相続税土地評価の基礎知識!土地・建物の評価方法を徹底解説

不動産を相続する際は、まず遺産分割協議で分け方を検討します(遺言がある場合は、原則として遺言に従います)。その後、協議が終了し、遺産分割協議書を作成したら相続した不動産の名義変更手続きを行います。

相続財産が多く基礎控除を超えるときは相続税申告が必要となり、相続した不動産については、相続税評価額の計算を行います。相続税評価額の計算方法は土地と建物で異なりますのでご注意ください。

本記事では不動産相続で行う手続きの種類と、土地・建物の相続税評価の方法について解説します。

不動産を相続する際に必要な手続き

不動産相続は、「遺産分割協議」・「相続登記」・「相続税の申告」の順番で手続きします。

遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、相続人が亡くなった人(被相続人)の財産の相続方法を決める作業をいい、話し合いがまとまった際に遺産分割協議書を作成して不動産の名義変更手続きなどを行います。

不動産を相続する方法には、単独で不動産を取得する方法と、複数人が共有で取得する方法の2種類あります。

単独相続の場合、相続した後は不動産を自由に売却できますが、共有名義による相続の場合、売却には共有者全員の同意が必要となるのでご注意ください。

民法では、配偶者や子などの立場ごとに財産を取得できる「法定相続分」が定められていますが、相続人全員が合意していれば遺産の分割方法は自由です。

ただ1人でも遺産分割の方法に納得していない相続人がいた場合、遺産分割協議書は作成できないため、相続財産の名義変更が行えません。

相続登記とは

不動産を相続した際は、法務局へ不動産の名義変更手続き(相続登記)が必須です。

名義を変えないで不動産を売却することはできませんし、相続登記には登録免許税の支払いが発生します。

相続登記は、対象不動産のエリアを管轄している法務局で行うことになりますので、不動産が遠方にある場合、郵送やインターネット上での手続きすることも検討してください。

なお相続登記の申請書類に不備・不足があると、相続登記は認められないため、司法書士などの専門家へ登記手続きを依頼するのが一般的です。

相続税の申告とは

相続税の申告手続きは相続開始日の翌日から10か月以内で、遺産分割協議が完了していなくても、期限内に申告しなければいけません。

申告書を作成する場合、相続財産の相続開始時点における価値を算出する必要があるため、相続財産の種類が多いほど手続きに時間を要します。

財産の種類によって評価方法は定められており、不動産でも土地と建物では評価方法が異なります。

申告期限の時点で未分割の場合、法定相続分で取得した形で相続税の申告書を作成・納税しなければならず、相続税の軽減特例(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例・農地の納税猶予)を適用できません。

申告書を提出した後に遺産分割が完了した場合、分割内容に基づき修正申告等の手続きが必要になりますので、できるだけ申告期限前に遺産分割協議を完了させるようにしてください。

相続登記の手続き方法

不動産の相続登記には、遺産分割協議書や戸籍謄本など用意すべき書類が多く、登録免許税は申請時に支払うことになります。

相続登記の必要書類・手続き期限

相続登記を行う際は、次の書類を用意してください。

相続登記の必要書類

・登記申請書
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までが確認できるもの)
・相続人全員の戸籍謄本(現在の状況が確認できるもの)
・相続人全員の住民票の写し
・遺産分割協議書(遺言書)
・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
・委任状(代理人が申請手続きを行う場合に限る)

不動産を被相続人の名義のままにしておくと、相続人の相続(二次相続)が新たに発生した際、相続手続きが複雑になりますので、相続が発生したらできるだけ早期に相続登記を行ってください。

また、従来相続登記について法的な期限はなく、亡くなった人の名義のまま残していても法律上の罰則などはありませんでした。

しかし2024年までに施行される制度では、相続により不動産を取得した人は相続開始日から3年以内の相続登記義務が課されるようになります。

相続登記義務に違反した場合、10万円以下の過料対象になりますので、今後は速やかな登記手続きが求められます。

相続登記の手続きに要する費用・税金

相続登記で発生する費用は、「登録免許税」・「提出書類の発行費用」・「代理人への報酬費用」の3点です。

登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%を支払うことになるため、不動産の価値が高いほど納める税金は多くなります。

