役所調査の時短術として覚えておきたい建築基準法6条項

セットバックや容積率の判定など、土地評価には建築基準法への理解が不可欠です。

役所調査では、条項に沿った専門用語が飛び交うため、基礎的な部分を頭に入れておくことで、調査をスムーズに進めることができます。

ここでは、90条以上ある建築基準法の中から、土地評価の実務で頻出する条項を6つに絞ってまとめました。

その条項が土地評価で重要な理由や、関連資料の担当課も併せて解説します。

▼役所調査でよく出る都市計画法の条項を知りたい先生はこちらをご覧ください。

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建築確認(建築基準法6条)・完了検査(建築基準法7条)

建築基準法に定める一定の建築物を建築・増改築等するときは、工事の着手前にその計画が法令の建築基準に適合している旨の確認を受ける必要があります。

これを建築確認といい、建築計画概要書等を添えて建築主が申請します。

【語句解説】建築計画概要書

敷地面積や建物の床面積・構造・階数といった建築計画の概略、完了検査の履歴等が記載されます。

また、附属している建築物の配置図からセットバックのラインを確認したり、地積測量図の代わりとして図面上の距離計測に活用したりすることができる場合があります。

建築計画概要書を取得する際は建築確認の年月日や番号をあらかじめ調べておくと物件の特定がスムーズです。

なお、役所によっては閲覧のみで写しが取得できないこともあります。

また保存期間を過ぎたものは閲覧・取得できない可能性がありますので、事前に保存期間等を問い合わせておくと効率よく調査できます(役所により保存期間は異なります)。

審査は自治体の建築主事等が行い、確認後に確認済証が交付されます。

また、中間検査が必要な建築物は工事の途中で中間検査を、建築物が完成したときには完了検査を受けることが義務付けられており、検査の履歴は建築計画概要書に記載されます。

近年建てられた建物であれば完了検査を受けているものがほとんどですが、築年数の古い建物の中には完了検査を受けていないケースも多いようです。

建築基準法上の道路(建築基準法42条)

道路は道路法、都市計画法、建築基準法等の様々な行政法規により規定されています。

このうち建築基準法は建築物が接道義務を満たすための要件を定めており、その理解は土地評価に必要不可欠です。

建築基準法は42条で道路を下表の通り規定しており、同法において「道路」というときは42条に定める道路を指します。

接道を満たす要件(接道義務)の条項についてはこちら

建築基準法上の道路(42条道路)の種類

幅員条文種類公道・私道
4m以上1号道路法による道路(国道・都道・市道等)公道
4m以上2号都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法等の開発許可によ
り築造された道路(開発道路)
公道・私道
4m以上3号法施行時(昭和25年)にすでに存在していた道公道・私道
4m以上4号道路法、都市計画法等で2年以内に事業が行われる予定のものと
して特定行政庁が指定したもの
公道
4m以上5号土地を建築物の敷地として利用するために新たに築造される道
で、特定行政庁から指定を受けたもの(位置指定道路)
私道
4m未満2項法施行時にすでに存在していた幅員4m未満の道で特定行政庁
が指定したもの(2項道路)
公道・私道

開発道路(建築基準法42条1項2号)

一定規模以上の土地で宅地分譲等を行う際は都市計画法による開発許可を得る必要があります。

この開発許可を得て開発区域内に造られる道路を一般に開発道路と呼びます。

開発道路の設置基準の詳細は自治体ごとに開発指導要綱に規定されます。

開発道路は公共性を持つことから、設置後は原則として公道(道路法上の道路)として管理されます。

ただし、行き止まり道路等の場合は協議により土地所有者が管理者となることもあり、この場合、私道として評価対象になる可能性があります。

開発道路に関する資料としては開発登録簿があり、市区町村の開発指導課等で閲覧・取得できます。

開発道路の例

位置指定道路(建築基準法42条1項5号)

土地を区分してそれぞれを建築物の敷地として利用する場合、すべての区画が建築基準法上の道路に接道する必要があります。

そのような場合に、基準を満たすよう特定行政庁から位置の指定を受けて築造する道路を位置指定道路と呼びます。

位置指定道路の例

位置指定道路の多くは都市計画法の開発許可を要さない小規模な宅地分譲等に伴うもので、自治体の条例等により要件が定められますが、一般的に開発道路よりも規模が小さく、設置後は私道として管理されることがほとんどです。

分譲であれば、各区画の所有者の共有となることが一般的です。

自治体が管理している道路は公道に限られ、私道の道路幅員は通常把握されていませんが、私道が開発道路や位置指定道路であれば、それらの図面を取得して幅員などを調べることが可能です。

位置指定道路に関する資料としては道路位置指定図があり、市区町村の建築指導課等で閲覧・取得できます。

42条2項道路(建築基準法42条2項)

建築物の敷地は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接道しなければなりませんが、建築基準法が施行された昭和25年より前にすでに建築物が建ち並んでいた幅員4m未満の道については建築基準法上の道路とみなすこととされています。

これを通称「42条2項道路」あるいは「2項道路」と呼びます。

42条2項道路に接する土地で建物の建て替えや増改築を行う際は、原則として道路中心線から両側に2mずつ後退した線までを道路敷きとして提供する必要があります。

これをセットバックといい、財産評価上、セットバック部分は自用地評価額の3割で評価されます。

42条2項道路の例

セットバックのとり方

セットバックは、原則としてその中心線から2mの線を宅地との境界線とみなします。

片側が河川やがけ地等で物理的に後退できないときは、反対側の土地の境界から評価対象地側へ4mの一方後退をします。

セットバック地積の算出は三斜求積によるほか、CADソフトを用いると便利です。

また、間口距離に後退幅員を乗じて簡便的に算出する場合もあります。

セットバックのとり方

接道義務(建築基準法43条)

