相続税土地評価では、宅地や畑などの地目ごとに評価方法が定められています。
農業用施設用地のような判断に迷う土地については、個別に評価方法が規定されていることがあるため、評価対象地に個別の評価方法があるかどうかを確認する必要があります。
本記事では、農業用施設用地の評価方法について詳しく解説します。
もくじ
農業用施設用地等の用語解説
相続税土地評価では多くの専門用語が用いられますので、農業用施設用地の評価に関係する用語について解説します。
農業用施設用地
農業用施設用地とは、農業用施設として利用されている宅地のことをいいます。
農業用施設は「農業振興地域の整備に関する法律」第3条第3号および第4号に規定する畜舎、蚕室、温室、農産物集出荷施設、農機具収納施設などの施設をいいます。
農用地区域
農用地区域とは、「農業振興地域の整備に関する法律」第8条に定められた区域をいいます。
長期的に農用の振興を図る目的として指定されており、地域内の土地は宅地などへの転用は禁止されています。
相続税土地評価においては、用途制限のある土地に対して減額補正を適用できるケースが多く、農用地区域内の土地は、その周辺にある土地に比べて評価額が低くなりがちです。
なお評価対象地が農用地区域内にある土地に該当するかどうかは、市区町村の農業委員会などで確認することができます。
市街化調整区域
市街化調整区域とは、都市計画法第7条第3項に規定されている区域です。
市街化を抑制する目的で定められている区域のため、建物の建築制限など土地の用途に制限があるのが特徴です。
評価対象地が市街化調整区域に該当するかは、所在する市区町村の都市計画課などで確認することができます。
地目
地目とは、土地の用途による区分をいいます。
不動産登記事務取扱手続準則第68条では23種類の地目が存在しますが、相続税で土地を評価する際の地目区分は9種類です。
相続税評価額を計算する上で存在しない登記上の地目については、下記の「地目の定め方」により区分することになります。
また地目は相続開始時点の現況により判断することとなり、登記上の地目と現況の地目が相違している場合、現況の地目により相続税評価額の計算を行います。
<相続税における地目区分>
地目 | 地目の定め方 |
宅地 | 建物の敷地および、その維持もしくは効用を果たすために必要な土地 |
田 | 農耕地で用水を利用して耕作する土地 |
畑 | 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地 |
山林 | 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地 |
原野 | 耕作の方法によらないで雑草、かん木類の生育する土地 |
牧場 | 家畜を放牧する土地 |
池沼 | かんがい用水でない水の貯留池 |
鉱泉地 | 鉱泉(温泉)の湧出口および、その維持に必要な土地 |
雑種地 | 上記のいずれにも該当しない土地 宅地に該当しない駐車場、ゴルフ場、遊園地、運動場、鉄軌道等の用地 |
農業用施設用地の評価方法
農業用施設用地として利用している土地であっても、農用地区域内または市街化調整区域内にある土地なのか、それ以外の地域にある土地なのかによって評価のしかたは異なります。
農用地区域内等にある農業用施設用地の評価
農用地区域内や、市街化調整区域内に存する農業用地施設用地の現況地目は宅地であり、宅地は建物を建てるための土地が対象となる地目です。
しかし地域内の農業用施設用地は農地と同様、住宅や店舗、工場等の通常の建物の用に供することについては都市計画法等による制限を受けており、土地の用途は原則農業用に限定されています。
そのため農用地区域内または市街化調整区域内に存する農業用施設の用に供されている宅地の価額は、以下の計算式により算出します。
(農地であるとした場合の1㎡当たりの価額+1㎡当たりの造成費相当額)×面積=農業用施設用地の価額
「農地であるとした場合の1㎡当たりの価額」は、その付近にある農地の価額(純農地または中間農地として評価した1㎡当たりの価額)を基準として求めます。
「1㎡当たりの造成費相当額」は、その農地を課税時期において当該農業用施設の用に供されている宅地とする場合、通常必要と認められる1㎡当たりの造成費に相当する金額です。
宅地造成する際に必要となる費用は評価対象地ごとに異なるため、現地調査により必要となる工事費用を確認しなければなりません。
また土地評価で用いる宅地造成費の金額は都道府県ごとに違いますので、複数の地域に農業用施設用地を所有している際は、対象地のある都道府県の宅地造成費により算出してください。
<参考:令和3年の平坦地の宅地造成費(東京都)>
工事費目 | 控除金額 | |
整 地 費 |
整地費 | 700円 |
伐採・抜根費 | 1,000円 | |
地盤改良費 | 1,600円 | |
土盛費 | 6,900円 | |
土止費 | 76,200円 |
※控除金額は整地費・土止費は1㎡当たり、土盛費は1㎥当たりの金額です。
なお固定資産税評価証明書等において、農業用施設用地の現況地目は原則として宅地となっており、「農業用施設用地」という地目はありません。
