他人へ貸し付けている土地は貸宅地として評価することになりますが、設定されている借地権の種類によって評価方法は異なります。
また「定期借地権等の目的となっている宅地」は、原則・例外の評価方法があり、評価対象地ごとに適した方法で計算しなければなりません。
本記事では、定期借地権等の目的となっている宅地の評価方法と、計算時の注意点について解説します。
借地権は相続税の課税対象財産であり、建物の所有目的で土地を借りる際に借地権が設定されます。借地権には普通借地権以外に定期借地権が存在し、借地権の種類によって評価方法が変わることもあるので、相続税の計算をする際には注意が必要です。
もくじ
定期借地権等の種類
定期借地権は、一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権の3種類があり、これらの定期借地権に共通する特徴として、契約期間の到来により確定的に権利関係が終了する事が挙げられます。
また一時使用目的の借地権(借地借家法第25条)についても、法定更新制度等の規定の適用がないことから、定期借地権等の中に含めて整理することとしています。
・一般定期借地権(借地借家法第22条)
・事業用定期借地権等(借地借家法第23条)
・建物譲渡特約付借地権(借地借家法第24条)
一般定期借地権
「一般定期借地権」とは、公正証書等の書面により借地期間を50年以上とし、借地期間満了により借地権が終了するものをいいます。
契約の更新および、建物の築造による存続期間の延長がないのが特徴です。
また期間満了による建物の買取請求をしない特約を付けることができますが、特約は必ず公正証書等の書面によって行わなければいけません。
事業用定期借地権等
「事業用定期借地権等」とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的として契約する借地権です。契約の更新及び建物買取請求権はありませんが、借地権の設定期間を30年以上50年未満とする場合においては、契約の更新が可能で、建物買取請求権も行使することができます。ただし、これらを行使しないこととする特約をつけることも可能です。
一般定期借地権と異なり、10年以上50年未満の借地期間を設定します。存続期間を10年以上30年未満として借地権を設定する場合には、契約の更新及び建物買取請求権はありません。
なお事業用定期借地権の設定契約については、必ず公正証書により行う必要があります。
建物譲渡特約付借地権
「建物譲渡特約付借地権」とは、借地権設定後30年以上経過した日に土地所有者が借地人から借地上の建物を買取ることを約束した借地権です。
借地権を設定する際、借地権を消滅させるために30年以上経過した日において、相当の対価で借地上の建物を地主に譲渡する旨の特約を結ぶことにより、建物譲渡特約付借地権が設定されます。
一般定期借地権や事業用定期借地権等とは違い、口頭による契約も可能ですが、書面により契約するのが望ましいとされています。
一時使用目的の借地権
「一時使用目的の借地権」とは、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな借地権をいいます。
一時使用目的であると認められる場合には、借地借家法の大部分の規定が適用されないため、他の借地権の目的となっている宅地とは評価方法が大きく異なります。
定期借地権等の評価方法
定期借地権等の価額は、原則として、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益および、その残存期間を基として評定した価額によって評価します。
ただし課税上弊害がない限り、次の算式で計算した数値を乗じた金額により評価します。
定期借地権等の価額は借地権割合とは異なり、原則として個々の契約内容等によりそれぞれ異なった評価額となりますのでご注意ください。
課税時期における自用地価額×(A÷B)×(C÷D)=定期借地権等の評価額
A:定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
B:定期借地権等の設定の時におけるその宅地の通常の取引価額
C:課税時期における、その定期借地権等の残存期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D:定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
定期借地権等の目的となっている宅地の評価方法
定期借地権等の目的となっている宅地の価額は、その宅地の自用地評価額から定期借地権等の価額を控除した金額によって評価するのが原則です。
ただし定期借地権等の価額が、宅地の自用地評価額に下記の定期借地権等の残存期間に応じた割合を乗じて計算した金額を下回る場合、自用地評価額から残存期間に応じた割合を乗じて計算した金額を控除した価額を評価額とします。
自用地評価額−①または②=定期借地権等の目的となっている宅地の評価額
①定期借地権等の価額
②自用地評価額に残存期間に応じた割合を乗じた価額
※いずれか大きい価額を適用
<定期借地権等の残存期間に応じた割合>
残存期間年数 | 残存期間に応じた割合 |
残存期間5年以下 | 5% |
残存期間5年超~10年以下 | 10% |
残存期間10年超~15年以下 | 15% |
残存期間15年超 | 20% |
一般定期借地権の目的となっている宅地の個別通達による評価方法
