
今日は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた不動産価格の今後の影響についてお話します
コロナショックによる時価と路線価にギャップが乗じる可能性
コロナショックで不動産市場も停滞しており、今後数年にわたり地価は下落するとの見方もあります。相続税路線価が7月1日に公開されましたが、バブル崩壊時に経験した通り、路線価は地価の急落に即座に追いつくことができません。時価と路線価(相続税評価額)にギャップが生じる可能性があるため、これから相続税申告をする方は注意が必要です。(コロナウイルスによる影響で地価が大幅に下落した場合に路線価を減額修正できる措置を国税庁が検討しています[2020年6月23日時点])
時価に比べ明らかに相続税評価額が高い場合は、路線価を採用せず、不動産鑑定評価による価額を採用する余地もあります。
また、不動産を売って納税資金にしようとしても、購買意欲の冷え込みやインバウンド需要の減退から、時間がかかったり思った価格で売れなかったりする可能性もあります。通常以上に周到な準備が必要になると覚悟すべきでしょう。
前例のない事態に税務署も手探りの印象です。申告期限の個別延長も設けられていますが、あくまでやむを得ない理由が必要であり、認められるかどうかは個人(相続人)単位であることに注意してください。なお延長が認められても、やむを得ない理由がやんだ日から2か月以内には申告をする必要があります。
余談ですが、当グループ含め税理士事務所の多くが遠隔面談を導入しました。オンライン環境さえあれば地域を問わず専門事務所への相談が可能となったわけで、選ばれる事務所となるために、専門性やサービス性といった点での差別化がいっそう求められていると感じています。
私にとって今回の禍中は、これまでの無駄を取り除いて有用な制度を事務所に積極的に導入していく期間でもありました。このことが、お客様にとってより魅力的な事務所、より相談しやすい環境となることにつながればせめてもの幸いです。
災害に際しての臨時的な特例規定
台風19号により被害を受けた場合の特例措置(抜粋)
■財産評価の特例(1)災害発生日以前(2019年10月9日以前)に取得した土地等
取得時期 | 対象財産 | 評価額 | |
---|---|---|---|
土地等 | ①2018年12月10日 ~2019年10月9日の相続・遺贈 ②2019年1月1日~ 10月9日の贈与 |
特定地域内にある土地等※ | 「災害発生直後の価額」(2019年の路線価または評価倍率に地域ごとの調整率を乗じた価額) |
(2)災害発生日以後(2019年10月10日以後)に取得した土地等
取得時期 | 対象財産 | 評価額 | |
---|---|---|---|
土地等 | 2019年10月10日~12月31日の相続・遺贈または贈与 | 特定地域※内にある土地等 | ・「災害発生直後の価額」に準じて評価
・物理的な被害を受け原状回復していない場合は現状回復費用相当額を控除 |
家屋 | 2019年10月10日~12月31日の相続・遺贈または贈与 | 被災した家屋 | 2009年度の固定資産税評価額-2019年度の固定資産税評価額×条例等に基づく軽減・免除の割合 |
※宮城・福島・茨城・埼玉・千葉・長野各県の県内全域および岩手・栃木・群馬・東京・神奈川・ 新潟・山梨・静岡各都県の一部市区町村。詳細は国税庁HPでご確認ください。
*このほか、特定株式等に対する財産評価の特例もあります。
特別警戒区域補正率表
評価対象地の総地積に対する土砂災害特別警戒区域内となる部分の地積の割合に乗じ、下表に定める補正率を乗じて計算した価額により評価します。
税目 | 財産の取得時期 | 申告期限 |
---|---|---|
相続税 | 2018年12月10日~2019年10月9日 | 2020年8月11日 |
贈与税 | 2019年1月1日~10月9日 | 2020年8月11日 |
さて近年は自然災害も頻発しています。一般に大きな災害の後には、被災者に対する税制上の特例措置が講じられます。
昨年、東日本を中心に甚大な被害をもたらした台風19号では、被害を受けた方に対する相続税・贈与税の臨時的措置として①不動産や株式等の評価の特例、②申告期限の延長が設けられました(図表1)。相続開始日が災害発生日の前か後かで取り扱いが少し異なります。「特定地域」と各地域の「調整率」は国税庁ホームページをご参照ください。
土砂災害に関する財産評価の新規定も
災害リスクの高まりを受け、昨年から財産評価上の恒常的な規定も新設されました。財産評価基本通達20―6「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」です(2019年1月1日以後の相続・贈与に適用)。
土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)では、土砂災害の危険がある地域を2種類に分け、住民等の生命や身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域を「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」、その中でも著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域を「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」として指定しています。
新設された相続税の規定でもこの区分を採用し、レッドゾーン内にある土地の評価額に一定の減額が認められることとなりました(図表2)。がけ地補正との重複適用が可能で、その場合、最大50%の減額が認められる減額幅の大きな規定です。
申告期限の延長 上記の適用を受けることができる場合の申告期限は下記になります。
特別警戒区域の地積/総地積 | 補正率 |
---|---|
0.10以上 | 0.90 |
0.40以上 | 0.80 |
0.70以上 | 0.70 |
イエローゾーン内の土地は減額できない?
一方、イエローゾーン内の土地にはこのような規定はありません。これは、レッドゾーンには開発行為の制限や建築物の構造規制が求められるのに対し、イエローゾーンにはそのような制限がないから、というのが主な理由です。
しかし、「イエローゾーンは利用制限がないから減額の必要なし」と、本当にそれでよいのでしょうか。自然災害は人間が決めたラインの通りにやってくるとは限りません。例えばレッドゾーンとの境界すれすれにあるイエローゾーン内の土地の取引価格は、土砂災害リスクの影響を受けないのでしょうか。そのリスクを路線価は反映しているでしょうか。
私たちのお客様で、イエローゾーン内に土地をお持ちの方の例です。その土地はほぼ全体がイエローゾーン内にありますが、同じ路線(道路)沿いにはイエローでもレッドでもない別の土地もあります。しかし、両者の間で路線価に差は付けられておらず、どちらも同じ単価で評価することとされていたのです。これは課税上、公平でないと考えられました。
また、固定資産税評価基準を調べてみたところ、この自治体ではレッドはもちろんイエローゾーン内にある土地も減額補正を行うこととされていました。固定資産税評価でのこの取り扱いからも、イエローゾーンの内外で何らかの価格差を考慮すべきという判断が補強されました。
とはいえレッドゾーンではないので先述の減額規定は適用されません。そこで、財産評価上の別の規定「利用価値が著しく低下している宅地の評価」に基づいた減額を検討し、評価意見書を税務署に提出しました。結果、それが認められ、評価額の10%が減額されたのです。
自分の土地の強みや弱み知っていますか?
これは一例であり、イエローゾーン内の土地に減額が適用できるかどうかは個別に判断する必要があります。土地の時価に影響を与える要因は相続税の通達でカバーしきれていないものもあり、その評価判断には専門的な調査や裏付けが必要となります。この点はぜひ、土地評価に強い税理士にお任せください。
それらもふまえ、皆様もご自身の土地のことを深く知っていただければと思います。土地の強みや弱み、どのような要素が価額に影響を与えるか等を知ることは、相続対策を考える上でも有意義なことです。
この記事を書いた人

税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)
フジ相続税理士法人 代表社員
フジ総合グループの副代表を務め、不動産に強い相続専門事務所の代表税理士として、相続税申告・減額・還付案件に携わる。
多くの経験とノウハウを活かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。