土地区画整理事業施行中に相続が発生!宅地の相続税土地評価は?

土地区画整理事業施行中に相続が発生!宅地の相続税土地評価は?

相続税は亡くなった時点の財産に対して課される税金であり、土地の評価も相続開始時点の状況に応じて行います。

相続開始時に土地区画整理事業施行中だった宅地については、工事の進行状況により評価方法が変わるため、本記事では土地区画整理事業中の宅地の評価について解説します。

土地区画整理事業とは

土地区画整理事業とは、都市計画区域内にある道路や公園などの公共施設を整備・改善したり、宅地の利用の増進を図るために土地区画形質の変更および、公共施設の新設・変更を行う市街地開発事業です。

道路や公園などが未整備な区域では、地権者から土地を提供(減歩)してもらい、その土地を道路や公園などの公共用地に充てることができます。

またその一部(保留地)を売却して移転や整備工事などの事業資金の一部に充てることにより、土地の区画を整え、宅地利用の増進を図ります。

<土地区画整理事業に関係する用語>

用語 用語解説
換地 土地区画整理事業により従前の土地を造成・整形し、地権者に対して新たに交付する宅地。
仮換地 土地区画整理事業が完了するまでの期間、従前の土地の代わりに使用収益することができる仮の土地。
換地処分 換地計画にかかる区域の土地区画整理事業の工事が完了後、従前の土地の地権者に対して土地を割り当て、最終的に帰属させる処分。
使用収益 物を直接に利活用して利益・利便を得ること。

 

使用収益するためには、物を直接に支配する権利(物権)が必要。

使用収益の停止 土地区画整理事業を行う上で、工事のために必要があれば土地の仮換地指定を行うことで使用収益を止めることができる。
地権者 土地を使用収益する権利を有している人。
土地の所有者以外に、地上権者や賃貸借権者なども地権者に該当する。
土地区画整理事業の施行者 土地区画整理事業を実施する人・法人・団体等。
従前地 土地区画整理事業が実施される前の土地。
減歩 土地区画整理事業で換地が行われた際、従前地から減少した面積。
清算金 従前地と換地の価値が異なる場合に徴収・交付される金額。

土地区画整理事業の流れ

土地区画整理事業は計画決定後、次の流れにより実施されます。

土地区画整理事業の工程

1.土地区画整理事業の開始
2.仮換地指定
3.工事・仮換地の使用収益開始
4.換地処分

土地区画整理事業は、土地区画整理事業が行われる地域や、その事業内容等に許認可を得て事業が開始されます。

土地区画整理事業は行政庁だけでなく、個人や組合、地方公共団体等が施行者となることもあります。

土地区画整理事業の施行者

・個人
・土地区画整理組合
・区画整理会社
・地方公共団体
・行政庁
・公団等(都市再生機構・地方住宅供給公社)

土地区画整理事業について許認可が得られると、仮換地の指定が行われます。

仮換地は土地区画整理事業が完了するまでの期間、従前地の代わりに使用収益できる仮の土地ですが、仮換地指定を受けた時点では仮換地は整備されていないため、使用収益できる状態ではありません。

土地区画整理事業が進行することで宅地が整備されていくと、仮換地工事が完了した場所から段階的に使用収益が可能な状態となり、事業施行者から地権者に使用開始の通知が行われます。

相続税土地評価を行う際には、使用収益ができる状態か否かによって評価額の計算が変わるため、工事の進捗状況を確認することが大変重要です。

土地区画整理事業の工事が完了すると換地処分により、従前の宅地に対応する換地が交付されます。

従前地と換地の価値に差が生じている場合は、清算金の徴収・交付が行われます。

個別評価申出書を提出すべきケース

評価対象地が路線価地域の場合、路線価に土地の面積を乗じて評価額を算出しますが、土地区画整理事業施行地域内にある土地については、路線価図には「個別評価」と表記されており、路線価は設定されていません。

そのため、評価を行う際には税務署に対して「個別評価申出書」を提出し、路線価を設定してもらう必要があります。

個別評価申出書を提出する税務署は、評価する土地が所在する地域の評定担当署です。

被相続人の住所地と評価対象地の所在地が異なる場合、個別評価申出書を提出する税務署と相続税を申告する税務署は別になりますのでご注意ください。

個別評価申出書の回答は、提出してからおおむね1か月程度の時間を要します。

土地区画整理事業施行地内にある土地に対して個別評価を行う際は、以下の書類を添付する必要があります。下記書類のうち、評価の参考になる書類を選択し添付します。

個別評価申出書に添付する書類等

・個別評価申出書
・別紙1 個別評価により評価する土地等の所在地、状況等の明細書
・別紙2 個別評価申出書添付資料一覧表
・評価する土地等の案内図
・仮換地指定通知書
・仮換地位置図
・仮換地の公図または実測図
・従前地位置図
・従前地の公図または実測図
重ね図
・仮換地の使用収益開始の日の通知書
・固定資産税評価証明書(評価対象の土地が倍率地域の場合)
・近傍宅地の1㎡当たりの固定資産税評価額の表示(評価対象地が倍率地域にある宅地以外の土地の場合)
・参考資料

土地区画整理事業施行中の宅地の評価

土地区画整理事業施行中に相続が発生した場合には、仮換地指定の有無や換地処分が完了しているかなど、工事の進捗状況によって個別に定められた方法で評価を行います。

 

