
「終活」人気に伴って、遺言もずいぶん身近な存在になってきたように思います。
しかし「うちはもう、遺産分割の話し合いを家族ですませて、みんな納得しているから…。」そういう理由で、「遺言は必要ない?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。確かに遺言というと、揉めないために書くというイメージが強いようです。
では、相続前に相続人全員が話し合い、分割方針に納得しているなら遺言を残す必要がないかというと、必ずしもそうではありません。
そこで今回は、相続人全員が分割方針に納得しているにも関わらず、希望通りの分割ができなかったケースをご紹介したいと思います。
相続人に認知症の方がいたケース
ご紹介するのは鈴木さん(仮名)のケースです。
鈴木さんのご家族は、奥様と3人の子です。奥様ご自身もある程度の財産をお持ちだったため、二次相続のことを考えて、鈴木さんが亡くなった際には、「奥様はあまり多く相続しない」という方針で奥様も納得していました。
鈴木さん所有の不動産も、3人の子に不公平とならないよう分けやすいように整理し、家族全員が鈴木さんの方針に同意していました。
しかし、鈴木さんの完璧と思われたプランは、実行されることはありませんでした。なぜなら、鈴木さんがお亡くなりになったとき、奥様が重度の認知症だったからです。
遺言で、相続人の認知症に備える
相続が
起きた際、万が一、相続人が認知症等で意思能力のない状態になってしまっていたら、発症以前に遺産分割方針(例えば、「子に多く相続させる」等)への同意が取れていたとしても、遺言がない場合、原則として意思能力のない相続人へ、その法定相続分を渡すこととなります。
相続人に認知症の方がいる場合、基本的には成年後見人が選任され遺産分割協議を行いますが、成年後見人は被後見人(認知症の方)の利益に反する分割案に同意できないためです。鈴木さんのケースの場合、奥様が法定相続分=財産の2分の1を取得することを余儀なくされました。
この場合、鈴木さんが遺言を書いていれば、奥様ご自身が発症以前に同意していたプランに沿った遺産分割ができていたのです。
超高齢社会と呼ばれる現在、誰しも認知症になる可能性は無視できないものと思います。ご自身やご家族が希望する分割方針があるのなら、遺言として残しておくことをおすすめします。
ただし、特に自筆証書遺言の場合、形式に不備があったり、遺産分割内容についてあいまいな記述があったりしたために、深刻なトラブルに発展するケースが多くあります。せっかくの遺言がトラブルの種になってしまわないように、注意しながら作るのが賢明でしょう。
この記事を書いた人

税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)
フジ相続税理士法人 代表社員
フジ総合グループの副代表を務め、不動産に強い相続専門事務所の代表税理士として、相続税申告・減額・還付案件に携わる。
多くの経験とノウハウを活かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。