地下埋設物がある土地の相続税土地評価。計算方法と注意点

相続財産の土地の地下(地中)にゴミや産業廃棄物がある場合、相続税評価額の減額対象となります。

また土壌汚染地や、埋蔵文化財がある場合も減額補正の対象となり、補正計算の存在を知らないと、相続税を過大に納めることになりかねません。

本記事では、地下埋設物の種類と減額補正の計算方法について解説します。

地下埋設物とは

地下埋設物とは、地面の下に埋まっているものをいい、次のようなものが埋設物に該当します。

主な埋設物の種類

・使用停止した上下水道管
・使用停止した都市ガス管
・ブロック塀や擁壁で地下に埋まっている基礎部分
・産業廃棄物
・コンクリート片・廃材・ゴミ
・埋蔵文化財
・土壌汚染地

一般的に地下埋設物といえば、コンクリート片や産業廃棄物など、土地の価値を下げるものに対して使う表現ですが、解釈を広げると埋蔵文化財や土壌汚染地も地下埋設物に該当します。

地下埋設物が存在することによる相続税評価額への影響

相続税は、相続が発生した時点の財産に対して課税されるため、土地については相続開始時点の価値を算出することになります。

相続税評価額は、路線価方式や倍率方式を用いて計算することになり、土地の所在する地域や面積、形状に応じて評価しなければなりません。
たとえば宅地は建物を建てるための土地なので、建物が建てにくい形状の土地は減額補正の対象となります。

地下埋設物が存在する土地の場合、地下埋設物があると地盤強度が緩くなる可能性があるため、建物を建てる際は補強工事や地下埋設物を取り出すための費用が発生します。

また産業廃棄物や土壌汚染地については環境や健康への影響が懸念されるため、地下埋設物が無かった場合と比べて大きく価値が下がるなど、通常の土地と同じ方法では正確な価値を算出することはできません。

そのため地下埋設物がある土地については、地下埋設物の種類や状況に応じて個別に減額補正が必要となり、補正計算をしないと過大に評価額が算出され、相続税を過大に納めることになってしまいます。

地下埋設物がある土地の相続税評価額の計算方法

評価対象地に、産業廃棄物などの地下埋設物がある場合における評価額の算出方法について解説します。

地下埋設物がある土地の計算式

産業廃棄物などの地下埋設物がある場合、次の計算式により相続税評価額を算出します。

計算式

地下埋設物の相続税評価額=地下埋設物がないものとした場合の相続税評価額-撤去費用見積額×80%

計算方法としては、最初に地下埋設物がない場合における評価額を計算します。

土地の面積や形状によって、奥行価格補正や不整形地補正を行うのは通常の土地と同様です。
撤去費用見積額とは、地下埋設物を撤去する際に必要となる金額をいい、相続後に地下埋設物を撤去した場合は、実際に支払った領収書で金額を確認してください。

なお撤去費用の80%しか控除できないのは、路線価の金額は公示価格の80%相当とされているため、撤去費用も路線価に合わせて80%を乗じた金額を控除するとしているからです。

地下埋設物の調査方法

地下埋設物は最初に地歴調査を行い、地下埋設物があると推測される場合、試掘調査やボーリング調査を実施します。
地歴調査とは、公図や住宅地図などを用いて、その土地の過去の利用状況や建築されていた建物について調べる方法です。

たとえば評価対象地がゴミ処理場の跡地であれば、土地にゴミや産業廃棄物が埋まっている可能性も考えられますし、長年ガソリンスタンドとして利用されていた敷地ならタンクからガソリンが漏れ、土壌汚染地となっている可能性も想定されます。

試掘調査とは、試しに土地を掘って地中に埋設物が存在するか否かを確認する方法です。
実際に掘って調べる以外にも、地中レーダーを使用して地下埋設物の存在を確認する非破壊検査や、電磁砲探査などの方法を用いることもあります。

