【解説】耕作権が設定された農地の相続税評価とは

耕作権が設定された農地の相続税土地評価とは

他人へ貸している農地の相続税土地評価では、減額補正の計算が必要になります。
一方、農地を借りて農業を営んでいる方は、耕作権が相続税の課税対象となります。
本記事では、耕作権および耕作権が設定されている農地の相続税評価額の計算方法について解説いたします。

耕作権とは

耕作権とは、小作料を支払って他人の土地を耕作することのできる権利をいいます。

民法上の耕作権には、物権としての「永小作権」と、債権である「小作権」または「賃借小作権」の2つに分けることができます。

ただ、永小作権が設定されている農地はほとんどないことから、相続税土地評価における「耕作権」といえば賃借小作権のことを指します。

小作権とは

賃借権としての小作権(賃借小作権)は、民法だけでなく農地法にも規定されており、小作権が設定された場合、以下のような制約・効果があります。

小作健が設定された際の制約・効果

・農地の権利移動の制限
・賃貸借の対抗力
・賃貸借の更新
・賃貸借の解約等の制限

農地の権利移動の制限については農地法第3条で規定されており、賃借権やその他の使用・収益を目的とする権利を設定・移転する際は、当事者が農業委員会の許可を受けなければなりません。

農業委員会とは、市町村に設定されている行政委員会で、農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を行っています。

耕作権を設定する際、農業委員会の許可を受けることは必須であり、許可を受けずに行う、いわゆる「やみ小作」は罰則の対象です。

また、やみ小作が行われていた場合、相続税では通常の耕作権が設定されている農地とは評価の方法が変わりますのでご注意ください。

賃貸借の対抗力は農地法第16条で規定されており、農地または採草放牧地の賃貸借は登記がなくても、農地または採草放牧地の引き渡しがあった際は、その農地または採草放牧地について物権を取得した第三者に対抗することができます。

対抗力とは、自己に権利があることを第三者に取得することができる権利をいい、相続税では被相続人が保有している権利も評価対象です。

賃貸借の更新は農地法第17条で規定されており、農地または採草放牧地の賃貸借について期間の定めがある場合、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなされます。

賃貸借の解約等の制限は、農地法第18条で規定されています。

農地または採草放牧地の賃貸借の当事者は、都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除・解約の申入れ・合意による解約または、賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはいけません。

一般的な契約であれは、当事者間の合意により解約等を行うことができますが、農地の賃貸借については必ず許可を得る必要があります。

耕作権の評価方法

農地は「純農地」・「中間農地」・「市街地周辺農地」・「市街地農地」の4種類に分類され、耕作権は設定されている農地の所在する地域によって評価方法が異なります。

 

純農地・中間農地に設定されている耕作権

純農地および中間農地に設定されている耕作権の価額は、純農地・中間農地の価額に耕作権割合を乗じて計算した金額によって評価します。

耕作権割合とは、耕作権が設定されていないとした場合の農地の価額に対する、その農地に係る耕作権の価額の割合です。

耕作権割合は、国税庁ホームページの「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で確認することができますが、純農地・中間農地の耕作権割合は全国一律50%となっています。

 

市街地周辺農地・市街地農地に設定されている耕作権

市街地周辺農地および市街地農地に設定されている耕作権の価額は、設定されている農地が転用される際、通常支払われるべき離作料の額、その農地の付近にある宅地に係る借地権の価額等を参酌して求めた金額によって評価することになります。

ただし国税局によっては、耕作権割合を定めているケースもあり、たとえば東京国税局(東京都・千葉県・神奈川県・山梨県)については、農地の価額に35%を乗じて計算した価額を耕作権として評価することも可能です。

各国税局が市街地周辺農地・市街地農地の耕作権割合を設定しているかについては、国税庁ホームページの「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で確認できます。

耕作権以外の農地の上に存する権利の評価方法

農地には耕作権以外の権利が設定されていることもありますので、農地の上に存する権利の評価方法をご紹介します。

 

永小作権の評価方法

永小作権の価額は、残存期間に応じて永小作権が設定されていないとした場合の農地の価額に、次の表に掲げる割合を乗じて計算した金額によって評価します。

残存期間の定めのない永小作権については残存期間を30年とみなし、別段の習慣があるときはそれにより評価します。

<残存年数に応じた割合>

残存期間 割合
10年以下 5%
10年超~15年以下 10%
15年超~20年以下 20%
20年超~25年以下 30%
25年超~30年以下 40%
30年超~35年以下 50%
35年超~40年以下 60%
40年超~45年以下 70%
45年超~50年以下 80%
50年超 90%
存続期間の定めのないもの 40%

区分地上権の評価方法

農地にかかる区分地上権の価額は、その農地の自用地評価額に、区分地上権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合を乗じて評価額を算出します。

農地の自用地評価額は、純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の定めにより評価した価額です。

 

区分地上権に準ずる地役権の評価方法

区分地上権に準ずる地役権の価額は、その区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である農地の自用地評価額に、区分地上権に準ずる地役権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合を乗じて計算した金額によって評価します。

