埋蔵文化財包蔵地の相続税評価。計算方法を徹底解説!

土地の相続税評価額は、土地の形状や面積、利用状況を加味して評価額を算出します。
評価対象地が埋蔵文化財包蔵地に該当する場合、相続税評価額が下がりますので節税効果が期待できます。

本記事では、埋蔵文化財包蔵地の適用要件と評価方法について解説しますので、相続税の申告書を作成する際の参考にしてください。

埋蔵文化財包蔵地とは

埋蔵文化財包蔵地とは埋蔵文化財が存在する土地をいい、埋蔵文化財は土地に埋蔵されている文化財のことです。

文化財法第93条では埋蔵文化財が包蔵する土地として周知されている土地を、「周知の埋蔵文化財包蔵地」と定義しており、周知の埋蔵文化財包蔵地は全国に約46万か所あります。

文化財の判定は遺跡の時代・種類を主な判断要素とし、遺跡の所作する地域の歴史的な特性、文献などの資料と他の資料との補完関係などを副次的な判断要素としています。

次に該当する範囲のものは、原則として埋蔵文化財の対象です。

埋蔵文化財として扱う範囲

・おおむね中世までに属する遺跡
・近世に属する遺跡で、地域において必要なもの
・近現代の遺跡で、地域において特に重要なもの

埋蔵文化財が存在する場合は発掘調査をしなければならない

埋蔵文化財は、毎年9千件程度の発掘調査が行われており、所有している土地に埋蔵文化財が存在する場合には、発掘調査をしなければなりません。

また出土品は所管の警察署長に提出する必要があり、文化財らしいと認められる場合、都道府県・政令指定都市および中核市の教育委員会が文化財の鑑査を行います。

埋蔵文化財の発掘調査費用は土地所有者が負担することもありますが、公費により賄われるケースもあります。

相続税評価額の計算においては、埋蔵文化財包蔵地に該当するかはもちろんのこと、発掘調査費用の金額の大小や実費負担の有無が計算に大きく関わってきますので、埋蔵文化財の存在を把握したら速やかに確認作業を行ってください。

埋蔵文化財包蔵地の評価方法

相続財産の評価方法は、財産基本通達より規定されており、原則は財産基本通達に基づいて評価額を計算します。

埋蔵文化財包蔵地の計算式

埋蔵文化財包蔵地の評価方法は、財産評価基本通達に定められていません。

しかし国税庁の「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」では、土壌汚染地の相続税評価額の計算方法について記載しており、埋蔵文化財包蔵地は土壌汚染地の相続税評価額の計算方法に準じて評価額を算出します。

埋蔵文化財包蔵地の計算式評価方法

埋蔵文化財がないものとした場合の相続税評価額-発掘調査費用相当額×80%=埋蔵文化財包蔵地評価額

埋蔵文化財包蔵地を実際に売却するとした場合、埋蔵文化財の発掘調査費用等を反映した低い金額での売却となるため、相続税評価額を計算する際は発掘調査費用相当額を控除することとしています。

土地を評価する場合、同じエリアにある土地でも地目や形状が異なれば評価額は違いますので、個々に補正計算が必要であり、発掘調査費用相当額を差し引くのも補正計算の一つです。

控除額が発掘調査費用相当額の80%となっているのは、相続税で土地を評価する際に用いる路線価が地価公示価格の80%相当額であるため、控除する額も路線価に合わせて発掘調査費用相当額の80%相当額を差し引きます。

埋蔵文化財包蔵地の相続税評価額の計算例

<前提条件>
埋蔵文化財がないものとした場合の相続税評価額:4,000万円
発掘調査費用相当額:800万円(土地所有者負担)
〇計算式
4,000万円-800万円×80%=3,360万円(埋蔵文化財包蔵地の評価額)

「埋蔵文化財がないものとした場合の相続税評価額」は、一般的な土地の評価額を算出するのと同じ方法で計算します。

路線価が設定されている地域であれば「路線価方式」、路線価が設定されていない地域であれば「倍率方式」により評価額を算出します。

発掘調査費用については、教育委員会等で過去資料等を確認したり、可能であれば土木工事事業者などから見積額を提示してもらい、その調査費用の80%を控除します。

埋蔵文化財包蔵地として評価する土地の3要件

埋蔵文化財包蔵地として評価できるのは、次の3つの要件に該当する土地のみです。
要件を満たさなければ、埋蔵文化財が存在する土地であっても減額補正を適用できません。

評価対象地に埋蔵文化財が存在することが確実であること

埋蔵文化財包蔵地は、地中に文化財があることが前提となりますので、地中にある財産が文化財と認められなければ減額補正の対象外です。

埋蔵文化財包蔵地の該当の有無は、市区町村で確認することになります。

たとえば千葉県千葉市では、埋蔵文化財調査センターあるいは文化財課で常備している遺跡分布地図がありますので、「埋蔵文化財包蔵地照会表」に必要事項を記入し、確認したい場所の地図を持参してセンターで調べます。

文化財が埋まっていると推測される土地が複数あれば、それぞれ確認しなければなりませんし、土地の所在する市区町村が異なれば、市区町村ごとに手続きすることになりますのでご注意ください。

発掘調査費用は土地所有者が負担すること

埋蔵文化財包蔵地の評価は、発掘調査費用相当額の80%を控除するものですが、評価額を減額するのは、土地所有者が土地を売却するとした際に発生する費用負担(費用相当額分、低い価額での売却となる)を考慮してのものです。

埋蔵文化財が存在している土地でも、発掘調査は公費で賄われる場合、土地所有者は費用を負担しませんので、埋蔵文化財発掘調査費用相当額の控除は適用できません。

また発掘調査には試掘調査と本発掘調査の2種類あり、費用負担の扱いは土地が所在する市区町村によって異なります。

試掘調査費用は公費で賄われ、本発掘調査費用は土地所有者が負担するケースもありますし、個人が営利目的ではなく行う住宅建設等の場合には、本発掘調査費用も市区町村が負担することもあります。

