7月1日に令和3年度の路線価が発表されました。コロナ禍を受けて全国平均で前年比0・5%下落し、6年ぶりにマイナスとなりました。39都府県で減額方向に転じた一方、上昇した地域もあり、相続対策に熱心なお客様からは「コロナ禍でも上がるの?」と驚きの声が寄せられました。
今回はそんな「路線価と相続税のからくり」をお話しします。
路線価は利用効率に応じて補正が可能
路線価は「路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額」であると国税庁によって定義されています。ここで言う「標準的な宅地」とは、例えば住宅地の場合、区画整理が済んだ10m×10mのような整形地を想定しており、周囲の土地の評価額を算出する場合には、路線価を基に評価することとされています。しかし実際にはそのように綺麗に整形された土地ばかりではないため、路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で調整することが必要です。
奥行価格補正 | 正面路線からの奥行距離による補正。長すぎても短すぎても減。 | |
側方・裏面路線影響加算 | 2つ以上の道路に面している時の加算。接道状況により加算不要の場合も。 | |
奥行長大補正 | 奥行距離÷間口距離が2倍以上なら減。いわゆる「うなぎの寝床」。 | |
間口狭小補正 | 道路に面している間口距離が狭いと減。 | |
不整形地補正 | 土地の形が歪だと減。相続対策の一環で意図的に作り出す場合も。 | |
規模格差補正 | 広大地に代わる評価。一定面積以上の地積規模を有する宅地に適用。 | |
無道路地補正 | 道路に面さない土地の評価。時価は「半値8掛け2割引(32%)」になることも。 | |
がけ地補正 | がけの方向と面積割合により減額幅に変化。宅地造成費とのダブル適用不可。 | |
土砂災害特別警戒区域 | レッドゾーンの減価。がけ地補正とダブル適用可。 | |
容積率の異なる土地 | 対象地内で容積率が異なる(正面から奥に向かって下がる)と減。 | |
セットバック | 建築基準法第42条2項(同43条2項2号)の規定による減価。 | |
都市計画道路予定地 | 都計道予定地域内にあると減。占有率と容積率により減額幅変化。 |
評価次第で差がつくケース① 土砂災害に係る減額補正
今年の夏も九州や静岡をはじめ、全国各地で発生した大雨による災害。近年の災害リスクの高まりを受け、2019年には財産評価上の恒常的な規定「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」が新設されました。土砂災害防止法※では、土砂災害の危険がある地域を2種類に分け、住民等の生命や身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域を「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」、その中でも著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域を「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」として指定しています。
新設された規定でもこの区分を採用し、レッドゾーン内にある土地の評価額に一定の減額が認められることとなりました。がけ地補正との重複適用が可能で、その場合、最大50%の減額が認められる減額幅の大きな規定です。一方、イエローゾーン内の土地にはこのような規定はありません。これは、レッドゾーンには開発行為の制限や建築物の構造規制が求められるのに対し、イエローゾーンにはそのような制限がないから、というのが主な理由です。
しかし、イエローゾーン内にある土地であっても、場合によっては減額の余地はあります。私たちのお客様で、イエローゾーン内に土地をお持ちの方の例です。その土地はほぼ全体がイエローゾーン内にありますが、同じ路線(道路)沿いにはイエローでもレッドでもない別の土地もあります。路線価については両者の間で差が付けられておらず、どちらも同じ単価で評価することとされていましたが、不動産を売却する際には価額に影響を及ぼす要素です。
また、固定資産税評価基準を調べてみたところ、この自治体ではレッドゾーンだけでなくイエローゾーン内にある土地も減額補正を行うこととされていました。以上を考慮し、私たちはイエローゾーンの内外で何らかの価格差を考慮すべきと判断しました。
とはいえレッドゾーンではないので先述の減額規定は適用されません。そこで、財産評価上の別の規定「利用価値が著しく低下している宅地の評価」に基づいた減額を検討し、評価意見書を税務署に提出しました。結果、それが認められ、評価額の10%が減額されたのです。
評価次第で差がつくケース② 控除が可能な宅地造成費
市街化区域内にある山林や田畑は、その山林や田畑を一旦、宅地として評価した後、宅地に造成するための費用(宅地造成費)を控除してその評価額とします。相続税や贈与税の評価上、注意すべきなのは、この宅地造成費です。
3 大都市圏の平坦地の宅地造成費
3 大都市圏の傾斜地の宅地造成費
平坦地はもちろんのこと、傾斜地も一律の造成費となっています。この宅地造成費は国税庁が発表しているものですが、個人的には二つの問題があると思っています。
①路線価が時価の8割相当に設定されているとはいえ、「実際に要する」宅地造成費と比較するとあまりに低額に設定されていることが多い。
②土地の個別性が反映されていない。例えば評価対象不動産内で土盛りを要する地点の体積が一律でない場合や、地点によって傾斜度が異なる場合に正しく評価することができない。
以上のことから、評価対象地の宅地造成費に著しく乖離が認められる場合には、当該宅地造成費を「時価」の観点から評価意見書にまとめることがあります。この場合でも、適正な内容であると税務署に認められれば評価減が可能です。
他の専門家の観点も必要です
今回ご紹介した土砂災害のリスクや宅地造成費の控除のような判断の分かれる内容を織り込み、税務署に否認されない時価による土地評価を単独で行うことができる税理士は、ほとんどいないのではないでしょうか。それは相続を専門に15年以上経験を積んでいる私も例外ではありません。質の高い評価を行うには税理士一人の判断ではなく、不動産鑑定士や土地家屋調査士、建築士など不動産に携わる様々な専門家の手を借りる必要があるでしょう。
時価の把握をお勧めします
路線価に反映しきれない減額要素として挙げた本記載例はあくまで一例であり、道路付の悪い土地や容積率・建ぺい率が複雑にまたがっている土地、縄延び・縄縮みが多く見られるエリアにある土地など「時価」の観点から見て評価額が乖離する例はいくつもあります。このように個別性のある土地をお持ちの場合には、不動産鑑定士による鑑定評価を入れることで適正な時価評価額を算出できる場合があります。
皆様はご自身の土地の時価をどの程度ご存じでしょうか。土地の強みや弱み、どのような要素が価額に影響を与えるかなどの知識は、相続対策や不動産活用を考える上でも大いに役立つことと思います。
この記事を書いた人
税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。平成17年 税理士登録、平成18年 フジ相続税理士法人設立。
相続に特化した専門事務所の代表税理士として、不動産評価部門の株式会社フジ総合鑑定とともに、年間950件以上の相続税申告・減額・還付案件に携わる。
不動産・保険等への造詣を生かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。
平成26年1月に藤宮浩(株式会社フジ総合鑑定 代表)との共著となる初の単行本『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)を出版。
平成27年7月に第2弾となる『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)を出版。
平成30年4月に第3弾となる「相続税を納め過ぎないための土地評価の本」(現代書林)を出版。