相続対策のご相談をお受けしていて、よくこういうお声をいただきます。
「親に相続対策をしてほしいのですが、話が切り出しづらく、困っています」
確かに、相続税を払う子世代にとっては切実な問題でも、財産を持っている親が動かないことには相続対策はできません。
しかし親に向かって相続の話はしづらい…というわけです。
そういう場合は、もっと「近い将来」の話から始めてみてはいかがでしょうか。
老後の生活について話し合っていますか?
「いまの状態」で相続が起こった場合のリスクを考えて、みなさん相続対策をしようとするのですが、現在から相続が起こるまでの間には、介護生活も含めいろいろなことが想定されます。
これからの暮らしに親御さんがどんなことを望むのか、もしも介護が必要になった場合はどうしたいのか、老後資金はどの程度必要なのか、それによっても適した相続対策は異なります。
介護を受けるとしたらどの方法で誰に頼みたいのか、親御さんの希望はきっとあると思います。
長男の奥さんなのか、娘さんなのか、あるいは「介護施設の方が気楽だ」という方もいるでしょう。
もちろん介護のことばかりではなく、親御さんが望んでいる生活や、叶えたい夢があるかもしれません。
相続対策が、そういった老後の生活設計と矛盾するものであってはなりませんから、相続対策を検討するときには、親御さんのこれからの希望をヒアリングすることが大切です。
お子さん側の希望も含め、家族のこれからの生活について意識を共有することが、相続対策を考える第一歩になると思います。
介護に端を発する相続トラブル
もうひとつ、「介護対策」が必要な理由として、「争族」の原因になりやすいということがあります。
相続税の申告業務に携わっていると、遺産分割協議でもめている場面に出くわすことが少なくありません。中でも圧倒的に多いのが、「介護」に端を発するトラブルなのです。
親子がそれぞれ独立して生活している家族も多い中、親の介護を担った子どもやその伴侶が「介護を担った分、財産を多くもらって当然だ」と考えるのは人情だと思います。
しかし、介護を担わなかった子どもは必ずしも承知しません。
次男が言います。
「兄さんたちは介護をしたと言っているけど、ずっと同居していたから家賃を払わなくてよかったじゃないか。その分、楽をしていただろう」
次男の嫁が陰で言います。
「お義兄さん夫婦は、お義父さんの年金まで自由に使っていたのよ。その分、いい思いもしているわけだから」
それを受けて、次男がまた主張します。
「俺たちは父さんの年金なんて一切もらっていないよ。兄さんたちは恩恵を受けたんだろう? だから、財産くらいはしっかり分けてもらわないと。民法でも、均等に相続するものと決められているんだし」
長男は反論します。
「何を言っているんだ。年金は父さんの生活費や介護の費用に使っただけで、俺たちが自由に使ったわけじゃない。それどころか、介護が必要になって自宅を改装した費用だとか、俺たちが負担した金額だって小さくない。それに、介護にかけた時間はどうしてくれるんだ。そもそもお前は何もしていないじゃないか」
残念ながら、しかるべき対策をしないまま介護状態になり、その後に相続が発生した案件では、このようにもめる例が多いのです。
介護をした人、しなかった人それぞれに言い分はありますから、ここで言いたいのはどちらが正しいということではありません。 ただ、相続が起こる前に家族間で意識共有ができていて、対策をとっていれば、防げた例も多いことと思います。
相続対策は今の延長線上で考える
相続は、「今の生活」や「これからの生活」の延長線上にあります。 相続対策も、それらをふまえなければ、本当に必要な対策を見誤ってしまうかもしれません。
まずは親御さんがこれからの生活にどういった不安を持っていて、どういう暮らしを望んでいるのか、自分はどういう希望を持っているのか、お話し合いの場を設けてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。平成17年 税理士登録、平成18年 フジ相続税理士法人設立。
相続に特化した専門事務所の代表税理士として、不動産評価部門の株式会社フジ総合鑑定とともに、年間950件以上の相続税申告・減額・還付案件に携わる。
不動産・保険等への造詣を生かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。
平成26年1月に藤宮浩(株式会社フジ総合鑑定 代表)との共著となる初の単行本『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)を出版。
平成27年7月に第2弾となる『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)を出版。
平成30年4月に第3弾となる「相続税を納め過ぎないための土地評価の本」(現代書林)を出版。