事例に学ぶ相続税申告

幹線道路に面した土地の評価は?

相続税は、相続開始時点の現預金、株式、家屋、土地といった相続財産の評価額を算定し、その総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超える場合、原則、相続開始後10か月以内に、税務署に申告を行う必要があります。

相続財産の中で、一番のウェイトを占めるのが「土地」です。土地は、評価がとくに難しいために、判断が分かれることも少なくありません。そのため、土地の評価額を適正に算定できるかが、適正申告のカギとなります。

愛知県B市にお住まいの山田様(仮名)は、3か月前にお母様を亡くされ、現金や建物、土地などを相続されました。自分で申告することを検討していましたが、土地評価でつまづき、ホームページから当グループが相続税土地評価が得意であることを知って、業務をお任せいただけることとなりました。

山田様のご自宅で話を伺ったところ、気になる点を見つけました。それは、山田様が現在、お住まいになっているご自宅です。ご自宅の敷地(A土地)は、交通量の激しい幹線道路に面しており、当該道路には高速道路が高架として並走しています。さらに、山田様の自宅前には幹線道路をまたぐ、巨大な横断歩道橋が設置されており、敷地を見下ろせる状況です。 山田様のお住まいは、常時、車が行き交っているため騒音がひどく、「窓を開けることはあまりない」とのことでした。

生活上の不利益は利用価値の低下になる

相続税土地評価では、その土地の立地等が原因で、生活上の不利益が生じている状態を「利用価値が低下している」と表現し、利用価値の低下が著しいと認められる土地について、10%を減額できるとされています。「利用価値の低下」の具体例としては、次のようなものが挙げられます。

① 道路より高いまたは低い位置にある宅地で、その付近の土地に比べて高低差が著しい
② 地盤に甚だしい凹凸がある
③ 震動がひどい
④ 騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるもの)、臭気、忌み等があり、その程度が取引金額に影響があると認められる

本評価にあたっては、路線価がそのマイナス要因を考慮して付けられている場合は適用できません。また、その要因が土地の価格にどれほどの影響を及ぼすかと言ったことも考慮したうえで、適用するかどうかが判断されます。

騒音と歩道橋は減額要素となるか

それでは、A土地を検証します。
まず騒音についてですが、A土地が所在する愛知県では、幹線交通を担う道路に近接する空間では、昼間は70db以下、夜間は65db以下を自動車騒音にかかる基準と定めています。そこで、日中、A土地周辺で騒音計を用いて調べたところ、A土地の前では基準を超える71dbを計測したのに対し、幹線道路から少し入った場所では、計測値が54dbとなりました。それぞれの地点は同一路線上にあり、この路線価には、騒音が与える心理的負担、健康へのリスク等が反映されておらず、A土地の評価にこれらを減額要素として織り込む余地はあると考えられます。

次に歩道橋ですが、巨大な横断歩道橋に隣接した土地は、①心理的圧迫感、②景観の悪化、③プライバシーの侵害などにより、そうでない土地に比べて不動産価格が安くなる傾向にあります。
また、B市が公表している固定資産評価基準には、「横断歩道橋補正率」というものがあり、横断歩道橋の影響を受ける地積の割合、横断歩道橋との距離に応じて、横断歩道橋に接する土地の評価減を行えるとされています。これは、歩道橋が、周辺の不動産価格に負の影響を与える存在として、公的に認知されていると考えることもできます。

さらには、歩道橋への隣接が減額要素として認められるかどうか、過去に争われた事例を見てみると、評価対象地の真横に歩道橋が位置している場合には全部認容となることが多いものの、位置がずれている場合には、一部認容もしくは否認となることが少なくないことがわかりました。 A土地は、歩道橋の真横に位置しており、前述の歩道橋に隣接する土地の不動産取引上の特徴、またB市の固定資産評価基準などを考慮すると、A土地は、利用価値が著しく低下している宅地として評価できる可能性が高いと考えられます。

以上の考えをまとめてA土地の評価額を求め、現預金や株式などの評価も行って申告書を作成し、税務署に提出しました。

今回の申告作業をご自身でされた場合、騒音と歩道橋による利用価値の低下を考慮せずに土地の評価を行っていたかもしれません。この場合、約400万円も余計に相続税を支払っていた可能性があります。

このように、当グループでは相続専門税理士と相続税土地評価を得意とする不動産鑑定士との協働により、適正申告を実現することが可能です。

今回のポイント

立地等が原因で、評価対象地に生活上の不利益が生じている場合、「利用価値が著しく低下している宅地」として減額できる場合がある。適用の判断には不動産の知識が不可欠であり、専門家に意見を仰ぐことが重要である。