
夫の姓を選んだ妻に聞いてみました
今回のテーマは「選択的夫婦別姓制度」(以下「別姓制度」といいます)です。まずは、私が妻に行ったインタビューをご紹介します。
A.「預金口座やクレジットカード、運転免許証など、あらゆるものの名義変更をしなければならないのが面倒だった。また、仕事で旧姓が浸透していたので、改姓して同一人物と分かりにくくなるのが心配だった」
A.「先述のような懸念はあったが旧姓にはしなかったと思う」
A.「いいえ」
妻の声は一例として、姓の選択には様々な意見や課題があります。
別姓制度をめぐっては、90年代初頭から議論が本格化しましたが、実現には至っていません。
現在の法律では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(民法750条)とされており、夫婦は婚姻時にどちらかの氏(姓)を選択しなければなりません。
厚生労働省の統計によると、夫の姓を選択した割合は約95%にのぼります。

大多数が夫の姓を選んでいるのは、意図的というよりは「慣例・しきたりに従った」というのが実情ではないでしょうか。
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別姓制度は相続に影響する?
それでは、別姓制度と相続の関係について考えてみたいと思います。
まず、相続権は婚姻関係と血縁関係、法律上の親子関係によって決まり、姓の一致・不一致が相続権そのものに影響することはありません。
一方、相続手続きに関しては、制度導入による影響があるかもしれません。
実務上、戸籍によって婚姻関係や血縁関係を証明する必要があるため、戸籍の記載事項が作業のスピードに影響する可能性があります。
別姓制度が導入された場合の戸籍について、法制審議会答申案の記載例を見ると、現在の戸籍では上部に筆頭者の姓名が記載され、夫・妻・子の各欄には名だけが記載されるのに対し、別姓夫婦の戸籍では各人の欄にも姓名が記載されると想定されています。
現行法における戸籍記載例

想定される別姓夫婦の戸籍記載例

出典:法務省「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html(一部加工)
これが実現するならば、一つの戸籍に姓が混在することになり、情報量が増える分、戸籍調査の作業がより複雑になるのではと想像します。
ちなみに、平成8年の法制審議会答申では、子の姓は婚姻時にあらかじめ決めておくこととし、子が複数いる場合には、子は全員同じ姓を名乗ることとされています。
相続手続きにおける戸籍調査は誰が行う?
日本の近代的な戸籍制度は、明治5年に作られた「壬申戸籍」に始まります。
明治31年には民法(旧民法)が施行されて家制度が法的に確立し、これに合わせて戸籍も「家」を基盤としたものに編製されました。
家制度のもとでは、戸主を筆頭に家族全員が同一戸籍に入り、姓も家単位で統一されていました。
昭和22年の民法改正により家制度は廃止され、戸籍は「夫婦と未婚の子」を単位とする現在の形式へと変わりましたが、夫婦同姓の原則は維持されています。
姓は法律上の親族関係を示す記号としての役割を今も担っています。
それはさておき、相続時の戸籍調査は誰が行うのでしょうか。
遺産分割協議をはじめ、多くの相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式が必要となります。
これは、戸籍から婚姻や離婚、子の出生、認知、養子縁組等の情報を読み取り、法定相続人を確定して相続関係を把握するためです。
慣れないと難しいものですが、この作業は原則として相続人等の財産を取得する人が行わなければなりません。
前掲の戸籍記載例を前提とするならば、別姓制度が導入されたとしても夫婦が同一の戸籍に入る形は変わらないと考えられ、戸籍調査の手順が劇的に困難化するとまでは言えません。
とはいえ、ただでさえ読み解くのが難しい戸籍に「姓が異なる」という新たなパターンが加わり、家族関係を直感的に把握しづらくなるならば、より慎重に記載事項を確認する必要があると考えられます。
例えば、故人に複数の婚姻歴がある場合に、故人の姓と異なる姓の「子」を戸籍上に見つけたら、それが現在の配偶者との子なのか、前配偶者との子なのか、養子なのか、あるいは別の関係性なのか、より注意して続柄や父母の氏名などを確認する必要が出てきそうです。
戸籍の種類と相続での必要性
名称 | 内容 | 相続での必要性 |
---|---|---|
現戸籍謄本 | 現在の戸籍全員の記載事項の写し | 必要 |
戸籍抄本 | 特定の人の記載事項の写し | 原則不要 |
除籍謄本 | 全員が除籍済の戸籍の写し | 必要 |
改製原戸籍 | 改製前の古い戸籍 | 必要 |
「負動産」の登記も忘れずに
本稿は別姓制度について賛成または反対の立場を示すものではありません。
ただ、導入された場合、戸籍に記載される情報が増えることで、相続手続きの複雑化が予想されることは理解しておく必要があります。
近年、所有者不明土地の増加が社会問題となり、相続登記が義務化されました。
相続登記も他の手続き同様に戸籍の収集・解読が必要となります。
地主さんの相続では「負動産」の遺産分割や登記が放置されることが少なくありません。
戸籍調査は現在も手間がかかるものですが、相続登記を放置せず(特に負動産)、現行制度と家族の事情を踏まえて、できることから着手していきましょう。
*法務省等では「選択的夫婦別氏制度」という呼称を採用していますが、ここではより一般的な呼称として「選択的夫婦別姓制度」を用いました。
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