相続登記に必要となる戸籍謄本や住民票は、取得する際に発行費用がかかるため、転籍や相続人の人数が多いと費用は増えます。

司法書士等へ代理手続きしてもらう際の報酬費用は、土地の評価額や手続きする数によって異なり、1か所の土地であれば報酬費用は数万円から10万円程度です。

ただ不動産登記は筆ごとに手続きする必要があり、自宅の敷地として使用している土地でも、複数の筆に分かれていることも珍しくありません。

筆数が多いとその分報酬費用は高くなることもありますので、相続不動産の登記手続きを一括で依頼する際はご注意ください。

相続の際に不動産取得税は課されない

不動産を登記する場合、登録免許税の他に不動産取得税が発生するケースがあります。

不動産取得税は不動産を取得した人に対して課される都道府県税で、売買取得や贈与取得の際は登記手続きを終えた後に納税します。

しかし相続によって不動産を取得する場合、不動産の数量や金額に関係なく不動産取得税は発生しません。

また登録免許税は相続登記時に支払うことになりますが、贈与登記に比べて税率が低く設定されているため、不動産を生前贈与するか相続するかを検討する場合は、登録免許税・不動産取得税の負担も考慮しなければなりません。

不動産に対しての相続税の課税方法

相続税は課税価格(賞味の遺産総額から基礎控除額を差し引いた額)×税率-控除額によって算出できます。

相続税は財産全体に対して課される税金

相続税は、亡くなった人の財産全体に対する税額を計算し、相続人は取得した財産の割合に応じて相続税を支払うことになります。

たとえば相続税の総額が100万円の場合、相続財産の40%を取得した相続人は40万円を納税することになり、相続財産を一切取得していなければ相続税の納税額は0円です。

また相続税の税率は、相続財産の総額が多いほど高くなる仕組みなので、同じ金額の相続財産を取得したとしても相続財産の総額が高い場合、納める相続税は多くなります。

不動産の価値は相続人が算出しなければならない

相続税は自己申告納税制度なので、相続人が相続財産の評価額を計算し、相続税の申告書を作成しなければなりません。

建物の相続税評価額の計算は比較的容易ですが、土地の評価額の計算は相続税の中でも難易度が高く、評価誤りが発生しやすい財産です。

過少に評価すれば税務署から指摘が入り、過大に評価すれば相続税を余分に納めることになるため、評価額を適正に評価することが肝になります。

基礎控除額内なら非課税

相続税には基礎控除があり、相続財産の総額が基礎控除額内であれば、相続税は非課税です。

相続税の基礎控除額の計算式

3,000万円+600万円×法定相続人の人数=相続税の基礎控除額

相続税の基礎控除額は、法定相続人の人数によって控除額が変動するのが特徴で、法定相続人が2人であれば基礎控除額は4,200万円、3人なら4,800万円と相続人1人ごとに控除額が600万円増加します。

相続税の基礎控除は相続財産全体から差し引くものであり、相続財産を1人の相続人がすべて取得しても、相続財産が基礎控除額内であれば相続税の支払いはありませんし、申告手続きも不要です。

一方で、全体の相続財産が基礎控除額を超えている場合、相続した財産が少額でも相続税を支払うことになります。

土地の相続税評価額の計算方法

土地の相続税評価額の計算方法は2種類の原則的な評価方法と、例外的な評価方法があります。

路線価方式

路線価方式とは、路線価図に表示されている路線価を基に評価額を計算する方法で、路線価は道路に設定されています。

評価対象地に接している路線価を用いて評価額を算出しますが、路線価はその地域の標準的な大きさの土地をベースにした金額なので、評価対象地の形状が歪だったり広大(狭小)な土地の場合には補正計算が必要です。

