土地の相続税評価額を計算する際、その利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められる場合には、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」により、評価額を下げることが可能です。
利用価値が著しく低下している宅地の評価に該当するケースはいくつもありますので、減額対象となる要素と、補正計算する際に注意すべきポイントを解説します。
もくじ
利用価値が著しく低下している宅地の評価の概要
「利用価値が著しく低下している宅地の評価」とは、評価対象地が周辺にある他の宅地と比較し、利用状況が著しく低下していると認められる場合に適用できる減額補正です。
通常、土地の相続税評価額の補正計算は財産評価基本通達で定められていますが、利用価値が著しく低下している宅地の評価については、国税庁ホームページのタックスアンサーで示されています。
補正対象となった土地は、利用価値が低下していないものとして評価した価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に応じた価額に10%を乗じた金額を控除できます。
また利用価値が著しく低下している宅地に該当するのは、評価対象地が次のような状況にある場合です。
・道路より高い(低い)位置にある宅地で付近にある宅地に比べて著しく高低差のある宅地
・地盤に甚だしい凹凸のある宅地
・震動の甚だしい宅地
・騒音、日照阻害、臭気、忌み等、取引金額に影響を受けると認められる宅地
利用価値が著しく低下している宅地を評価する際のポイント
評価対象地に利用価値が著しく低下する要素があったとしても、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」が必ず適用できるわけではありません。
一方で、減額補正を重複して適用できる場合や、評価対象地が宅地以外でも減額補正を行えるケースもあります。
基本的な評価方法は一般的な土地と同じ
「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の対象となる土地は、最初に利用価値が低下していない場合の評価額を算出しなければなりません。
土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式の2種類あり、どちらの評価方式を用いるかは地域ごとに決まっています。
路線価は標準的な宅地の1㎡当たりの金額が道路に設定されており、土地の形状に応じた補正計算を行います。
宅地開発された土地については、正方形や正方形に近い長方形の形状をしているため補正計算は必要ありませんが、先祖代々引き継がれている土地は区画整理されていることが少ないため、形状補正等の計算が必要になることが多いです。
倍率方式は、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて算出する方法で、形状補正等は原則不要です。
そのため路線価方式よりも評価するのは比較的容易ですが、雑種地など宅地比準により評価する土地については計算が複雑になりますのでご注意ください。
路線価などに利用価値低下が加味されているのか
路線価や固定資産税評価額、評価倍率の数値に利用価値の著しく低下している状況が考慮されている場合、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の補正計算は行いません。
路線価は道路に設定されているため、土地ごとの事情を加味することは基本的にありません。
しかし周辺地域一帯に影響を及ぼす事情がある場合、路線価に利用価値低下の影響が考慮されていることもあります。
たとえば線路沿いにある路線価に接している土地は、騒音などの影響で利用価値が下がることもありますし、線路から離れた場所の路線価と比較して金額が低く設定されている地域も存在します。
路線価に特殊事情が加味されているかの判断は、周辺地域の路線価との比較や評価対象地独自の事情を確認しなければなりませんので、「利用価値が著しく低下している宅地を評価」の補正計算をする際は現地調査が必要です。
農地や山林の土地に対しても減額補正は適用できる
「利用価値が著しく低下している宅地を評価」は、「宅地」と表記されていますが、宅地比準方式によって評価する農地・山林についても、減額補正は適用可能です。
農地・山林で適用対象になるのは、宅地転用する際にかかる造成費用等を考慮しても、利用価値が評価対象地周辺の宅地より著しく低下していると認められる場合です。
宅地と同様に減額補正率は10%であり、路線価や固定資産税評価額、評価倍率に利用価値の著しく低下している状況が考慮されている場合、減額補正は適用できません。
10%減額補正は重複して適用できる
評価対象地が土地の高低差や震動・騒音など、複数の減額要素を持っている場合、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」による10%減額補正を重複適用できる可能性があります。
国税不服審判所の平成13年6月15日裁決事例では、騒音等による10%減額とは別に、高架線の存在と日照問題による減額補正も認めています。
減額補正を重複適用できるかは評価対象地を個々に判断する必要がありますので、重複適用を検討する際は必ず専門家へご相談してください。
高低差により利用価値が著しく低下している宅地に該当するケース
「高低差のある土地」とは、道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地のうち、周辺地域の宅地と比べて著しく高低差のある土地をいいます。
高低差があることで利用価値の低下する具体的な数値(1mなど)は存在しないため、評価対象地ごとに高低差による影響を見極めなければいけません。
たとえば1mの高低差でも補正の対象になるケースもあれば、周辺地域一帯が高低差の激しい土地であれば、高低差による利用価値の低下があるとは認められないこともあります。
高低差のある土地と認められるかの判断基準は、「高低差の程度」と「路線価に高低差による影響が加味されているか」の2点です。
土地の高低差は道路と接している部分の高さで判断しますが、高低差の判定の目安の高さは地域ごとに異なります。
平均高低差が1.2mで「利用価値が著しく低下している宅地」と認められた事例がある一方で、高低差3m以上ある土地であっても減額補正が認められなかった事例も存在します。
