地主様・不動産オーナー様のための 円満相続コラム

フジ総合グループの代表者5名による
コラムページです。
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不動産オーナーの8050問題

今回は税金の話から離れて、不動産オーナーの「8050問題」を取り上げます。
ご存じでしょうが、8050問題とは近年、顕在化してきた長期的な引きこもりに関する社会問題をいいます。引きこもりの子をもつ家庭が高齢化し、80代の親が50代の子の面倒をみるという体力的にも経済的にも苦しい状況の中、社会から孤立してしまうという深刻な問題です。
しかし、ここではその本来の意味ではなく、同様の年代における不動産オーナーの親子間ギャップの問題についてお話しします。

不動産オーナー家族の「8050問題」

「突然、不動産管理をしなきゃならなくなって、何が何だかわからなかったよ」。賃貸不動産を持つ親御さんが亡くなり(あるいは介護状態になり)、管理を引き継いだお子さんからよく聞かれる言葉です。
「駐車場を借りてるって人がいきなりお金を持ってやってきて、『これ来月分の賃料ね。台帳にハンコちょうだい』なんて言うんだもん。それが月末に何人もだよ。全部で何人に貸してるのかもわからないし、本当にその人の言う金額で合ってるのかもわからない。こっちは仕事もあるから妻に対応をお願いしたけど、買い物にも行けないって困ってた。こう言っちゃなんだけど、正直、残された自分たちは迷惑したよ。親父は最後まで何も教えてくれなかったし、書類も整理してくれてなかったんだもん」。
これが、私の考える不動産オーナーの8050問題。不動産から隔てられていたお子さんが突然、不動産管理(賃貸経営)の世界に放り込まれて、右往左往している場面のなんと多いことか。

どうしてスムーズに引き継げない?

主な不動産管理業務

ソフト面の管理 ハード面の管理
●入居者募集
●内見対応
●入居者審査・保証人審査
●賃貸借契約
●入居手続き・更新手続き
●家賃の入金確認・未納督促
●退去手続き・敷金の精算
●トラブル・クレーム対応
●修繕計画の周知
●賃料設定・募集戦略・
キャンペーンの立案 など
●日常清掃・定期清掃
●植栽管理
●電気設備・給排水設備・ エレベーター等の点検
●貯水槽の点検・清掃・水質検査
●防災点検
●害虫予防・駆除
●設備修理・交換
●原状回復
●リフォーム・大規模修繕
●リノベーション・建て替え など

 

なぜ、元気なうちに上手く管理を引き継げないのでしょうか。
親としては「借主との付き合いが長く関係も良好だからあえてそれを変えるのが面倒」「自分の懐具合を子どもに知られたくない」。子としては「忙しくて不動産管理に回す時間がない」「実家が遠くて通えない」、といった理由が挙げられるでしょうか。親子双方に事情がありますが、だからといって先延ばしにするのはあまりよくありません。

不動産そのものについては、ほとんどのご家族が「親から子へ引き継ぐべきもの」とお考えです。承継にかかる税金などのコスト削減に意欲的な方もたくさんいます。ところが、不動産に関するさまざまな「情報」の引き継ぎとなると、その必要性を見過ごしている方が多いのです。
しかし、情報が伝わっていないことで被る不利益は確実にあります。賃貸経営は「自動的にお金が入ってくる仕事」ではありません。仲介会社や管理会社との連携、空室対策、入居者の審査、トラブルへの対処、原状回復といった入退去に伴う一連の業務をこなす一方で、中長期的な建物修繕やリノベーションも計画的に行っていく必要があります(図表1)。慣れない人が手探りで管理していたのでは何ごとも後手後手になり、余計な費用もかかります。

もちろん、引き継ぎマニュアルがあるわけでもなければ、親の持つ情報がテレパシーで子に伝わるものでもありませんから、誰にどのタイミングで移管するのかは各々の家庭で決めていかねばなりません。明白なのは、経験者が隣で伴走しながら指導するのが時間的にもコスト的にも効率的だということです。

まずは情報のリストアップを

ではどのように移管すればいいのか。まずは親が情報を整理することから始めましょう。
第一に、不動産に限らずすべての資産・債務をリストアップした財産目録を作ります。これは、資金繰りや相続対策の優先度などを検討する上で必須の資料となります。評価額の算定が難しければ、税理士に作ってもらいましょう(宣伝になりますが、当グループでも財産評価と相続税額試算、相続対策の提案をする「相続対策シミュレーション」を承っています。よろしければご検討を)。
第二に、物件ごとに賃貸借情報や修繕履歴をまとめます(図表2)。また、敷地の境界や私道に関することは当事者の属人的な情報になりがちですので、取り決め等があるなら記録に残しておきましょう。地積測量図や建築計画概要書、設計図面などの図面類も整理します。
また、人脈の引き継ぎも大事です。賃貸経営は仲介会社や設備会社、税理士などとパートナーシップを組んで進めていくもの。名刺ファイルでもいいですが、できることなら顔合わせもしておくのが理想的です。

 

賃貸借情報 修繕履歴 信頼できる人
部屋番号、専有面積、用途、契約者名、入居者名、保証人・保証会社名、賃料、共益費、敷金、礼金、契約開始日・終了日など 実施年月(着工日・竣工日)、工事名称、場所、内容、金額、依頼先など 建築会社、仲介会社、管理会社、清掃会社、電気工事会社、設備メンテナンス会社、リフォーム会社、外壁塗装会社、
金融機関、弁護士、税理士など

できるところから関わっていきましょう

これらを後継者となるお子さんと共有します。お子さんは年間を通して管理を手伝えれば、繁忙期・平時・閑散期のサイクルを一通り経験できてベストです。通して関わるのが難しければ、入居審査や退去立会い、修繕立会いなどのパーツだけでもいいでしょう。それさえも…ということであれば、相続や不動産の本を読ませる、セミナーに親子で参加する、税理士との打ち合わせに出させるなど、とにかく一部分だけでも参加させる(参加する)ことが重要です。

こうして不動産管理のソフト面(入居者に関すること)とハード面(建物・設備に関すること)の要領をつかめれば最低限の目的は達成。ただ、常に時流の研究と工夫が求められるのが賃貸経営です。入居率アップ、入居者満足度アップ、リスク(家賃滞納や入居者同士のトラブル)回避のためのアイデアを一緒に考えられるようになれば頼もしい存在です。
あとは帳簿類の整理、税務申告のレクチャーも忘れずに。間もなく年末=個人事業者の事業年度末。一緒に確定申告をやってみれば、年間の収支の感覚もつかめると思います。思い立ったが吉日、今がベストタイミングではないでしょうか?

この記事を書いた人

税理士
髙原 誠(たかはら・まこと)

フジ相続税理士法人 代表社員

東京都出身。平成17年 税理士登録、平成18年 フジ相続税理士法人設立。
相続に特化した専門事務所の代表税理士として、不動産評価部門の株式会社フジ総合鑑定とともに、年間950件以上の相続税申告・減額・還付案件に携わる。
不動産・保険等への造詣を生かした相続実務に定評があり、プレジデントや週刊女性など各種媒体への寄稿・取材協力も多数行う。
平成26年1月に藤宮浩(株式会社フジ総合鑑定 代表)との共著となる初の単行本『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)を出版。
平成27年7月に第2弾となる『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)を出版。
平成30年4月に第3弾となる「相続税を納め過ぎないための土地評価の本」(現代書林)を出版。