仮換地指定前までの評価方法

仮換地が指定されると換地処分の公告がある日までは、従前地を使用できなくなりますが、指定前において使用制限はありません。

そのため土地区画整理事業の対象となった土地でも、仮換地が指定される前に相続が発生した場合には、従前(区画整理前)の宅地の価額により評価します。

なお土地の評価方法は一般的な土地と同様、路線価に画地補正を行い、評価対象地の面積を乗じて算出します。

 

仮換地指定から換地処分の間の評価方法(原則)

土地区画整理法第98条(仮換地の指定)の規定に基づき、仮換地が指定されている場合には、仮換地の価額に相当する価額によって評価します。

ただし相続開始時点で仮換地の造成工事が施行中であり、工事完了までの期間が1年を超えることが見込まれる場合は、その仮換地の造成工事が完了したものとして、路線価評価または倍率評価によって評価した価額の100分の95に相当する価額によって評価します。

また換地処分により、相続開始時点で清算金が徴収または交付されることが確実と見込まれるものがあるときには、その金額を評価上考慮し、清算金の額を加減算しなければなりません。

清算金が徴収される場合は仮換地の価額から減算し、清算金が交付される場合は仮換地の価額に加算して評価します。

 

仮換地指定から換地処分の間の評価方法(例外)

評価対象地が仮換地の指定を受けていても、仮換地について使用または収益を開始する日が別に定められており、仮換地について使用または収益を開始することができない場合は、従前の宅地の価額により評価します。

また仮換地の造成工事が行われていない地域にある土地については、次の状況からあえて仮換地の価額に相当する価額で評価する必要はないため、従前の道路に基づいて路線価等を評定し、これに基づき従前の宅地の価額を評価することが相当であると考えられます。

  • 仮換地が指定されても、従前の宅地をそのまま使用していること
  • 道路状況が仮換地指定の前後で変更がなく、従前の道路に路線価を付すことにより、従前の宅地の価額を評価することが可能であること
  • 仮換地に指定された土地の状況に応じて、清算金の額や換地処分までの期間等の諸事情を総合勘案し、仮換地の価額に相当する価額を算定することが困難であること

なお仮換地の指定後においても造成工事が未着手あり、従前の宅地を利用している場合には、利用上の制約を考慮する必要がないため、95%評価をすることはできません。

換地処分後の評価方法

換地処分によって土地区画整理事業は完了したことになるため、換地処分後に相続が発生した場合は、換地の評価額によって評価します。

換地の評価方法は、一般的な土地と同じです。

ただし換地処分された年に相続が発生した場合、路線価がまだ付されておらず、路線価図で「個別評価」と表記されていることも想定されますので、必要に応じて「個別評価申出書」を作成・提出してください。

相続税土地評価における土地区画整理事業に関する清算金の扱い

換地は、従前の宅地とその位置・地積・環境などが照応するように定められることを原則としていますが、実際には従前の宅地と換地が完全に照応するとは限りません。

そのため換地前後の宅地の価値に過不足が生じた場合は、清算金によって価値の過不足を清算することになります。

清算金が徴収・交付されるかは換地処分の公告により確定し、清算金は土地所有者の債権(交付を受ける場合)または債務(徴収される場合)となることから、土地の評価に影響を及ぼすことはありません。

換地処分により徴収(交付)される清算金のうち、課税時期に確実と見込まれるものがある場合、徴収される清算金は仮換地の評価額から控除し、交付される清算金は仮換地の評価額に加算する計算が必要です。

清算金が徴収される場合の計算式

仮換地の価額−清算金の額=従前地の評価額

清算金が交付される場合の計算式

仮換地の価額+清算金の額=従前地の評価額

土地改良事業施行中において一時利用地の指定が行われている場合の評価

土地改良事業とは、農業用排水施設等の生産基盤を整備することにより、農業生産性の向上や営農条件の改善を図るために行われる事業です。

土地改良事業において一時利用地の指定が行われた場合には、土地区画整理事業において仮換地が指定された場合と同様、従前の土地についての使用収益権が停止され、一時利用地について使用収益をすることが可能になります。

そのため土地改良事業において一時利用地の指定が行われた場合の土地の価額は、土地区画整理事業施行中の宅地の評価に準じて評価します。

また次の事業において、仮換地等が指定されている場合についても、土地区画整理事業施行中の宅地の評価に準じて評価することになります。

  • 新都市基盤整備法による土地整理
  • 大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法による住宅街区整備事業

なお一時利用地が指定されている場合であっても、次の事項のいずれにも該当するときは、従前の宅地の価額により評価します。

  • 一時利用地について、使用または収益を開始する日を別に定めるとされているため、当該一時利用地について使用または収益を開始することができない
  • 一時利用地の造成工事が行われていない

まとめ

土地区画整理事業施行中の宅地は、相続開始時点における事業の進捗状況によって評価方法が変わりますし、土地区画整理事業が始まった地域においては換地処分が完了するまでの期間、路線価および評価倍率は個別評価となります。

土地が個別評価対象地域にある場合、相続税の申告書作成と並行して「個別評価の申出書」の作成および、添付書類の準備をしなければなりません。

相続財産に土地区画整理事業施行中の宅地がある場合は、相続税専門の税理士へご相談ください。

藤宮 浩(不動産鑑定士)
フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士 ‖ フジ総合グループの代表を務め、年間990件以上の相続関連案件の土地評価に携わる。相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。