建築物の敷地は原則として建築基準法上の道路に2m以上接しなければならず、これを接道義務といいます。

接道義務は都市計画区域および準都市計画区域内でのみ適用され、都市計画の定められていない区域では適用されません。

また、建築物の規模や用途によっては、原則よりも厳しい接道要件が規定されていることがあります。

土地が接道していても、その道路が建築基準法上の道路でなければ接道義務を満たしません。

建築が不可能な土地の市場価値は建築可能な土地に比べて大幅に低くなります。

まれに建築基準法上の道路ではない道に路線価が設定されていることがありますが、そのような場合、当該路線価に基づく評価が適正でない可能性があります。

このことからも現地や役所での道路調査が重要といえます。

指定容積率・基準容積率(建築基準法52条)

容積率とは敷地面積に対する建物延床面積の割合をいいます。

土地に適用される容積率の最高限度は用途地域に応じて定められていますが、前面道路幅員が12m未満の場合は道路幅員による制限を考慮する必要があります。

用途地域別に指定される容積率を指定容積率、道路幅員による容積率を基準容積率といい、いずれか厳しい方の制限を受けます。

ただし、一定の条件に当てはまる場合は容積率の緩和が認められることがあるため、役所での聞き取りが重要です。

用途地域ごとの容積率

用途地域指定容積率(%)
※都市計画により用途地域ごとに定められる容積率
基準容積率(%)
※前面道路幅員に基づく容積率。
前面道路幅員が12m未満の場合に適用され、
幅員×容積率低減係数で算定する
住居系第1種低層住居専用地域50、 60、 80、 100、150、 200前面道路幅員(m)× 40
住居系第2種低層住居専用地域50、 60、 80、 100、150、 200前面道路幅員(m)× 40
住居系田園住居地域50、 60、 80、 100、150、 200前面道路幅員(m)× 40
住居系第1種中高層住居専用地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 40
※指定区域では60
住居系第2種中高層住居専用地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 40
※指定区域では60
住居系第1種住居地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 40
※指定区域では60
住居系第2種住居地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 40
※指定区域では60
住居系準住居地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 40
※指定区域では60
商業・工業系近隣商業地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 60
※指定区域では40または80
商業・工業系準工業地域100、 150、 200、 300、400、 500前面道路幅員(m)× 60
※指定区域では40または80
商業・工業系商業地域200~1,300(100刻み)前面道路幅員(m)× 60
※指定区域では40または80
商業・工業系工業地域100、 150、 200、 300、400前面道路幅員(m)× 60
※指定区域では40または80
商業・工業系工業専用地域100、 150、 200、 300、400前面道路幅員(m)× 60
※指定区域では40または80
用途地域外
(都市計画区域内)
50、 80、 100、 200、300、 400前面道路幅員(m)× 60
※指定区域では40または80

建ぺい率(建築基準法53条)

建ぺい率とは敷地面積に対する建築面積の割合をいいます。建築面積は建物を真上から見たときの面積(水平投影面積。斜面や凹凸を考慮せず全て水平とみなして算出する)です。

土地に適用される建ぺい率の最高限度は用途地域に応じて定められていますが、一定の条件に当てはまる場合に建ぺい率の緩和が認められることがあります。

例えば、土地が角地に該当する場合は建ぺい率に10%を加算することができます。

ただし、緩和が受けられる角地は道路の交わる角度や接道する長さの割合等が自治体の指定する要件に合致している必要があるため、自治体ホームページでの事前確認や担当課での聞き取りが必要です。

ところで、相続税の土地評価には角地加算(側方路線影響加算)があります。

角地とは2つの道路が交わる角に面する土地をいいますが、その角度は直角とは限らず、鋭角や鈍角のこともあります。

しかし実のところ、何を以て角地と判定するかは通達上、明確に規定されていません。

そこで、角地の経済的価値に着目し、建ペい率の角地緩和が受けられるかどうかを判断基準として用いることがあります。

用途地域ごとの建ぺい率

用途地域建ぺい率(%)
住居系第1種低層住居専用地域30、 40、 50、 60
住居系第2種低層住居専用地域30、 40、 50、 60
住居系第1種中高層住居専用地域30、 40、 50、 60
住居系第2種中高層住居専用地域30、 40、 50、 60
住居系田園住居地域30、 40、 50、 60
住居系第1種住居地域50、 60、 80
住居系第2種住居地域50、 60、 80
住居系準住居地域50、 60、 80
商業・工業系近隣商業地域60、 80
商業・工業系商業地域 80
商業・工業系準工業地域50、 60、 80
商業・工業系工業地域50、 60
商業・工業系工業専用地域30、 40、 50、 60
用途地域外
(都市計画区域内)
30、 40、 50、 60、 70

まとめ

「土地評価に関する役所調査をスムーズにするための建築基準法」を解説しました。

緩和要件や例外規定を設けている自治体もあるため、事前に机上調査による要件整理を行い、注意点を洗い出しておくことで、さらに効率的な役所調査となります。

▼役所調査の前にやるべき机上調査について知りたい先生は、こちらで「机上調査の10項目」を確認いただけます。

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