宅地に設定されている区分地上権に準ずる地役権の評価は、承役地にかかる家屋の建築制限の内容により、簡便な区分地上権に準ずる地役権の割合を定めています。

しかし簡便な区分地上権に準ずる地役権の割合は、家屋の建築制限の強弱に着目したものですので、家屋の建築が原則できない純農地および、中間農地にかかる区分地上権に準ずる地役権の価額を評価する場合には適用できません。

土地の上に存する権利が競合する場合の耕作権または永小作権の評価方法

耕作権または、永小作権が設定されている農地に区分地上権または区分地上権に準ずる地役権が競合して設定されている場合、その農地にかかる耕作権または永小作権の価額は、次の区分に従い、各算式により計算した金額によって評価します。

耕作権または永小作権および区分地上権が設定されている場合の計算方法

耕作権または永小作権の価額×(1-区分地上権の価額÷自用地評価額)

区分地上権に準ずる地役権が設定されている承役地に耕作権または永小作権が設定されている場合の計算方法

耕作権または永小作権の価額×(1-区分地上権に準ずる地役権の価額÷自用地評価額)

貸付農地の評価方法

農地を貸し付けている場合、耕作権などの設定されている権利によって評価方法が異なります。

 

耕作権の目的となっている農地

耕作権の目的となっている農地の価額は、農地の自用地評価額から耕作権の価額を差し引いた金額によって評価します。

耕作権の目的となっている農地の計算方法

農地の自用地評価額-耕作権の価額

永小作権の目的となっている農地

永小作権の目的となっている農地の価額は、農地の自用地評価額から永小作権の価額を控除した金額によって評価します。

永小作権の目的となっている農地の計算方法

農地の自用地評価額-永小作権の価額

区分地上権の目的となっている農地

区分地上権の目的となっている農地の価額は、農地の自用地評価額から区分地上権の価額を控除した金額によって評価します。

区分地上権の目的となっている農地の計算方法

農地の自用地評価額-区分地上権の価額

区分地上権に準ずる地役権の目的となっている農地

区分地上権に準ずる地役権の目的となっている農地の価額は、農地の自用地評価額から区分地上権に準ずる地役権の価額を控除した金額によって評価します。

区分地上権に準ずる地役権の目的となっている農地の計算方法

農地の自用地評価額-区分地上権に準ずる地役権の価額

土地の上に存する権利が競合する場合の農地の評価

土地の上に存する権利が競合する場合の農地の価額は、次に掲げる区分に従い、各算式により計算した金額によって評価します。

耕作権または永小作権および区分地上権の目的となっている農地の価額

農地の自用地評価額-(区分地上権の価額+権利が競合する場合の永小作権または耕作権の価額)

区分地上権および区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である農地の価額

農地の自用地評価額-(区分地上権の価額+区分地上権に準ずる地役権の価額)

耕作権または永小作権および区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である農地の価額

農地の自用地評価額-(区分地上権に準ずる地役権の価額+権利が競合する場合の永小作権または耕作権の価額)

農地法の許可を受けないで他人に耕作させている農地の評価方法

農地に賃借権等の権利を設定する際は、農地法第3条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)により、農業委員会の許可を受けなければなりません。

そのため農地法の許可を受けていない、いわゆる「やみ小作」は、耕作権が認められないため、相続税土地評価では自用地として評価することになります。

農業経営地盤強化促進法の規定により規定された賃貸借により貸し付けられた農地等の評価方法

農業経営地盤強化促進法第19条の規定による公告があった、農用地利用集積計画の定めによって設定された賃貸借に基づき賃借している農地についての権利の価額は、課税価格に算入しません。

一方で、上記の賃貸借により貸し付けられている農地については、農地が貸し付けられていないものとした農地の評価額(自用地評価額)から、その価額に5%を乗じて計算した金額を控除した金額により評価します。

また、農地法第18条第1項の本文の賃貸借の解約等の制限の規定の適用除外とされている、10年以上の期間の定めがある賃貸借は、上記の評価方法に準じて取り扱われます。

農地等について使用貸借による権利の設定等をした場合における贈与税または相続税の取扱い

個人が農地または採草放牧地について、農地法第3条の規定による許可を受けて、使用貸借による権利を設定した場合、その農地等に係る使用権の価額はゼロとして取り扱われます。

そのため使用貸借によって農地等を借り受けた場合、借主に対し贈与税の課税関係は生じませんが、将来農地等の所有者に相続が発生した際は、その農地等を自用地として評価することになります。

まとめ

相続税土地評価において、農地を貸している際は、耕作権など設定されている権利に応じて減額補正の計算を行います。

農業委員会の許可を受けずに賃借している「やみ小作」に該当する場合、自用地として評価することになるのでご注意ください。

相続税対策は相続財産を正しく評価することが大前提となりますので、不安な点があれば相続税専門の税理士へご相談ください。

藤宮 浩(不動産鑑定士)
フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士 ‖ フジ総合グループの代表を務め、年間950件以上の相続関連案件の土地評価に携わる。相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。