今回は、日頃、相続対策にアンテナを高く張っている皆様に、さらにその精度を高めていただきたく、セミナー講師としての立場から、また、私自身が数々のセミナーを受講してきた経験から、効果的な受講方法をお教えしたいと思います。
本当に受けるべきセミナーを見極めてください
近年コロナ禍により、セミナーの主流はオンラインセミナーになりました。自宅や会社など場所を問わず受講できる手軽さから、これまで以上に多種多様なセミナーが企画されています。
どんなセミナーにも共通しているのが、講師からの「提案」です。相続対策がテーマであれば、相続対策を行う前の心の持ち方、乗り気でない親(や子)を相続対策の場に連れ出す方法、資産の組み換えや相続発生前の不動産評価などの提案がそれにあたります。受講者はセミナーを聞きながら、講師の話を自身の状況と照らし合わせ、「提案」に乗るか否かを判断します。いい提案であれば、実行スケジュール(何を、いつまでに、誰が、どうやって)まで決めるべきでしょう。提案が自身に適さないものであれば、代替案を検討すべきです。
以上のことを踏まえて考えると、「受ける意味がなさそうなセミナー」が見えてきます。それは、単に自身の知識や知見を高めるためだけに参加するセミナーです。
危機に直面した時こそが問題解決への近道!
知識や知見を高めるために参加するセミナーはなぜ意味がないのでしょう? それは、そこに危機感が存在していないからです。人はすぐ側にある問題には真剣に向き合えますが、先々起きるかもしれないことや自身と直接関わりのない物事には意識が向きづらいものです。
では、危機感とはどのように醸成されるのでしょう。病気に例えれば、「人間ドック」ということになるでしょうか。身体(現状)を分析し、病気(課題)を見つけ、お医者様(専門家)と相談し、治療(相続対策)を行っていく。相続対策における分析要素は、①遺産分割 ②納税資金 ③節税 ④介護 の4つの項目です。中でも忘れてはいけないのが「④介護」です。
少し話が横道に逸れますが、介護負担と相続分配は民法上、イコールの関係になっていません。加えて、介護に必要性が生じるのは一般的に相続直前であることから、「①遺産分割」への影響が大きいものです。遺産分割がうまくいかないと、「②納税資金」や「③節税」にも悪影響を与えます。
話を元に戻します。①から④の各項目について現状を把握し、理想像を思い描いたら、準備不足の項目の補填に役立つテーマの相続対策セミナーを受講すればよいのです。
メモは聴いた瞬間に具体的な表現で書く
ここからは受講当日の注意点をお話しします。
セミナーでは一般的に、要点を簡潔にまとめた「レジュメ」が配布(オンラインであれば画面共有)されることが多いでしょう。レジュメの構成やページ数はセミナーの内容や所要時間によっても異なりますが、私自身はざっくりとした内容のレジュメを作成することが多いです。
私のセミナーでは、レジュメに書かない(書ききれない)実務上の勘所を口頭で頻繁にお伝えしています。その内容こそが実はセミナーの肝であり、セミナー終了後に提案を実行するか否かの重要な判断材料になる可能性があります。
講師の話をのちの思考に生かすためには、情報の量と質を失わないことが重要です。情報の絶対量を決めるのはセミナーを聴きながら取る、メモ書きの文章量です。メモは必ず、単語ではなく文章で取ってください。抽象的な表現は避け具体的な文章で記録を残しましょう。セミナー終了後の時間経過による忘却に一定の効果を発揮してくれるはずです。
記憶は時間と共に薄れます。即座にレポートを作成!
「いい話を聞いた」これで思考が止まってしまう受講の仕方が最も危険です。時間と費用をかけてセミナーを受講したのであれば、講師の提案を実行する・しないを決め、実行するのであれば実行スケジュールを立て、早急に動くことが重要です。
その検討の一助となるのが「セミナーレポート」です。企業などでは「研修報告書」とも呼ばれ、研修に参加して学んだこと、そこから得た成果を報告することに用いられます。下記にセミナー後の振り返りポイントをまとめますので、受講時にご活用いただければと思います。
〈セミナー後の振り返りポイント〉
- 目指す姿
- 目標
- 行動計画【いつまでに/何を/誰が/誰と/どうやって】
- 明日から実行しようと感じたこと【いつから/いつまでに/何を/どうやって/誰と(誰が)】
セミナー受講が相続対策に繋がった事例
然るハウスメーカー様が主催され私が講師として招かれたセミナーを受講されたA様のお話です。
セミナーは「相続税還付」と「相続対策=介護対策」という二部構成。前段は「相続税申告期限後、5年以内であれば、主に土地の評価を見直すことで納め過ぎた相続税が取り戻せますよ」という内容。後段は、「相続対策を考えるのであれば介護対策から考えなさい」という、心の置き方を説くセミナーでした。
都内にお住まいのA様は、財産の7割以上が不動産であり、その評価の高さに苦しんでいました。顧問税理士の先生とは密なコミュニケーションを取ることが難しく、予想相続税額や相続対策についても相談できずにいました。また親御様の介護中につき、各相続人の負担に見合った遺産分割をしたいという希望もお持ちであり、悩みと現状が整理されていました。
セミナー受講後、土地評価のテクニックが相続税額を決定する大きな要素であるということに気付かれたA様は、早速、当事務所に個別相談のお申し込みをされました。現状の相続税額及び土地の評価額を、相続専門税理士・不動産鑑定士の観点からお伝えし、介護負担に応じた遺産分配も遺言書によって整理することができました。
その他の対策も合わせて行うことで、ある程度の相続税額の減少も見込めることがわかり、A様ご了解のもと顧問税理士の先生にもご挨拶に伺い、協力して業務を整理。その後に発生したご相続ではシミュレーション時の税額9500万円を大幅に下回り、約7000万円で申告することができました。医者と同様、税理士も専門特化の世界であるということをお客様に実感いただけた経験でした。
当グループではこれからも皆様に有益な情報をお届けできるようセミナー登壇を続けてまいります。ぜひお時間の許す限り、セミナーにお越しいただけますと幸いです。
この記事を書いた人
税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。平成17年 税理士登録、平成18年 フジ相続税理士法人設立。
相続に特化した専門事務所の代表税理士として、不動産評価部門の株式会社フジ総合鑑定とともに、年間950件以上の相続税申告・減額・還付案件に携わる。
不動産・保険等への造詣を生かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。
平成26年1月に藤宮浩(株式会社フジ総合鑑定 代表)との共著となる初の単行本『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)を出版。
平成27年7月に第2弾となる『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)を出版。
平成30年4月に第3弾となる「相続税を納め過ぎないための土地評価の本」(現代書林)を出版。