また土地所有者が費用負担するとなっても、発掘調査費用に対して国庫補助等が支払われることもあり、その場合は国庫補助金等を除いた実費が発掘調査費用相当額です。

路線価に埋蔵文化財包蔵地の減額補正が考慮されていないこと

路線価は、毎年税務署の評価担当者によって、周辺地域の状況を踏まえた上で金額が設定されています。

路線価は基本的に標準的な土地に対する金額が設定されているため、埋蔵文化財包蔵地に該当すれば減額補正の対象です。

しかし評価対象地の周辺地域が埋蔵文化財包蔵地に該当し、路線価が埋蔵文化財包蔵地であることを加味された金額である場合には、減額補正は適用できません。

路線価に埋蔵文化財包蔵地としての減額補正が考慮されているかどうかは、周辺地域の状況や路線価を総合的に勘案することになるため、判断には高度な専門知識が必要です。

相続財産に埋蔵文化財包蔵地がある場合に注意すべきポイント

埋蔵文化財包蔵地は相続財産の中では珍しい部類になるため適否判定は難しく、税務署に埋蔵文化財包蔵地評価を否認されれば、追徴課税を支払うことになりますので要注意です。

埋蔵文化財包蔵地の存在を把握する作業には労力がかかる

埋蔵文化財包蔵地の要件でもご説明しましたとおり、地中に物が埋まっている場合でも、文化財に該当するものでなければ、埋蔵文化財包蔵地の評価をすることはできません。

埋蔵文化財包蔵地に該当するかは、対象地が所在する市区町村ごとで確認する必要があり、確認方法は自治体によって異なります。

ホームページ上で埋蔵文化財包蔵地を確認できる市区町村もあれば、郵送や直接出向かないと確認できない市区町村も存在するため、調べるのにも労力がかかります。

発掘調査費用は対象地ごとに異なる

埋蔵文化財包蔵地の補正計算は、発掘調査費用の80%を差し引くものなので、評価対象地の発掘費用がどの程度必要になるかを把握しなければ評価額を算出できません。

埋蔵文化財包蔵地に該当したとしても、市区町村等が発掘調査費用を負担すれば減額補正は適用できませんし、自費負担する発掘調査費用は相続人が土木工事事業者などに見積もりを取ることになります。

(都道府県ごとに、埋蔵文化財発掘調査事業に係る業務委託標準積算基準があり、地域によって発掘調査費用の単価は異なります。)

また相続税の申告期限時点で試掘をしていなければ、埋蔵文化財包蔵地であるかどうかも判断できないため、発掘調査費用の見積りを取ることも困難です。

そのため申告期限までに埋蔵文化財包蔵地に該当するかどうかを確認できず、発掘調査費用も算出できない場合、一度埋蔵文化財包蔵地ではない土地として相続税の申告書を提出することも検討してください。

相続財産に埋蔵文化財包蔵地がある場合の作業手順

埋蔵文化財包蔵地の確認作業は相続税の申告書作成と並行して行う

相続税は亡くなった人すべての財産が対象となりますので、相続開始時点の財産の所在を確認し、各財産の相続税評価額を算出しなければなりません。

そのため他の財産の把握や評価額の計算と並行して、埋蔵文化財包蔵地の確認と発掘調査費用の見積もりを取る必要があります。

相続開始時点で埋蔵文化財包蔵地の存在が明らかであれば、作業は比較的スムーズに進められますが、相続後に文化財が埋まっていることを把握した場合は、すぐに確認作業を行わないと申告期限に間に合わない可能性があります。

申告期限に間に合わない場合は自用地評価で申告する

相続税の申告書は、相続開始日の翌日から10か月以内に申告・納税手続きをする必要があり、遺産分割協議が完了していなくても未分割の状態で一度申告しなければなりません。

期限までに申告書を提出しなければ、期限後申告となり、自主的に申告したとしても5%の加算税と申告期限から納付日までの期間に応じた延滞税を支払うことになります。

したがって申告期限までに埋蔵文化財包蔵地に該当するかどうかを確認できない場合や、発掘調査費用の見積額を算出できないときは、一旦「埋蔵文化財がないものとした場合の相続税評価額」で申告することも選択肢です。

減額補正は申告期限後に行うことも可能

相続税の申告内容が変更になる場合、更正の請求の手続きを行うことになります。

当初申告より納税額が少なくなる場合には、更正の請求書を提出することで、納め過ぎた税金の還付を受けられます。

更正の請求書を提出できる期間は、原則申告期限から5年です。

埋蔵文化財包蔵地の評価が間に合わない場合には、相続税の申告書を提出し、発掘調査費用等が確定した時点で更正の請求書を提出する方法もあります。

「周知の埋蔵文化財包蔵地の評価」で相続税を減額した事例

「周知の埋蔵文化財包蔵地の評価」で実際に相続税を減額した事例をご紹介します。

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まとめ

珍しい財産や状況であるほど評価額を算出するのは難しく、相続税を専門している税理士でなければ評価方法がわからないことも考えられます。

そのため相続財産が埋蔵文化財包蔵地に該当する場合や、特別な土地を所有している方は、相続税に強い税理士へ相談することをオススメします。

相続税専門の税理士であれば評価方法はもちろんのこと、ご家庭に合わせた相続税の節税アドバイスも可能です。

相続税に関して少しでも不明点・不安点がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

藤宮 浩(不動産鑑定士)
フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士 ‖ フジ総合グループの代表を務め、年間990件以上の相続関連案件の土地評価に携わる。相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。

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