地主様・不動産オーナー様のための 円満相続コラム

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余剰容積率の移転を受けている宅地に該当するか否か

皆さまこんにちは。不動産鑑定士の小野寺 恭孝です。
今回は、地役権設定登記による容積の移転について評価を見直した事例をご紹介します。

K県K市在住の佐々木様(仮名)は2か月前にお父様を亡くされ、現金や預貯金、有価証券などのほか、自宅などの不動産を相続されました。
「相続税申告は自分でやろう」と考え、解説本を参考に申告書を作成してみましたが、土地評価の部分に不安があり、当グループの「土地評価セカンドオピニオン」のサービスをホームページから見つけ、土地評価に間違いがないかどうか、チェックをお任せいただくことになりました。

高度利用地区に存する土地

本件相続においては、相続人である佐々木様が、タワーマンションの一室を相続されました。当該タワーマンションはアクセスのいいターミナル駅前に建っており、都市計画法上の高度利用地区(※1)に存していました。

当該地について詳しく調べてみると、容積率の最高限度が500%であるところ、タワーマンションの容積率は600%であることがわかりました。土地登記簿謄本を確認したところ、「要役地地役権(※2)」の設定登記がなされており、その目的が「建築基準法に定める容積率の最高限度より、306.05%を控除した容積率を超える建物を建設しない」とあったことから、承役地(※3)の建築を制限することにより、当該タワーマンションは、容積率の緩和を受けているものと考えられました。

余剰容積率の移転を受けている宅地は原則、地役権設定等にあたり支払われた対価の額や、通常の取引価額を用いる算式によって評価する必要があります。

(※1)高度利用地区:低層な建物が多く土地が細分化されているような密集市街地において、土地をくっつけて一体的な再開発を行ない、高層ビルなどの高い建物を建てられるようにした地区のこと。ここでの高度とは、小さな建物ではなく、より大きな建物を建ててハイレベル(高次元)に土地を利用するという意味をもつ。
(※2)要役地地役権:地役権とは、自分の土地の利便性を高めるために、他人の土地を利用することができるという権利のこと。この地役権が設定されている場合において、利便性を高めようとする土地(すなわち自分の土地)のことを要役地という。
(※3)承役地:地役権が設定されている場合において、利用される他人の土地のことを承役地という。

一団地総合設計制度を利用した土地

建築基準法では、一つの敷地には一つの建築物しか建てられないのが原則ですが、土地の有効利用が阻害されることになるため、特定の要件を備えている場合には、複数の敷地を一つの敷地とみなして複数の建築物の建築が認められる「一団地認定制度」を利用することができます。さらに「一団地総合設計制度」の適用を受けると、複数の建築物が同一敷地内にあるものとみなして一体的に容積率等の規制が適用される。すなわち、敷地内の建物間で容積の移転が可能になるのです。

土地を細分化するのではなく、まとまった土地として整備することで、設計の自由度を高め「良好な市街地環境を確保しつつ適切な土地の有効活用を図ること」が一団地認定制度の目的です。

自治体に問い合わせたところ、当該タワーマンションは一団地総合設計制度を利用するため、隣地と相互の敷地に地役権を設定したものではないかという回答を得ることができました。隣地にはショッピングモールがあり、土地登記簿謄本には地役権設定登記がされていたことから、土地所有者である大手デベロッパー等が、ショッピングモールの容積をタワーマンションへ移転し、容積率の制限を超えた床面積のタワーマンションを建築したものと思われました。

このような場合、当該タワーマンションの評価額は、財産評価基本通達23「余剰容積率の移転を受けている宅地の評価」において定める算式によって、「1+区分地上権の設定等に当たり支払った対価の額/区分地上権の設定等の直前における余剰容積率の移転を受けている宅地の通常の取引価額に相当する金額」によって求めることになりますが、詳細な調査を進めていくと、本ケースにおいては、相互の敷地に地役権を設定する際、対価を支払っていない(額がゼロである)ことがわかりました。そのため、乗ずる割合は「1」となり、余剰容積率の移転については当該タワーマンションの価額に影響しないということがわかりました。

本ケースのように地役権設定登記による容積の移転については、必ずしも対価が発生するものではありません。地役権、区分地上権、賃借権等が設定された経緯を確認することにより、正しい評価額を導き出すことが重要です。今回は当初の申告通りで正しく、減額はありませんでしたが、万一税務署から容積率移転分を加算するよう指摘を受けた場合には、堂々と反論できることで、佐々木様にはお喜びいただける結果となりました。

この記事を書いた人

不動産鑑定士
小野寺 恭孝(おのでら・きよたか)

東京事務所 副所長
不動産鑑定評価の知識を⽣かした広⼤地判定等に定評があり、現在は、他事務所の税理⼠が ⾏った相続税⼟地評価をチェックする『⼟地評価セカンドオピニオン』や評価意⾒書の作成 を⾏うサービスを展開中。