ボーリング調査とは、機械を使用して土地に穴を掘り、地盤の状況や地層境界の深度などを調べる際に用いられる調査方法です。
縦に穴を掘れば産業廃棄物が地層となって現れるため、蓄積している量から撤去する際の費用を把握することも可能となります。

地下埋設物を評価する場合の注意点

相続税評価額の減額が認められるのは、地下埋設物があることにより土地の取引価格が下がることが見込まれるためです。
産業廃棄物などが存在していても、売却する際に地下埋設物を取り除く必要がない場合には、撤去費用を控除することはできません。

したがって地下埋設物が存在するだけで、相続税評価額が減額されるわけではありませんのでご注意ください。

土壌汚染地がある土地の相続税評価額の計算方法

土壌汚染地のある土地の相続税評価額は、国税庁が「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」にて算出方法を定めております。

計算式

土壌汚染地の評価額=汚染がないものとした場合の評価額-浄化・改善費用に相当する金額-使用収益制限による減価に相当する金額-心理的要因による減価に相当する金額

各控除の合計額が「汚染がないものとした場合の評価額」を超えるときは、汚染がないものとした場合の評価額が控除額の限度となります。

汚染がないものとした場合の評価額

汚染がないものとした場合の評価額とは、土地の形状や面積を加味した補正計算をして算出した金額です。

長方形や正方形の土地であれば、路線価に面積を乗じるのみで評価額を計算できます。

しかし土地の形状が台形やいびつなものであれば、奥行価格補正や不整形地補正などの適用を検討し、形状に応じた補正率を乗じて評価額を算出します。

浄化・改善費用に相当する金額の算出方法

浄化・改善費用とは、土壌汚染の除去や遮水工封じ込め等の措置を実施するために発生する費用です。

浄化・改善費用は、汚染物質の種類や土地の汚染状況によって大きく異なり、汚染範囲が広くなれば費用が多くかかります。

また相続税評価額を算出する際に使用する路線価は、地価公示価格の80%相当額としているため、控除すべき浄化・改善費用についても、見積額の80%相当額を浄化・改善費用に相当する金額とします。

使用収益制限による減価に相当する金額の算出方法

使用収益制限による減価とは、土壌汚染の除去以外の措置を実施した場合、その措置の機能を維持するための利用制限により価値が下がることをいいます。

減価の算出方法は、使用収益制限の有無も含めて個々に判断しなければならず、減額補正を行う場合は合理的な理由を示す必要があります。

心理的要因による減価

心理的要因による減価とは、土壌汚染の存在に起因する心理的な嫌悪感から生ずる減価要因をいいます。

土壌汚染が過去に存在した場合、浄化が完了していても心理的嫌悪感を抱く人もいますので、実際に売買するとなると一般の土地よりも値引きすることになるため、その点を考慮して減額補正を行います。

控除する金額は、使用収益制限と同様に個別判断を必要とするため、主観のみで減価計算をすると税務署から否認されますのでご注意ください。

土壌汚染地に該当するかの調査方法

土壌汚染地に該当するかを確認する際は、最初に地歴調査を行います。

公図や住宅地図を用いて過去から現在までの土地の利用状況を調べ、登記事項証明書で過去の所有者から土壌汚染の疑いがあるかを確認します。

土壌汚染地の要措置区域を指定してある自治体もあり、要措置区域は各自治体のホームページで確認可能です。

また地歴調査により土壌汚染の現地調査が必要となった場合は、環境大臣等が指定する指定調査機関が土壌汚染状況調査を実施することになります。

土壌汚染地を評価する際の注意点

土壌汚染地の相続税評価額において、各控除の金額を算出するのは容易ではありません。

土壌汚染地の有無を実際に調査するとなると、数十万円から数百万円の調査費用がかかる場合もあります。

相続税評価額を下げるためだけに土壌汚染地の調査をするとなると、節税効果よりも実費の負担が大きくなることも考えられるため、土壌汚染地による減額補正処理を行うべきか否かの判断も重要です。

