相続税の計算では、土地の上に設定されている権利の価値を評価し、相続財産として計上しなければなりません。
土地の上に存する権利には種類があり、それぞれ評価方法が異なります。
本記事では各権利の特徴および、評価のしかたについて詳しく解説します。
もくじ
土地の上に存する権利と評価区分
土地の上に存する権利は土地と同等の価値があるものとして評価し、相続税・贈与税においては土地の上に存する権利を10種類に区分しています。
・地上権
・区分地上権
・永小作権
・区分地上権に準ずる地役権
・借地権
・定期借地権等
・耕作権
・温泉権
・賃借権
・占用権
権利によって異なる評価方法が定められており、たとえば借地権契約に基づいて土地を借りている場合、借主には借地権が与えられているため、借地権の評価額を計算しなければなりません。
一方、貸主は借地権が設定されていることで土地の使用が制限されていますので、自用地評価額から借地権の評価額を控除した金額(貸宅地の評価額)を相続税評価額とします。
そのため借地権を有している人だけでなく、土地所有者についても減額補正を行うために、土地の上に存する権利を評価する必要があります。
地上権
地上権とは
地上権は、他人の土地において工作物や竹木を所有するために土地を使用する権利です。
建物の所有を目的とする地上権や、区分地上権については相続税の計算上、地上権には含まれません。
地上権の評価方法
地上権の評価額は、地上権を設定時の時価に対し残存期間に応じる地上権割合を乗じて算出します。
地上権の目的となっている土地については、自用地評価額から地上権の評価額を差し引くことで評価額を算出できます。
権利取得時の時価×地上権割合=地上権の評価額
<地上権割合>
残存期間等 | 地上権割合 |
10年以下 | 5% |
10年超~15年以下 | 10% |
15年超~20年以下 | 20% |
20年超~25年以下 | 30% |
25年超~30年以下(存続期間の定めのないもの) | 40% |
30年超~35年以下 | 50% |
35年超~40年以下 | 60% |
40年超~45年以下 | 70% |
45年超~50年以下 | 80% |
50年超 | 90% |
・自用地評価額:1,000万円
・区分地上権の割合:30%
1,000万円×30%=300万円(区分地上権の評価額)
1,000万円−300万円=700万円(区分地上権の目的となっている土地の評価額)
区分地上権
区分地上権とは
区分地上権は、民法第269条の2第1項の規定により、設定される工作物を所有するため地下または空間に上下の範囲を定めて設定される地上権です。
建物・トンネル・道路などの所有を目的として設定されており、相続税の評価上、区分地上権と地上権の評価方法は異なりますのでご注意ください。
区分地上権の評価方法
区分地上権は、対象となる土地の自用地評価額にその区分地上権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合(区分地上権の割合)を乗じて算出します。
「土地利用制限率」は、公共用地の取得に伴う損失補償基準細則の別記2『土地利用制限率算定要領』に定める土地利用制限率です。
なお、地下鉄等のずい道の所有を目的として設定した区分地上権を評価するときにおける区分地上権の割合は、30%にすることも可能です。
区分地上権の目的となっている土地を評価する場合は、自用地評価額から区分地上権の評価額を控除して算出します。
その際、区分地上権が1画地の宅地の一部分に設定されている場合の自用地評価額は、1画地の宅地の自用地としての価額のうち、その区分地上権が設定されている部分の地積に対応する価額になります。
自用地評価額×区分地上権の割合=区分地上権の評価額
・自用地評価額:1,000万円
・区分地上権の割合:30%
1,000万円×30%=300万円(区分地上権の評価額)
1,000万円−300万円=700万円(区分地上権の目的となっている土地の評価額)
永小作権
永小作権とは
永小作権は、小作料を支払って他人の土地で耕作等を行う権利です。
土地を耕作する権利としては「耕作権」がありますが、一般的に土地を借りて耕作している際に発生する権利は耕作権のことをいい、実際に永小作権が設定されているケースはほとんどありません。
永小作権と耕作権では、評価方法が異なりますのでご注意ください。
永小作権の評価方法
永小作権は、永小作権を設定時の時価に残存期間に応じる割合(地上権割合と同じ)を乗じて算出します。
地上権の目的となっている土地を評価する場合は、自用地評価額から永小作権の評価額を差し引くことで算出できます。
権利取得時の時価×永小作権を設定時の時価に残存期間に応じる割合=永小作権の評価額
・自用地評価額:1,000万円
・設定時の時価:800万円
・残存期間:43年
800万円×70%=560万円(永小作権の評価額)
1,000万円−560万円=440万円(永小作権の目的となっている土地の評価額)
区分地上権に準ずる地役権
区分地上権に準ずる地役権とは
区分地上権に準ずる地役権は、地価税法施行令第2条第1項に規定されている特別高圧架空電線の架設、高圧ガスを通ずる導管の敷設などの目的のため、地下または空間にて上下の範囲を定めて設定されたものです。
区分地上権に準ずる地役権を設定すると構造物の設置などが制限され、用途制限の内容によって評価額は異なります。
区分地上権に準ずる地役権の評価方法
区分地上権に準ずる地役権は、区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地の土地の自用地評価額に、下記の用途制限に応じた区分地上権に準ずる地役権の割合を乗じて評価します。
区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地については、自用地評価額から区分地上権に準ずる地役権の評価額を差し引くことで評価額を算出できます。
・家屋の建築が全くできない場合
→50%または、区分地上権に準ずる地役権が借地権であるとした場合に承役地へ適用される借地権割合のいずれか高い割合
・家屋の構造、用途等に制限を受ける場合
→30%
自用地評価額×区分地上権に準ずる地役権の割合=区分地上権に準ずる地役権の評価額
・自用地評価額:1,000万円
・用途制限:建物の建築制限がある
1,000万円×30%=210万円(区分地上権に準ずる地役権の評価額)