また土地を貸し付けている場合など、利用区分に応じた補正計算もありますので、評価額を算出する際は相続開始時点の現況を確認しなければなりません。

倍率方式

倍率方式とは、固定資産税評価額に倍率を乗じて相続税評価額を算出する方法です。

評価対象地に乗じる倍率は地域ごとに指定されており、土地の地目によって異なります。

倍率方式で評価する地域は市街化調整区域が多く、路線価が設定されている地域を倍率方式で計算することはできません。

路線価方式より倍率方式の方が評価額の計算は容易ですが、雑種地や宅地比準により評価額を算出する土地については、専門知識がないと適切に評価することは困難です。

時価

土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式により計算するのが原則です。

しかし路線価方式等で算出された金額が、実際の土地の価値と乖離している場合には、路線価によらない方法で評価することも可能です。

路線価によらない方法とは、評価対象地の取引相場や周辺の状況から時価額を算定する方法です。

ただ路線価方式等を用いない正当性が認められる場合にのみ適用できる計算方法なので、路線価による評価額が不適当である根拠を示す必要があります。

建物の相続税評価額の計算方法

建物の相続税評価額の計算は土地に比べると簡単ですが、評価誤りをしやすいポイントや、例外的な評価のしかたもあります。

固定資産税評価額=相続税評価額

建物は、固定資産税評価額に1.0倍乗じた金額が相続税評価額となりますので、「固定資産税評価額=相続税評価額」です。

固定資産税評価額は、土地が所在する市区町村で設定されている金額であり、評価額は毎年送られてくる固定資産税通知書や、固定資産税評価証明書で確認できます。

貸付物件は評価額が減額できる

貸付物件として建物を利用している場合、借家権相当額を減額することが可能です。

借家権割合は全国一律30%となっているため、貸付アパートの建物は固定資産税評価額の70%が相続税評価額となります。

ただ貸付物件に空室がある場合、空室部分は減額対象外になるケースがあります。

固定資産税評価額がない建物の評価方法

相続税は相続開始時点の価値で税額計算を行うため、未登記の建物も財産価値があれば相続財産として計上しなければなりません。

また建築途中の建物や、リフォーム直後に相続が発生した場合、固定資産税評価額に建物の価値が反映されていないこともあります。

建築中の建物については、費用現価額の70%を相続税評価額とし、リフォームが建物の資産価値を上げる修繕だった場合には、リフォーム費用の70%を固定資産税評価額に加算することになります。

不動産の相続税評価額に適用できる特例・税額控除

相続税にはいくつもの特例や減額措置があるため、制度を上手く活用することで相続税を節税できます。

そこで不動産を相続した際に利用すべき、代表的な2つの制度をご紹介します。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、土地に対して適用できる特例制度で、土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。

土地の価値が高いほど節税効果は大きくなり、1億円の土地に小規模宅地等の特例を適用すれば、2,000万円まで評価額を減額できるケースもあります。

特例の対象となる土地は、自宅の敷地や事業用宅地・貸付事業用宅地等で相続後も生前と同じ用途に使わないと原則特例は適用できません。

したがって相続税を抑えるには、小規模宅地等の特例を適用できる人が土地を相続することも必要です。

配偶者の税額軽減

配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、①1億6千万円 ②配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

これにより、相続財産の総額が上記金額以下であれば、配偶者が相続財産をすべて取得することで相続税の支払いをゼロにすることも可能です。

ただし配偶者にすべての財産を寄せてしまうと二次相続の税負担が大きくなることで、一次・二次を合わせて相続税が増えてしまうため、配偶者の年齢やライフプランを考慮して、金額を決定することをおすすめします。

まとめ

不動産相続は、遺産分割協議を行った後に相続登記や相続税の申告(不動産の財産評価)手続きが必要です。

遺産分割を行う際や相続登記を行う際には精緻な不動産評価を行うことで遺産分割のトラブルを防げたり相続税を抑えることも可能です。ただし、土地の相続税評価は計算が難しく、間違った評価は税務調査を受ける要因になりかねません。

不動産相続に関するご相談は相続税専門の税理士に行うことをおすすめします。

藤宮 浩(不動産鑑定士)
フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士 ‖ フジ総合グループの代表を務め、年間990件以上の相続関連案件の土地評価に携わる。相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。