事例に学ぶ相続税申告

市街化区域内にある農地(市街地農地)の評価は?

相続税は、相続開始時点の現預金、株式、家屋、土地といった相続財産の評価額を算定し、その総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超える場合、原則、相続開始後10か月以内に、税務署に申告を行う必要があります。

相続財産の中で、一番のウェイトを占めるのが「土地」です。土地は、評価がとくに難しいために、判断が分かれることも少なくありません。そのため、土地の評価額を適正に算定できるかが、適正申告のカギとなります。

古くから都内N区で農業を営んでいる佐藤様(仮名)は3か月前にお父様を亡くされ、畑などを相続されました。自分で申告することを検討していましたが、土地評価でつまづき、当グループに相続税申告業務をご依頼されたご友人の紹介で、申告業務をお任せいただくことになりました。

市街地にある農地は宅地に準じて評価する

今回の事例でポイントになったのは、「市街化区域内にある農地の評価」です。今回の畑のように、市街化区域内にある農地を評価する場合、まず宅地(建物の敷地として用いられる土地)としての価額に準じて評価額を求めます(宅地比準方式)。

次にその価額から、農地を宅地にする場合に必要とされる宅地造成費を差し引いて評価します。 宅地造成費は土地により異なりますが、とくに道路よりも低い位置にある場合、土砂で埋め立てて地上げする必要や、埋め立てた土砂が崩れるのを防ぐために擁壁(ようへき)を組む必要があります。 これに係る費用をそれぞれ「土盛(どもり)費」「土止(どどめ)費」といいます。佐藤様の場合、これらの費用がかかる土地であるかを現地で確認する必要があります

生産緑地に指定されていないか?

今回はさらにもう1点、確認するべき点がありました。それは、この畑が「生産緑地であるかどうか」という点です。

生産緑地とは、一定の条件を満たす場合に、市町村より生産緑地地区として指定を受けた農地のことをいいます。固定資産税の軽減等の優遇措置を受けることができますが、その一方で農地等以外の利用に制限が課せられることとなります。そのため相続税評価において、定められた割合を評価額より差し引くことができます。

土盛費と土止費、生産緑地であることを考慮

相続税申告を承った私たちはまず、畑を調査することにしました。すると、道路より70センチほど低い土地であることがわかりました。

このような土地を宅地造成しようとした場合、土砂で埋め立てて地上げする必要や、埋め立てた土砂が崩れるのを防ぐために擁壁を組む必要があります。このため、宅地造成費の計算において土盛費および土止費を考慮すべきと考えられます。

また、畑を拝見した限りでは生産緑地を記した看板は見当たりませんでした。 しかし、生産緑地の看板は、目立たない場所にあったり、なくなっていたりすることもあるため、注意が必要です。確認のため、役所の都市計画課で確認したところ、佐藤様の畑は生産緑地の指定を受けていることが分かりました。

先述の通り、生産緑地においては原則として農業等を続けなければなりませんが、指定から30年が経過した場合や事業者が亡くなった場合等には、市町村長へ買い取りの申し出をすることができます。佐藤様の場合、買い取りの申し出ができる生産緑地に該当していました。このことから、生産緑地でないものとして評価した価額から5%を控除することができます。

これらに基づき土地の評価額を求め、現預金や株式などの評価も行って申告書を作成し、税務署に提出しました。

今回の申告作業をご自身でされた場合、宅地造成費の計算における土盛費や土止費、生産緑地であることを考慮せずに畑の評価を行っていたかもしれません。その場合、評価額は当グループによるものより1000万円以上、高くなり、約480万円も余計に相続税を支払っていた可能性があります。

このように、当グループでは相続専門税理士と相続に強い不動産鑑定士との協働により、適正申告を実現することが可能です。

今回のポイント

道路よりも低い位置にある農地は、土砂で埋め立てて地上げする必要や、埋め立てた土砂が崩れるのを防ぐために擁壁を組む必要があることから、これに係る費用として「土盛費」や「土止費」を計上できる。生産緑地の指定を受けている農地は、建築等の制限を受けるため、評価額を減額できる。