借地権は相続税の課税対象財産であり、建物の所有目的で土地を借りる際に借地権が設定されます。
借地権には普通借地権以外に定期借地権が存在し、借地権の種類によって評価方法が変わることもあるので、相続税の計算をする際には注意が必要です。
本記事では定期借地権の概要と、種類ごとの相続税評価額の計算方法について解説します。
他人へ貸し付けている土地は貸宅地として評価することになりますが、設定されている借地権の種類によって評価方法は異なります。また「定期借地権等の目的となっている宅地」は、原則・例外の評価方法があり、評価対象地ごとに適した方法で計算しなければなりません。
もくじ
定期借地権とは?一般的な借地権との相違点
一般的に借地権と言われている「普通借地権」と「定期借地権」は、法律上も相続税評価額を計算する上でも取り扱いが異なります。
普通借地権と定期借地権の性質の違い
普通借地権は、地主と借主との間で借地契約の更新がある借地権です。
借地借家法では、普通借地権における借地人の権利は強く守られており、正当な理由を無くして土地から立ち退きしてもらうことは困難です。
定期借地権は、借地契約の期間が決まっており、期間が終了すれば土地は返却されるというものです。
普通借地権に比べて借地人の権利は弱く、立ち退き料なども発生しません。
また貸した土地は契約終了時に戻ってくるため、土地所有者は期限を定めて土地を活用することができます。
相続税評価額を計算する上での違い
借地権は土地を借りている人が有する権利なので、借地権が設定されている場合、土地を貸している人は底地(借地権が設定されている土地の所有権)、土地を借りている人は借地権が相続税の課税対象となります。
路線価図等で借地権割合が設定されているため、普通借地権の評価は比較的容易です。
宅地を借りてその上に建物を建てている場合、土地を利用する権利である借地権も相続税の課税対象になります。反対に、他人へ土地を貸している場合は、土地の自用地評価額から借地権相当額を控除した金額が土地の評価額となります。
一方、定期借地権の評価は借地権者に帰属する経済的利益や借地権の残存期間によって異なるため、評価は難しくなっています。
定期借地権の種類と概要
定期借地権は4種類存在し、該当する定期借地権によって評価方法が異なる場合もあります。
・一般定期借地権
・事業用定期借地権
・建物譲渡特約付借地権
・一時使用目的借地権
一般定期借地権
一般定期借地権とは、契約期間を50年以上として公正証書などの書面により契約する借地権です。
契約に下記の特約事項を盛り込むことができるため、契約期間満了時に借地権を更新することなく土地を返還してもらうことが可能になります。
・契約の更新をしない
・建物再築による期間の延長をしない
・期間満了による建物の買取請求をしない
事業用定期借地権
事業用定期借地権とは、事業用の目的で期間を10年以上50年未満として契約する借地権です。
一般定期借地権と同様に①契約更新なし、②建物再築による期間の延長なし、③期間満了による建物の買取請求なしを特約事項として定め、公正証書によって契約書を作成します。
契約期間が一般定期借地権よりも短く設定できるため、事業用として土地を利用する際は事業用定期借地権の設定も選択肢になります。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは、借地権設定から30年以上経過した日に、地主が借地人から借地上の建物を買取る借地権です。
土地所有者が建物を買い取った場合、底地人と借地人が同一となるため、借地権が消滅します。
一時使用目的借地権
一時使用目的借地権とは、建設現場や一時的な興行場など、一時的な事業をする際に必要となる臨時的な設備を所有することを目的とするために設定する借地権です。
一時使用目的借地権は、存続期間や更新などについて借地借家法の適用がなく、契約期間満了により借地権は消滅します。
定期借地権の評価方法の流れ
4種類の定期借地権のうち、一時使用目的借地権以外の定期借地権の評価方法は、基本的に同じです。
相続開始時点の自用地評価額を算出
定期借地権の評価額を算出する場合、最初に借地権が設定されている土地の自用地評価額を計算します。
自用地評価額は路線価方式または倍率方式により計算します。
路線価方式の場合、評価対象地が接している道路に設定されている路線価に面積を乗じることで概算の評価額を算出できます。
土地が標準的な大きさよりも広大・狭小だったり、土地の形状が歪な場合には、奥行価格調整率などによる補正計算が必要です。
倍率方式による評価方法は、固定資産税評価額に指定の倍率を乗じて評価額を算出する方法です。
評価対象地の地域によって用いる評価方式は決まっていますので、選択することはできません。
定期借地権の計算のしかた
定期借地権の相続税評価額の計算方法には、原則的な評価方法と、例外的な評価方法があります。
定期借地権等の価額は原則として、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益および、存続期間をベースに算出した価額により評価を行います。
「借地人に帰属する経済的利益」とは、適正地代と支払地代との乖離で発生する差額地代について、存続期間を基に現在価値へ置き換えた金額をいいます。
例外的な評価方法とは、一般定期借地権の目的となっている宅地の評価について、課税上弊害がない限り、財産評価基本通達の定めにかかわらず簡便的な方法により評価額を算出する方法です。
なお本記事では、一般的に使用される簡便的な定期借地権の計算方法について解説いたします。
自用地評価額×{(A÷B)×(C÷D)}=定期借地権の評価額
A:定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
B:定期借地権の設定時における土地の通常取引価額
C:課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D:定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
「定期借地権等の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」の求め方
「定期借地権等の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」は、次に掲げる金額の合計額をいいます。
「権利金等の授受による経済的利益の金額」は、定期借地権等の設定に際して借地権者から権利金など、借地契約の終了時に返還を必要としない金銭の支払いや財産の供与による金額です。
