公正証書を作成しない事業用定期借地契約の効力

皆さまこんにちは。税理士の田村 嘉隆です。
今回は、借地権契約の締結状況を見直し再評価したことで、評価額を大幅に下げることができた事例をご紹介します。

コンビニに20年契約で貸している土地

本件相続においては、相続人である伊藤様が、愛知県名古屋市の大手コンビニエンスストアに賃貸期間20年で貸している土地を相続されました。相続開始時、借地契約の期間は15年強残っていました。

定期借地権が設定されている土地は、定期借地権の残存期間に応じて一定の評価減が認められています。

定期借地権の評価減
定期借地権の残存期間 評価減
15年を超えるもの 20%
10年超~15年以下 15%
5年超~10年以下 10%
5年以下 5%

当初の申告では、大手コンビニエンスストアとの契約であること、賃貸契約の期間が20年と定まっていたことから「事業用定期借地契約」を結んでいる土地であると判断していました。
相続開始時点で借地の残存期間が15年を超えていたことから、自用地の価額から20%を控除して評価がなされていました。

一見減額要素がないように思われた本ケースですが、念のため資料をお預かりして改めて精査してみると・・・
申告書に添付されていた賃貸借契約書が「公正証書」で作成されていないことがわかりました。

借地権契約を見直すと・・・

借地借家法23条3項の規定によれば、「事業用定期借地契約が有効に成立するためには、その契約内容が公正証書によって作成されていなければならない」とされています。

借地借家法第23条(事業用定期借地権等)
(1)専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を30年以上50年未満として借地権を設定する場合においては、第9条及び第16条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
(2)専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を10年以上30年未満として借地権を設定する場合には、第3条から第8条まで、第13条及び第18条の規定は、適用しない。
(3)前2項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。
参照:平成三年法律第九十号 借地借家法│e-GOV法令検索

したがって、この要件を満たしていない本契約は「事業用定期借地契約」としては有効に成立しておらず、「普通借地権契約」と判断する必要があります。

以上のことから、改めて「自用地」の価額に借地権割合50%を乗じた価額を「自用地」の価額から控除して再評価したところ、評価額は約1200万円下がり、伊藤様には150万円以上の相続税が還付されることになりました。

借地権契約を締結する際に「いずれ公正証書を作成する」と記載がある場合でも、実際に「公正証書」が作成されていない場合は「普通借地権契約」と判断される可能性が高いので、注意しましょう。

※本ケースは契約書以外の様々な要因も検討した結果、普通借地権と評価するのが妥当と判断した特殊な事例であり、必ずしも当然に認められるとは限らない。

田村 嘉隆(相続専門の税理士)
フジ総合グループ名古屋事務所長 田村 嘉隆(たむら よしたか)税理士 ‖ 年間約990件の相続関連業務を⼿掛けるフジ総合グループの名古屋事務所所⻑。世界60か国以上を4年半かけて旅をした経験を持つ元旅⼈税理⼠。その旅の中で⾝に染みた「⼀期⼀会の出会い」、⼈との繋がりや縁を⼤切にし、誠実な対応で地主からの信頼が厚い。