そのため「付近の農地価額」+「造成費相当額」で評価されている当該宅地の固定資産税評価額に、宅地の倍率を乗じて評価することがないよう注意してください。
農用地区域内等以外にある農業用施設用地の評価
農用地区域内等以外の地域にある農業用施設用地は、農業用施設用地の地目に従い、通常の宅地または雑種地の評価方法により評価します。
農用地区域内等以外の地域に存する土地は、開発行為、建築物の建築等の土地利用に関して、農業地区域内等のような制限はありません。
土地の利用制限がない場合、その地域に存する農業用施設用地の価額の水準は、その付近に存する通常の宅地や雑種地と同様程度の価格水準になっていることがあり、農地の価額を基準として評価額を算出することは不適当と考えられます。
したがって、そのような土地は農用地区域内等にある農業用施設用地の評価ではなく、状況の類似する付近の宅地または雑種地の価額を基準とし、その宅地との位置や形状、都市計画法等による公的規制の程度などの状況の差を考慮して評価することになります。
農業用施設用地の評価手順
農業用施設用地の相続税評価額は、次の手順により評価します。
土地の地目および現況確認
土地評価は、最初に評価対象地の相続開始時点における地目を確認します。
たとえば登記上の地目が畑であったとしても、実際には建物の敷地として利用している土地については、宅地として相続税評価額を計算します。
また以前は農業用施設用地として利用していた場合でも、農業を廃業するなど相続開始時点で土地を他の用途に使用している際は、農業用施設用地として評価することはできません。
所在地域の特定
農業用施設用地に該当する土地でも、農用地区域内または市街化調整区域内に存するか、それ以外の地域に存するかによって評価方法が変わってきます。
評価対象地が農業地区域内または市街化調整区域内にある土地なのかは、市区町村で確認することが可能です。
農用地区は農業委員会、市街化調整区域は都市計画課が担当していることが多いですが、市区町村によって担当課の名称が異なることもあります。
評価方式の確認および計算
土地を評価する方法には、路線価方式と倍率方式の2種類あり、地域によって用いる評価方式は決まっています。
路線価方式は、路線価図に記載されている路線価に面積を乗じて評価額を算出する方法で、主に市街化区域にある土地が対象の評価方式です。
評価対象地の形状によって画地補正が必要となり、形状が歪な土地は評価額が大きく減額できるケースもあります。
倍率方式は、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて評価額を算出する方法で、路線価がない地域が対象です。
評価倍率は地域や地目ごとに指定されており、国税庁ホームページで評価倍率を確認することができます。
評価対象地を農用地区域内または、市街化調整区域内にある農業用施設地として利用している場合には、農地の価額に造成費相当額を加算して評価額を算出します。
なお農業用施設用地でも、農用地区域内等以外の地域にある場合には、農業用施設用地の地目に従い、通常の宅地または雑種地の評価方法により計算してください。
条例指定区域内にある農業用施設用地の評価
条例指定区域とは、都市計画法第34条1項11号の規定に基づき都道府県等が条例で定めた区域をいいます。
市街化調整区域であっても、条例指定区域に該当する際は一定の要件を満たすことで住宅等の建築が可能です。
そのためいわゆる条例指定区域内に存在し、用途変更に制限のない農業用施設用地など、その位置や都市計画法の規定による建物の建築制限の内容等により、その地域における農業用施設用地以外の宅地の価格水準で取引されると見込まれるものについては、その付近にある農業用施設用地を除く宅地の価額に比準して評価します。
農機具置き場や農作業等の建物の敷地に対する小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、居住用または事業用の敷地として利用している土地について、一定の要件を満たす場合には、土地の評価額を最大80%減額することができる制度です。
農機具等の収納または農作業を行うことを目的とした建物の敷地は、他の要件を満たせば小規模宅地等の特例の対象となる「事業用宅地等」に該当します。
しかし、次に該当するものについては、小規模宅地等の特例の対象となる「事業用宅地等」を適用することはできません。
- 温室その他の建物で、その敷地が耕作の用に供されているもの
- 暗渠(あんきょ)その他の構築物で、その敷地が耕作・養畜等の用に供されるもの
なお上記の土地については、建物等の敷地とはいえ、農地または採草放牧地に該当するため、要件を満たすことで農地等の納税猶予の特例を適用することが可能です。
まとめ
農業用施設用地に該当する土地でも、所在する地域や利用状況により評価のしかたが変わりますし、相続開始時点の現況確認は必須です。
農業用施設用地の評価額を算出した場合には、計算の根拠を示さなければならず、評価誤りがあれば税務署から税務調査により指摘を受ける可能性もあります。
一方で、土地の評価額を過大に算出してしまうと相続税を余分に納めることになります。
節税の観点からも土地を正しく評価することは大切ですので、相続財産に土地がある方については、事前に相続税専門の税理士へご相談することをオススメいたします。