皆さまこんにちは。税理士の田村 嘉隆です。今回は、被相続人が有していた借入金などの連帯債務に係る金額を全額分控除することが認められ、申告時の納税額700万円分が全額還付になっためずらしい事例をご紹介します。
今回ご依頼を受けた石原様(仮名)は、当フジ総合グループが出展したフェアのブースに立ち寄っていただいた方。もちろん相続税還付のことも以前からご存じでした。
石原様は、4年前にお母様から土地・家屋・株式等を相続し、700万円程の相続税を納めていました。10年前に他界されたお父様は生前、飲食店や福祉施設、工場等を同族法人を設立した上で事業経営しており、お母様は、当該同族法人が銀行から1億1,000万円の事業資金を借り受ける際の連帯保証人になっていました。
生前のお父様の事業経営は5年連続で赤字決算に陥るなど順調とは言い難い状態でした。お父様が亡くなられたあとも数年間、債務が財産を超過している状態が続いたため、お母様は経営続行不能と判断し、事業廃止・閉鎖手続きを行うことにしました。お母様は相続で得た工場地を売却し、その代金から残債分を返済しようと考えましたが、その手続きのさなかで他界。当該工場地を相続された石原様が手続きを継承し、売買で得た代金で約9,000万円の残債分を一括返済されたのでした。
一時は不可能と思われた債務控除・・・
相続税申告において保証債務は原則として債務控除の対象にはなりませんが、例外として、相続開始時点において主債務者が次のどちらの状況にも当てはまる場合には、債務控除の対象になるとされています。
1.各連帯債務者の負担額が明らかになっている場合:被相続人の負担額を債務控除
2.被相続人以外の連帯債務者が弁済不能の状態にあり、かつ、求償しても弁済を受ける見込みがなく、弁済不能者の負担部分も負担しなければならない場合:被相続人が負担しなければならない部分の金額も債務控除
今回のケースでは、一見すると上記要件「1」「2」ともにあてはまっているように思えたため、その旨を税務署に申し立てたところ、担当者からは、借入金の債権者である銀行から「いついつまでにいくらの借金を返済してください」という具体的な催告がされていない限り、債務控除が可能となる「確実な債務」としては認められないとの回答でした。
お母様が残したメモ書きで大逆転!
税務署の回答を踏まえ石原様に説明を行うと、そこで新たな事実が浮かび上がりました。お母様は生前、銀行の担当者から「どうせ倒産寸前なのだから早く会社をたたんで土地を売却して速やかに借金を返済してください」という類の辛辣な言葉を再三浴びせかけられており、その日付と内容を詳細にメモ書きに残していたのです。
さらにメモ書きを確認すると、債務の返済が不能であるという状態に付け込まれ、当該銀行が発行するカードへの入会や、地域経済冊子の定期購読等について半強制的に契約させられていたという経緯までも記録されていました。
お母様のメモ書きをそのまま根拠書類として税務署に提出し、再度申し立てを行うと、借入金の残額9,000万円超の連帯保証金額分を正式な債務として計上し、債務控除することを認めてもらうことができました。その結果、財産金額からさらに追加で9,000万円を差し引くことができ、石原様には相続税700万円全額が還付されることとなりました。
一見すると規定の要件を満たしていない場合でも諦めずに状況証拠を集めていけば、場合によっては、今回のように結果を180度変えることができると実感させられた事例でした。
この記事を書いた人
税理士
田村 嘉隆(たむら・よしたか)
名古屋事務所 所長
年間約700 件の相続関連業務を⼿掛けるフジ総合グループの名古屋事務所所⻑。世界60 か 国以上を4 年半かけて旅をした経験を持つ元旅⼈税理⼠。その旅の中で⾝に染みた「⼀期⼀会の出会い」、⼈との繋がりや縁を⼤切にし、誠実な対応で地主からの信頼が厚い。