提供しなければなりません(セットバック)。

なお、片側が河川やがけ地等で物理的に後退できないときは、反対側の土地の境界から評価対象地側へ4mの一方後退をします。

セットバックの対象となる部分の土地は、現在の利用には支障がなくても将来的に建物が建てられないことから、その財産的価値はセットバックが必要でない土地に比べて減少します。

したがって、セットバック部分は評価額の7割相当を控除して評価します。

セットバック地積の算出は三斜求積によるほか、CADソフトを用いると便利です。

また、間口距離に後退幅員を乗じて簡便的に算出する場合もあります。

財産評価基本通達24-6「セットバックを必要とする宅地の評価」

建築基準法第42条「道路の定義」第2項に規定する道路に面しており、将来、建物の建替え時等に同法の規定に基づき道路敷きとして提供しなければならない部分を有する宅地の価額は、その宅地について道路敷きとして提供する必要がないものとした場合の価額から、その価額に次の算式により計算した割合を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価する。

セットバックの算式

セットバックの現地調査のポイント

道路幅員

現地のセットバック

評価対象地が接する道路の現況幅員を測定し、4m未満であれば42条2項道路に該当する可能性があります。

幅員は役所調査時に道路台帳等で確認することもできますが、必ずしも最新の道路整備状況が反映されているとは限りません。

現況幅員と異なることがありますので、現地での測定も必須です。

また、評価対象地の周辺の土地の状況から2項道路であることが推察できることもあります。

例えば、同じ路線(道路)沿いにある比較的新しい建物の敷地だけ道路から奥に後退しているのがわかりやすい例です。

セットバック状況および後退幅員

道路幅員が4m未満である場合や、明瞭ではないが2項道路と思われる場合、または先に役所調査で2項道路であることが判明している場合は、評価対象地がセットバックを済ませているかどうかを確認します。

セットバックが未済の場合

評価対象地のセットバックが完了していないときは、どれくらいの道路後退が必要なのかを調べます。

評価対象地の隣接地や向かいの土地等、周辺にセットバックしている土地があれば、参考としてその後退幅員を測定します。

後退幅員の測定

対面の土地のセットバックが完了している場合は、道路中心の位置を見誤らないよう注意してください。

なお、周辺ですでにセットバックが行われていると、道路に道路中心を表す鋲が打たれていることもあります。

評価対象地の反対側が河川やがけ、線路敷等になっていて物理的に後退できない場合は評価対象地側に一方後退する必要がありますので、対面の土地の状況も確認します。

一方後退の例

セットバックが完了している場合

セットバックが完了した部分の土地は通常、公衆用道路として課税対象になりませんが、中には分筆されておらず評価対象地の面積に含まれたままになっていることがあります。

そのような場合は当該部分の利用状況により評価方法が異なりますので、利用状況を確認します。

セットバックが完了し不特定多数の者が通行できる状態にある場合は、当該部分の地積を課税対象から除外します。

一方、特定の者の通行等に使用されている場合は、財産評価基本通達24「私道の用に供されている宅地の評価」に基づき、自用地価額の30%相当額で評価します。

  • 不特定多数の者の通行の用に供されているもの→評価しない
  • 専ら特定の者の通行の用に供されているもの→自用地評価額の30%に相当する価額

私道の評価に関する現地調査や役所調査のポイントは、こちらをご覧ください。

【相続税】「私道の用に供されている宅地」の現地調査と役所調査のポイント

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セットバックの役所調査のポイント

道路幅員

評価対象地が接面するすべての道路の種別および認定幅員、管理幅員等を調べます。

担当窓口の名称は役所によって異なりますが、道路課や道路管理課等が一般的です。

なお、市区町村の役場では国道や県道の情報は取り扱っていません。

別途、それらを取り扱う事務所(整備事務所や土木事務所等)で調べる必要があります。

公道(道路法上の道路)の場合

接面する道路が公道(道路法上の道路)であれば、窓口で道路台帳平面図等を閲覧し、その幅員を確認することができます。

幅員の種類には、役所が公道として認定している幅員(認定幅員)や管理している幅員(管理幅員)等があり、場合によっては現況幅員も把握されていることがあります。

その数字が何の幅員を示すのかを確認しましょう。

同時に、道路台帳平面図や区域線図等の写しを取得します。

公道であり、かつ官民境界の査定が行われている場合は、境界確定図も入手できます。

幅員を調べるための図面は役所によって名称が異なり、また種類も異なりますので、何を表す図面なのかを確認し、必要に応じて写しをもらいます。

後で見返したときに評価対象地の位置がわからなくなってしまうことがありますので、このときに鉛筆で印を付けておくことをお勧めします。

添付資料として後から使用する可能性がありますので、消せるように鉛筆で書きます。

なお、台帳上の幅員はあくまでも図面上の数値にすぎず、現況と異なることも多いため、窓口で聴取した数値を現地調査の結果と照合する必要があります。

公道でない場合

調査対象の道路が道路法上の道路でない場合は、役所では幅員を把握していないのが通常ですので、現地で調査します。

ただし、位置指定道路であれば、私道であっても位置指定道路図面により幅員等を確認できる可能性があります。

位置指定道路など、土地評価の実務で頻出する建築基準法の条項については、こちらも併せてご参照ください。

【建築基準法】相続税の役所調査の時短術。覚えておきたい条項6選

セットバックや容積率の判定など、土地評価には建築基準法への理解が不可欠です。 役所調査では、条項に沿った専門用語が飛び交うため、基礎的な部分を頭に入れておくこと…