なお土壌汚染地の減額補正は、相続発生時に土壌汚染が確認された場合に行うものなので、相続以後に土壌汚染地となっても補正計算は行いません。

周知の埋蔵文化財包蔵地の相続税評価額の計算方法

土地の下には、産業廃棄物などマイナスにしかならない財産以外に埋蔵文化財が埋まっていることもあります。

埋蔵文化財の存在が確認された場合、発掘しなければならず、発掘費用を土地所有者が負担する場合は、当該費用相当額は土地の評価額から控除されます。

埋蔵文化財包蔵地とは

埋蔵文化財とは、土器や石器などの遺跡が埋まっている場所をいい、埋蔵文化財の存在が知られている土地を「周知の埋蔵文化財包蔵地」と呼んでいます。

文化財保護法では、周知の埋蔵文化財包蔵地において土木工事などの開発事業を行う場合、行政への事前届出が必要であると規定しています。

周知の埋蔵文化財包蔵地の評価方法

周知の埋蔵文化財包蔵地の計算式は、次のとおりです。

計算式

周知の埋蔵文化財包蔵地=埋蔵文化財がないものとした場合の相続税評価額-発掘調査費用相当額×80%

周知の埋蔵文化財包蔵地に該当する土地を宅地開発する場合、文化財保護法第93条の規定に基づき、埋蔵文化財の発掘調査を行わなければなりません。

発掘調査費用については土地所有者が負担しなければならず、相続税評価額を算出する際は、通常の土地の評価額から発掘調査費用を控除して、周知の埋蔵文化財包蔵地の評価額を計算します。

なお控除する埋蔵文化財の発掘調査費用については、路線価が公示価格の80%相当であることから、80%相当額が控除対象となります。

周知の埋蔵文化財包蔵地を評価する際の注意点

埋蔵文化財包蔵地の補正計算は、文化財の存在が明らかであることを証明しないと行えません。

また発掘調査費用については、原則所有者が負担することとなりますが、個人が非営利目的で行う住宅建設など費用負担を求めることが適当でないと判断される場合には、公費により発掘調査が実施されることもあります。

公費で発掘調査が行われれば、所有者の費用負担はありませんので、周知の埋蔵文化財包蔵地に該当する場合でも、発掘調査費用相当額は控除できないと考えられます。

地下埋設物があると知った場合は何をすればいいのか?

地下埋設物の評価方法について説明してきましたが、地下に埋まっているものの種類によって評価方法は異なります。たとえば土地に土壌汚染が確認された場合には、土壌汚染の度合いや、浄化・改善費用を見積もる必要があり、控除額は実際の状況に応じて個別に算出しなければなりません。

相続発生時、地下埋設物がある土地の相続税評価額を相続人だけで正確に算出するのは困難である場合がほとんどです。相続財産の土地に地下埋設物があった場合は、相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。

まとめ

地下埋設物がある土地のような個別的な評価を要する土地については、当該埋設物の撤去費用等の見積もりを適切に行えるかがポイントです。見積もりを適切に行うためには、建築士等の専門家や建設会社、土壌汚染調査機関等との連携が必要になります。

これにより、適切に撤去費用等を見積もり控除すれば、相続税評価額を減額することができますが、計算の過程や根拠で不明瞭な部分があったり、妥当性を見い出せないと、税務調査で控除額を否認される可能性もあります。

なお相続税の申告は、申告期限から5年間は更正の請求が可能です。

補正計算をせずに相続税の申告書を提出した場合、評価額を見直すことで相続税が還付されるケースもありますので、土地の評価額について疑問がありましたらお気軽にお問い合わせください。

藤宮 浩(不動産鑑定士)
フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士 ‖ フジ総合グループの代表を務め、年間990件以上の相続関連案件の土地評価に携わる。相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。