「保証金等の授受による経済的利益の金額」は、定期借地権等の設定に際して借地権者から保証金など、借地契約の終了時に返還が必要となる保証金等の預託があった場合の金額です。
保証金等につき、基準年利率未満の約定利率による利息の支払いがある場合、または無利息のときは次の算式により経済的利益の金額を算出します。
A-(A×B)-(A×C×D)=保証金等の授受による経済的利益の金額
A:保証金等の額に相当する金額
B:定期借地権の設定期間年数に応じる基準年利率による複利現価率
C:基準年利率未満の約定利率
D:定期借地権の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率
定期借地権等の設定に際し、実質的に贈与を受けたと認められる差額地代の額がある場合は、次の算式により「差額地代の額がある場合の経済的利益の金額」を計算します。
差額地代の額×A=贈与を受けたと認められる差額地代の額がある場合の経済的利益の金額
A:定期借地権の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率
一時使用目的の借地権の評価方法
一時使用のための借地権の価額は、通常の借地権と比べて権利が弱いため、雑種地の賃借権の評価方法により評価額を算出します。
<雑種地の賃借権の評価方法>
賃借権の種類 | 評価方法 |
地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権 | 雑種地の自用地評価額×A
A=法定地上権割合と借地権割合とのいずれか低い割合 |
上記以外の賃借権 | 雑種地の自用地としての価額×法定地上権割合×1/2 |
「地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権」に該当するのは、賃借権の登記が行われていたり、設定の対価として権利金や一時金の支払いがあるケース、そして堅固な構築物の所有を目的として設定している場合です。
法定地上権割合は、賃借権が地上権であるとした場合に適用される割合をいい、相続開始時点の残存期間に応じた地上権割合を適用します。
<残存期間に応じた地上権割合>
残存期間 | 地上権割合 |
10年以下 | 5% |
10年超~15年以下 | 10% |
15年超~20年以下 | 20% |
20年超~25年以下 | 30% |
25年超~30年以下
(地上権で存続期間の定めのないものも含む) |
40% |
30年超~35年以下 | 50% |
35年超~40年以下 | 60% |
40年超~45年以下 | 70% |
45年超~50年以下 | 80% |
50年超 | 90% |
一般定期借地権の目的となっている土地の評価方法
一般定期借地権の目的となっている土地の評価は、課税上弊害がない限り、以下の計算式により算出します。
自用地評価額-一般定期借地権に相当する価額=一般定期借地権の目的となっている土地の評価額
自用地評価額×(1-底地割合)×(A÷B)
A:相続開始時点の一般定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
B:一般定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
<一般定期借地権が設定された時点の底地割合>
借地権割合 | 底地割合 | |
路線価図 | 評価倍率表 | |
C地域 | 70% | 55% |
D地域 | 60% | 60% |
E地域 | 50% | 65% |
F地域 | 40% | 70% |
G地域 | 30% | 75% |
路線価図にはAからGまでの借地権割合が設定されている地域が存在しますが、A地域とB地域および、借地権の取引慣行の無い地域については財産評価基本通達25(2)の評価方法により計算します。
また「課税上弊害がある場合」とは、次のケースに該当する状況をいいます。
- 一般定期借地権の借地権者と借地権設定者の関係が、親族間や同族法人等の特殊関係者間の場合
- 第三者間の設定等であっても、税負担回避行為を目的としたものであると認められる場合
定期借地権の相続税評価額の計算例
定期借地権の相続税評価額の計算方法について、設例を交えて解説します。
<前提条件>
相続開始年月日:令和3年6月10日 | |
定期借地権設定時の契約内容 | |
定期借地権の設定期間 | 50年 |
設定時の土地の価額 | 5,000万円 (通常取引価額) |
定期借地権設定時に借地人に帰属する経済的利益の総額 | 800万円 |
毎年の支払い地代 | 年間72万円 |
相続開始時点の状況等 | |
相続開始時点の借地権の残存期間 | 40年 |
相続開始時点の自用地評価額 | 6,400万円 |
■定期借地権等の計算
定期借地権を評価する場合、定期借地権の残存期間年数と設定期間年数に応じた基準年利率による複利年金現価率を確認します。
相続税の計算で用いる基準年利率は、国税庁ホームページに掲載されており、年分(月)ごとに利率が設定されており、設例では令和3年6月の利率により評価額を計算します。
- 相続開始時点における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率:40年⇒38.020
- 定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率:50年⇒46.946
参考:令和3年分の基準年利率について(法令解釈通達)│国税庁
複利年金現価率を確認しましたら、簡便的な定期借地権の計算方法により評価額を求めます。
自用地評価額×{(A÷B)×(C÷D)}=定期借地権の評価額
A:定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
B:定期借地権の設定時における土地の通常取引価額
C:課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D:定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
6,400万円×{(800万円÷5,000万円)×(38.020÷46.946)}=8,293,034円(定期借地権の評価額)
まとめ
定期借地権を評価する場合、経済的利益や設置時の通常の取引価額など、確認しなければいけない項目が多く、相続税に関する専門的な知識が無いと土地の評価額を適切に算出するのは難しいです。
借地権の権利は数百万円から数千万円と高額になるため、評価方法を少し誤るだけで相続税の納税額が大きく変わる可能性もあります。
相続財産に定期借地権がある場合は、相続税専門の税理士事務所へ一度ご相談することをオススメします。