路線価に土地の高低差による影響が加味されているかは、評価対象地の周辺地域の状況や周りで設定されている路線価の金額の差を比較することになります。
傾斜地などが多い地域の場合、評価対象地の周辺地域全体で高低差による路線価の調整が行われていることも想定されます。
そのため高低差のある土地の減額補正を適用する際は、評価対象地と周辺地域の状況と路線価を照らし合わせ、高低差による影響が路線価に加味されているかを確認してください。
地盤に甚だしい凹凸のある宅地に該当するケース
「地盤に甚だしい凹凸のある宅地」とは、震災等の影響により地盤の高さが乱れている土地をいいます。
たとえば地震により液状化現象が発生すると地盤が浮き沈みするため、土地を通常の生活に使用する建物の敷地として利用することは困難になりますし、建物に再度建築する際は杭を打つ、柱を建てるなどの補強や大規模な地盤改良が必要です。
そのような利用価値の低下が見込まれる土地は、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の適用対象となります。
なお地震や台風などにより大規模な損害が発生した地域においては、調整率補正が適用されるケースがあります。
調整率は災害等による利用価値低下を考慮するための補正ですので、調整率の適用対象地域に該当する場合には、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」が適用できない可能性がありますのでご注意ください。
震動の甚だしい宅地に該当するケース
「震動の甚だしい宅地」とは、線路沿いなど電車が通過するたびに揺れ、日常生活に支障が出るような土地をいいます。
住宅建築や道路工事による一時的な振動(震動)や、利用価値に大きな影響を及ぼさない程度の震動であれば減額補正は適用できません。
また利用価値が著しく低下する判断は主観だけでなく、客観的な事実に基づき判断することも必要です。
客観的に震動による影響を把握する方法としては、振動測定器での計測や、不動産業者に周辺の土地より時価相場が下がるかを確認するなどがあります。
騒音により利用価値が著しく低下している宅地に該当するケース
「騒音により利用価値が著しく低下している宅地」とは、線路沿いや高架線下など、電車が通過するたびに騒音が発生し、日常生活に支障をきたすような土地をいいます。
騒音の判断基準の一つに、環境省が定めている環境基準があります。
環境基準では騒音の目安を設けており、基準値を超える音の大きさがある場合は、土地の利用価値にも影響があると考えられます。
基準値や地域や時間帯によって異なるため、朝昼夜など時間帯変えて測定するなどの工夫も必要になります。
【参考】騒音の環境基準
地域の類型 | 基準値 | |
昼間 | 夜間 | |
AA | 50デシベル以下 | 40デシベル以下 |
AおよびB | 55デシベル以下 | 45デシベル以下 |
C | 60デシベル以下 | 50デシベル以下 |
- 時間の区分は、昼間を午前6時から午後10時までの間とし、夜間を午後10時から翌日の午前6時までの間とする。
- AAを当てはめる地域は、療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域とする。
- Aを当てはめる地域は、専ら住居の用に供される地域とする。
- Bを当てはめる地域は、主として住居の用に供される地域とする。
- Cを当てはめる地域は、相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域とする。
日照阻害により利用価値が著しく低下している宅地に該当するケース
「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の対象となる日照阻害は、原則として建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える日照阻害がある場合です。
建築基準法第56条の2は、日影による中高層の建築物の高さの制限について規定している条文で、地域や建築物の高さによって日照時間の制限は異なります。
そのため日照阻害を根拠として減額補正を適用する場合は、評価対象地の地域や構築物を確認し、実際の日影時間を調べる必要があります。
<日影による中高層の建築物の制限の一例>
地域または区域 | 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域 |
制限を受ける建築物 | 軒の高さが7メートルを超える建築物または、地階を除く階数が3以上の建築物 |
平均地盤面からの高さ | 1.5m |
敷地境界線からの水平距離が10m以内の範囲における日影時間 | 3時間(道の区域内にあっては、2時間) |
敷地境界線からの水平距離が10mを超える範囲における日影時間 | 2時間(道の区域内にあっては、1.5時間) |
※平均地盤面からの高さは、当該建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面からの高さをいう。
取引金額が低下する要素に該当するケース
「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の適用対象となる取引金額が低下する要素には、評価対象地付近に墓地やゴミ処理場が存在する、公害により強い臭気があるなどのケースがあります。
減額補正を適用できるかの判断基準は、周辺地域よりも取引金額が下がる特殊性があるかどうかです。
特殊事情が取引金額を下げるほどの要素でなければ減額補正は適用できませんし、特殊事情があったとしても、路線価や固定資産税評価額、評価倍率に利用価値低下の要素が加味されている場合は補正の対象外です。
まとめ
相続税では評価対象地ごとに最適な評価方法を確認し、評価額を算出しなければなりません。
3,000万円の土地に対して10%の減額補正が適用できれば、相続税評価額は300万円も下げられますし、他の減価要因と重複適用することで評価額を半額以下にできるケースもあります。
一方で、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」の適否判定はもちろんのこと、該当する形状補正等を確認するために、評価対象地の現地確認は必要です。
相続税の申告書を提出する際は計算過程や根拠を示す必要があり、根拠が不十分だと税務調査に減額補正を否認される可能性があります。
確実かつ安全に相続税を節税したい方は、相続税専門の税理士に相談していただき、適切な方法で土地の評価額を算出してください。