税理士の髙原誠です。
年の始めということで、皆様の中には「今年はこれをやりたい、あれをやろう」とお考えの方も多いかと思います。
そんな中で私が検討事項として一押ししたいテーマが「終活」です。
実際に相続が発生した方の体験談を踏まえ、地主様・家主様の終活への向き合い方、その意義をお伝えします。
もくじ
終活を始めるその前に…不動産相続の長所・短所とは?
一言で申し上げれば、不動産相続の長所は現金相続と比べて評価額が下がること。短所は相続にかける軍資金(現金)が不足することです。
すべての財産を毀損することなく次世代へ移すことができれば最良なのですが、残念ながら多くの場合は叶いません。
そこで整理したいのが、ご家族の不動産への向き合い方です。
他の相続財産と比べ、代々引き継いだ不動産には思い入れ補正がかかり、最善の判断がしづらくなります。
大切なのは、ご当主はもちろん、それを引き継ぐ次世代も「不動産賃貸は不労所得でなく事業である」という共通認識を持つことです。
事業という認識を持って研鑽されている方の不動産賃貸「業」は成功している例が多いように思います。
所有不動産の優劣、手放す際の出口戦略など、事業用資産としてドライな目で見渡すことから終活が始まると考えます。
まず行いたいのが、不動産の個別性・法律規制・権利関係を理解し、次世代に継承することです。
継承が足りずに相続を迎えたことで、優秀な不動産を不当な低価格で処分せざるを得ないという例を数多く見てきました。親子間で所有不動産の行く末を話し合わない相続は「リスクの相続」に他なりません。
同時に、相続人が迷ったときの相談相手の存在も明確に引き継ぐと良いでしょう。
「遺言書」残しますか?残しませんか?
専門家としては、自筆・公正証書を問わず遺言書を推奨するケースが多く、私自身も同意見です。
遺言書のメリットは、相続発生後の手続きの簡素化と一言で括られることが多いですが、これだけでは作成の原動力にはなりづらいかもしれません。
また、遺産分割協議書が締結できれば遺言書がなくとも手続きを進められるというのも、遺言書が「必須のもの」として浸透しない理由です。
しかし遺産分割協議書の締結を行うには大前提があります。
それは、「法定相続人全員の仲が良いこと」「法定相続人全員が健康であること」です。
特に後者は専門家も含め見落としがちな項目で、いくら生前に遺産分割方針を話し合っていても、最
終局面で相続人のうち一人でも意思表示ができない状態に陥っていれば方針通りに進めるのが難しくなるかもしれません。
この二つの前提を見越して遺言書を残す・残さないを決めるべきです。
地主・家主にとって「遺留分」が恐ろしい理由
地主・家主の遺言で忘れてはいけないのが「遺留分」です。
民法改正により従来の遺留分「減殺」請求が遺留分「侵害額」請求に変わり、遺留分の侵害に対して「金銭」での補償が義務付けられました。
現金がなければ固有資産を処分してでも、銀行借り入れをしてでも、期日までに金銭で支払わなければなりません。
現物(相続財産)での弁済も認められますが、財産を引き渡した側に譲渡所得税が発生します。
先祖伝来の土地で取得価額などが不明なケースを中心に、多くの場合、譲渡所得が大きくなってしまいます。税務署からは遺留分侵害額分で売却したとみなされ譲渡所得税を課税され、遺留分侵害額は丸々支払うことに…。
さて、譲渡所得税の納税資金はどこから捻出すればいいのでしょうか?
相続税法の生前贈与加算の規定と違い、遺留分の基礎計算には相続開始前10年以内の生前贈与も含まれます。
令和6年以降の税制改正も踏まえて、生前贈与の方向性も終活の検討メニューの一つになるでしょう。
「ほぼ」確実といえる3つの節税メニュー
「小規模宅地等の特例」「配偶者居住権」「空き家の譲渡特例」、これらはいずれも相続税や譲渡所得税を軽減するための特例です。
配偶者居住権だけは節税を意図したものではありませんが、二次相続時の相続税額
を下げるという意味では節税規定と言ってもよいでしょう。
各制度の詳細な説明は省きますが、ここでは多くのご家庭でよくある父母同居、子は別居、というケースを想定します。
小規模宅地等の特例はよく、「家なき子の特例」の前提としてご相談をいただくことが多いですが、適用要件を確認して、二次相続まで家なき子の状態で相続を迎えるのか、介護の担い手の役割も期待して同居するのか、老後の生活方針と合わせて検討すべきです。
配偶者居住権は配偶者の老後の生活保障を意図したものですが、不動産活用に制限が生じるなど一定のリスクもあります。こちらもやはり配偶者の老後の暮らし方を考慮した上で設定すべきでしょう。
例えば施設に入居することが確定しているにも関わらず、不動産活用が制限される配偶者居住権を設定するというのは不要な対策かもしれません。
空き家の譲渡特例も、現在は規定が変わり、要介護認定を受けた場合など一定の要件を満たせば、施設に入居したとしても適用が認められることとなりました。
これも前述の「不動産の行く末」と「要介護生活」を併せた終活メニューの一つです
終活のための終活(相続のための相続対策)はNG
相続に対する想いは、とかく親と子の間ですれ違うことが多いです。
忘れがちなのが、「相続が明日発生するわけではない」ということ。
実際には、相続発生までの間に親御さん側にもお子さん側にも様々なことが起こります。
その一つひとつを解決していくことから終活が始まります。
相続対策・終活をしたいなら、相続対策・終活から始めない。
その前段階として家族全員に起こりうることを整理し、行動に移しましょう。
最後に地主・家主の皆様に役立てていただきたい終活チェックリストを記載しておきます。