借地権割合がC(70%)~G(30%)の地域区分に存する、一般的借地権の目的となっている宅地の価額は、課税上弊害のない限り次の算式により求めた金額により評価します。
※借地権割合は、路線価図ではA~Gの記号、評価倍率表では「%」で表示されています。
自用地評価額−自用地評価額×(1−底地割合)×A÷B=一般定期借地権の目的となっている宅地の評価額
A:課税時期における、その一般定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
B:一般定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
<底地割合>
借地権割合 | C(70%) | D(60%) | E(50%) | F(40%) | G(30%) |
底地割合 | 55% | 60% | 65% | 70% | 75% |
なお、一般定期借地権の目的となっている宅地であっても、次に該当する場合には、原則的評価方法(定期借地権等の目的となっている宅地の評価)により評価します。
- 評価対象地が借地権割合A(90%)、B(80%)の地域区分にある場合
- 評価基本通達27のただし書きに定める「借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域」にある場合
- 課税上弊害がある場合
「課税上弊害がある場合」と「課税上弊害がない場合」の違い
「課税上弊害がある場合」とは、一般定期借地権の設定等の行為が専ら税負担回避を目的としたものであることが認められる場合、「一般定期借地権の目的となっている宅地の個別通達」により評価することが著しく不適当と認められる場合をいいます。
一般定期借地権の借地権者が次に掲げる者に該当する場合、「課税上弊害がある場合」に該当します。
<「課税上弊害がある場合」に該当するケース>
① | 借地権設定者の親族 |
② | 借地権設定者と婚姻関係にないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者および、その親族でその者と生計を一にしている者 |
③ | 借地権設定者の使用人および、使用人以外の者で、借地権設定者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者ならびに、これらの者の親族でこれらの者と生計を一にしている者 |
④ | 借地権設定者が、法人税法第2条第15号に規定する役員となっている会社 |
⑤ | 借地権設定者、親族、上記②、③に該当する者ならびに、これらの者と法人税法第2条第10号に規定する政令に定める特殊関係にある法人を判定の基礎とした場合、同号の規定に該当する同族会社となる法人 |
⑥ | 上記④、⑤に掲げる法人の会社役員または使用人 |
⑦ | 借地権設定者が借地借家法第15条の規定により、自ら一般定期借地権を有することとなる場合の借地権設定者 |
一般定期借地権の目的となっている宅地の評価方法は選択できるのか
個別通達における「一般定期借地権の目的となっている宅地の評価方法」は、納税者の便宜を考慮、評価の安全性に配慮し、財産評価基本通達27-2の原則的評価に代えて適用するものです。
そのため個別通達による評価方法と、原則的評価方法のいずれか有利な方を選択して、土地評価の計算をすることはできません。
一時使用目的の借地権の目的となっている宅地の評価方法
定期借地権等のうちの一時使用目的の借地権の目的となっている宅地については、次の算式により求めた金額により評価します。
自用地評価額-一時使用目的の借地権の価額=一時使用目的の借地権の目的となっている宅地の評価額
「一時使用のための借地権の価額」は、通常の借地権の価額と同様にその借地権の所在する地域について定められた借地権割合を、自用地評価額に乗じて評価することは適当ではないため、雑種地の賃借権と同じ評価方法により計算します。
雑種地の賃借権の価額は、賃貸借契約の内容や利用の状況等を勘案して評価するのが原則ですが、以下の方法により評価することができます。
※賃借権の登記がされているもの、設定の対価として権利金や一時金の支払のあるもの、堅固な構築物の所有を目的とするものなど。
雑種地の自用地評価額×法定地上権割合と借地権割合とのいずれか低い割合
雑種地の自用地評価額×法定地上権割合×1/2
「法定地上権割合」は、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される相続税法第23条に規定する割合です。
残存期間 | 地上権割合 |
10年以下 | 5% |
10年を超 15年以下 | 10% |
15年を超 20年以下 | 20% |
20年を超 25年以下 | 30% |
25年を超 30年以下 | 40% |
30年を超 35年以下 | 50% |
35年を超 40年以下 | 60% |
40年を超 45年以下 | 70% |
45年を超 50年以下 | 80% |
50年超 | 90% |
※残存期間の定めのない地上権については、地上権割合は40%とします。
まとめ
貸宅地として利用している土地でも、設定されている借地権の種類によって評価方法が異なります。
定期借地権等の目的となっている宅地の評価額は、通常の貸宅地評価とは異なりますし、原則と例外の評価方法があるためご注意ください。
相続税を適正に申告するためには土地の評価を正しく行うことが重要ですので、評価方法についてご不明な点がありましたら、相続税専門の税理士へご相談ください。