前回に引き続き、現在審議されている民法(相続法)の改正検討項目を見ていきます。
今回は、「1.配偶者の居住権保護」と「2.配偶者の本来の貢献に応じた遺産分割の実現」です。
配偶者保護のための改正は?
「1.配偶者の居住権保護」
夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された方は、住み慣れた家にそのまま住み続けたいと思うのが一般的でしょう。しかし、相続する権利は子どもにもありますので、遺産分割の結果によっては配偶者が住む家を失ってしまう可能性もあります。
「長生きのリスク」が指摘されるほどに平均寿命が伸びた今、残された配偶者が相続後、数十年単位で生活を継続していくことは十分考えられ、配偶者の生活をどのように保障するかは重要視される課題です。
そこで今回の見直しの中では、配偶者の生活保障としての観点から、相続時に住んでいた家への短期的な居住権に加え、「長期居住権」を新設する案が検討されています。
「2.配偶者の本来の貢献に応じた遺産分割の実現」
一口に夫婦と言っても、長く連れ添った夫婦もいれば、婚姻期間の短い夫婦、婚姻期間は長いけれども別居していた夫婦など様々です。一方、現在の制度では、配偶者の法定相続分は婚姻期間の長短に関わらず一律に定められています。
そのような制度は公平性を欠くのではないか、ということで、配偶者の具体的な貢献度を遺産分割に反映させる案が議論されています。具体的には「離婚の際の財産分与の考え方を準用し、婚姻後に増加した財産に対し、配偶者のみを対象とする寄与分を認める」「婚姻期間が一定の年数以上の夫婦間で法定相続分を引き上げる」などの案が検討されています。
夫婦の“共有財産”どう分ける?
民法には「実質的共有財産」という概念があります。これは夫婦の財産におけるまさしく“内助の功”で、名義がどちらかになっていたとしても、夫婦の協力なくしては築くことができなかったものとして、実質的に夫婦の共有とみなされる財産を指します。
しかし、内助の功はいわゆる家事に代表されるもので、そもそも対価を貨幣金額的・権利的に表すことが難しいという側面もあります。どのような形になるのか注目されるところですが、かえって紛争が複雑困難になるのではないかといった点等も危惧されています。
私個人的には、「婚姻期間が伸びるほど配偶者の法定相続分が高まっていく」という方法はどうかと思っています。例えば、30歳で結婚して80歳で死別したと仮定すると、婚姻期間は50年。子育てが概ね終わるであろう60歳に達するまでの30年間に、少しずつ法定相続分を上げていくという案です。結婚当初から10年間は配偶者の取り分が3分の1、10年超20年以下は2分の1、20年超は3分の2…というように。一案ですが、どうでしょうか。
次回は介護問題に深く関連する「3.寄与分制度の見直し」を見ていきたいと思います。
この記事を書いた人
税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。平成17年 税理士登録、平成18年 フジ相続税理士法人設立。
相続に特化した専門事務所の代表税理士として、不動産評価部門の株式会社フジ総合鑑定とともに、年間950件以上の相続税申告・減額・還付案件に携わる。
不動産・保険等への造詣を生かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。
平成26年1月に藤宮浩(株式会社フジ総合鑑定 代表)との共著となる初の単行本『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)を出版。
平成27年7月に第2弾となる『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)を出版。
平成30年4月に第3弾となる「相続税を納め過ぎないための土地評価の本」(現代書林)を出版。