建築基準法上の道路種別

道路幅員が4m未満であるときは建築基準法上の道路種別を確認します。

道路種別を取り扱う窓口は幅員を管理している窓口とは異なることが多く、建築課や建築指導課といった建築関係の窓口であることが一般的です。

なお、建築主事のいない小規模な自治体では確認できません。別途、合同庁舎や土木事務所等で聴取します。

建築主事

建築物の建築等の確認を行う市町村または都道府県の職員のこと。

都道府県や政令で指定する人口25万人以上の市においては必ず設置しなければならない。

なお、建築主事のいる市町村の長や都道府県の知事を特定行政庁という。

セットバックの必要性および後退幅員

42条2頂道路に該当する場合

評価対象地の接する道路の種別が42条2項道路であれば、セットバックを必要とする土地に該当する可能性があります。

ただし、すでにセットバックが完了していることがありますので、2項道路であれば必ず該当するとは限りません。

役所によっては2項道路沿いの土地のセットバック状況を把握していることがありますので聞いてみるとよいでしょう。

セットバックが必要と認められる場合、その後退幅員を調べます。

一方後退や、条例等に基づき4m以上に拡幅しなければならないケース等もあるため、原則通り中心線からの2m後退が適用されるのか、それ以外なのかを調べます。

また、セットバック状況や後退幅員を把握する資料として建築確認申請時に提出される建築計画概要書も有用ですので、写しを取得するとよいでしょう。

役所によっては写しの交付が不可のところもありますので、聴取内容を書き留めるか、公文書の開示請求を行います。

評価対象地の建築計画概要書がない場合、同一路線上の土地のものがあれば後退幅員の参考になります。

建築確認および完了検査の状況について

建築基準法により、建築物の新築や増改築を行う際には建築確認を受けることが義務付けられています。土地に接する道路が2頂道路に該当する場合、セットバックしなければ原則として建築確認を受けることができません。

したがって、比較的新しい建物が現に建っているならば、建築確認を受けていると考えられますので、セットバックも完了しているものと推察できます。

しかし、何らかの理由でセットバックしていないケースもありますので、それだけで判断せず建築確認の状況を調査すべきです。

評価対象地の建物が建築確認を受けているかどうかは、建物の所有者でなくとも窓口で照会することができます。

また、建築計画概要書により建物の配置状況や後退幅員についても確認できます。

さらに、建築確認を受けた建物が計画通りに建てられたか、すなわち完了検査を受けているかどうかも確認します。

完了検査を受けていなければ、実際にセットバックが済んでいるかどうかはわかりません。完了検査で問題がなければ検査済証が交付されています。

42条3頂道路に該当する場合

建築基準法42条3項では、土地の状況により規定通りの拡幅がどうしても困難な場合、特定行政庁は建築審査会の同意を得て例外的に幅員2.7m以上4m未満の道路を指定することができるとしています。

したがって、これに該当する場合は道路中心からの後退距離が1.35m以上2m未満となります。

42条1項5号道路(位置指定道路)に該当する場合

42条1項5号道路とは特定行政庁からその位置の指定を受けて築造された道路で、位置指定道路とも呼ばれます。

位置指定道路図面と現地の利用状況は一致するべきですが、実際には道路部分が宅地として利用されているケースもあります。

このような場合は、原則として図面等に基づき位置指定道路を復原した上での道路後退が求められます。

条例や地区計画等に基づくセットバックを必要とする場合

建築基準法に基づくセットバック以外にも、各行政庁の条例・地区計画等による細街路の拡幅事業や開発指導要綱等に則った宅地開発などが行われていることがあり、それらに基づく道路後退が求められる場合があります。

後退すべき幅員や拘束力の程度(努力義務なのか、条例等に基づく義務なのか)を窓口で確認します。

セットバックが必要な宅地の評価例

セットバックの机上調査

セットバックの机上調査に必要な公図

公図を確認したところ、評価対象地と同一路線上に所在する土地において、土地と前面道路の間に細長い形状の筆が存在していることが見て取れた。

このことから、道路幅員の拡幅のために土地の一部を道路敷きとして提供し、当該部分を分筆したことが推察された。

セットバックの現地調査

現地で評価対象地の前面道路幅員を測定したところ3.5mあった。

評価対象地の正面は比較的新しい家屋の敷地でありすでにセットバックが完了しているが、評価対象地は未済であることが見て取れた。

セットバックを必要とする部分

セットバックの役所調査

役所の道路課および建築指導課で確認したところ、評価対象地の前面道路は42条2項道路に該当し認定幅員は3mであることが確認できた。

現況幅員が3.5mであったのは、評価対象地の対面の土地がセットバックにより0.5m分の後退距離を道路敷きとして提供したためであると考えられる。

また、評価対象地の隣地の家屋(前述した公図の地番28‐1)が建てらえた際の建築計画概要書を閲覧したところ、建築時点において後退幅員0.5mのセットバックをしていることがわかり、評価対象地においても将来の建て替え・増改築の際は同様のセットバックを必要とすることが確認できた。

評価の結論

以上から、評価対象地はセットバックを必要とする宅地に該当すると判断し、後退距離を0.5mとしてセットバック地積を求め、当該部分について自用地価額の7割相当を控除して評価することとした。

まとめ

セットバックが必要な宅地の相続税評価について、役所調査や現地調査の観点から、実務的な注意点やポイントを解説しました。

上述で述べたとおり、必ずしも現況と図面の状況が一致するとは限りません。

そのため、セットバックの要否判定には、現地と役所の両方で調査を行うことが不可欠であり、場合によっては、現地と役所の往復を余儀なくされることもあります。

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