1,000万円−210万円=790万円(区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地の評価額)
借地権
借地権とは
借地権は、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいいます。
土地を借りて建物を建てる際に発生する権利が借地権であり、一般的な借地権(普通借地権)と定期借地権等は、評価方法が別々に定めてあります。
土地を貸している場合、貸宅地として評価額を最大90%減額できるケースがある一方、無償による貸付けの際は借地権が生じないため貸宅地評価により計算することはできません。
借地権の評価方法
借地権は、自用地評価額に借地権割合を乗じて算出します。
借地権割合は路線価図または評価倍率表に記載されており、評価対象地の所在地ごとに借地権割合は異なります。
借地権の目的となっている土地を評価する場合は、自用地評価額から借地権の評価額を差し引くことで算出できます。
自用地評価額×借地権割合=借地権の評価額
・自用地評価額:1,000万円
・借地権割合:60%
1,000万円×60%=600万円(借地権の評価額)
1,000万円−600万円=400万円(借地権の目的となっている土地の評価額)
定期借地権等
定期借地権等とは
定期借地権等とは、借地借家法に規定されている次の権利をいいます。
・定期借地権(借地借家法第22条)
・事業用定期借地権等(同法第23条)
・建物譲渡特約付借地権(同法第24条)
・一時使用目的の借地権(同法第25条)
通常の借地権(普通借地権)は、契約終了する際に契約を更新することもできますが、定期借地権等は借地契約の更新はありませんので、契約終了により借地関係が消滅します。
定期借地権等の評価方法
定期借地権、事業用定期借地権等、建物譲渡特約付借地権については、簡便的な評価方法が定められており、一時使用目的の借地権は雑種地の賃借権の評価方法により評価額を計算します。
自用地評価額×{(A÷B)×(C÷D)}=定期借地権の評価額
A:定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
B:定期借地権の設定時における土地の通常取引価額
C:課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D:定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
耕作権
耕作権とは
耕作権は、永小作権または賃借権に基づいて土地を耕作することができる権利をいいます。
相続税評価をする際の耕作権は、賃借権に基づくものが対象であり、永小作権は除かれます。
また耕作権は農地法第20条第1項の規定がある賃借権に限るとしているため、所謂「やみ小作」は含まれません。
耕作権の評価方法
耕作権の評価は、評価対象地の農地の種類に応じて評価方法が異なります。
<農地ごとの耕作権の評価方法>
農地の種類 | 評価方法 |
純農地、中間農地 | 農地評価額に耕作権割合(50%)を乗じて評価する。 |
市街地周辺農地、市街地農地 | 農地が転用される際に通常支払われるべき離作料の額、周辺地域の宅地に対する借地権の価額等を参酌して求めた金額によって評価する。(※) |
※国税局が示している耕作権割合を乗じて計算することも可能です。ただし国税局ごとに耕作権割合は異なり、耕作権割合を示していない国税局も存在します。
温泉権
温泉権は、鉱泉地で温泉を排他的に利用することができる権利です。
温泉権の価額は、売買実例価額や精通者意見価格等を参考に、温泉権の設定条件に応じて個別評価します。
温泉権が設定されている鉱泉地は、温泉権の価額を控除した価額を評価額とします。
賃借権
賃借権とは
賃借権は、賃貸借契約に基づいて賃借人が土地を使用収益することができる権利です。
借地権定期借地権等、耕作権、温泉権に該当するものは、相続税の評価区分における賃借権から除かれます。
賃借権の評価方法
賃借権は、以下の区分に応じた評価方法により計算します。
<賃借権の区分と評価方法>
賃借権の区分 | 評価方法 |
地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権(※) |
自用地評価額×A=賃借権の評価額 A:次のいずれか低い割合 |
上記の賃借権以外の賃借権 | 自用地評価額 × 賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合の法定地上権割合の2分の1に相当する割合 |
※地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる主な賃借権は、次の通りです。
・賃借権の登記がされている賃借権
・設定の対価として権利金や一時金の支払いがある賃借権
・堅固な構築物の所有を目的とする賃借権
占用権
占用権は、地価税法施行令第2条第2項に規定する権利をいいます。
代表的なものとしては、河川敷内のゴルフ場、自動車練習場等の設置を目的とする河川占用許可に基づく権利、地下街や駐車場等の設置を目的とする道路占有許可に基づく権利等があります。
占用権の評価方法は取引事例の有無や目的によって異なり、下記の3つに区分されます。
また占用権の価額は目的の施設が完成した後に評価することとしているため、占用許可を得ていても施設の建築中である場合は評価する必要がありません。
<占用権の種類と評価方法>
占用権の種類 | 評価方法 |
取引事例のある占用権 | 売買実例価額、精通者意見価格等を基として占用権の目的となっている土地の価額に対する割合として、国税局長が定める割合 |
取引事例のない占用権(地下街又は家屋の所有を目的とするもの) | 占用権が借地権であるとした場合に適用される、借地権割合の3分の1に相当する割合 |
上記以外の占用権 | 占用権の残存期間に応じ、占用権が地上権であるとした場合に適用される法定地上権割合の3分の1に相当する割合 |
まとめ
土地の上に存する権利の計上漏れは税務調査の対象となりますので、相続が発生したら権利の存在は必ず確認しなければなりません。
相続人だけで権利の存在を把握するのは難しく、土地の上に存する権利も種類ごとに評価方法が異なるため、評価誤りが発生する可能性が高い分野となります。
税務署はミスが起こりやすい箇所ほど重点的に調べて指摘しますので、土地を貸し借りしている場合や、建物に建築制限等がある時は相続税専門の税理士へご相談いただき、権利の把握および適切な方法により評価を行ってください。