親族が亡くなり、家屋を相続することになった際、「この家の価値はいくらで、相続税はどのくらいかかるのだろう?」と不安に思う方は少なくありません。
預貯金はすぐに価値が分かりますが、家屋は一定のルールに基づいて評価額を算定する必要があります。
そのため、評価方法を正しく理解しないまま申告を進めてしまうと、評価額を高く見積もってしまったり、誤った申告をしてしまうおそれがあります。
本記事では、相続税申告における家屋の評価の基本から、具体的な計算方法、評価額を抑えるためのポイントまで、専門的な知識がない方にも分かりやすく解説します。
この記事を読めば、家屋の相続税評価に関する一連の流れを理解し、安心して相続税申告の準備を進めることができるようになります。
もくじ
相続税における家屋の評価方法の基本
相続税の計算において、家屋(建物)の評価は非常に重要であり、その評価額を算定するための基本的なルールが定められています。
家屋の相続税評価額の基本原則について解説いたします。
原則は「固定資産税評価額」で評価する

相続税で家屋の価額を計算する場合、その家屋の固定資産税評価額を用いて求めます。
建物の固定資産税評価額は、建物の構造(鉄筋コンクリート造、木造など)や工法によって異なりますが、建築費の約40%から60%が一般的であるとされています。
そして、通常、家屋を評価する際は、固定資産税評価額に評価倍率の1.0を乗じて価額を算定します。
具体的な計算式は以下のとおりです。
家屋の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0
すなわち、固定資産税評価額自体が、その家屋の相続税評価額となります。
不動産を相続する際、「固定資産税評価額」と「相続税評価額」という2つの異なる評価額が登場します。 両者の違いを解説しています。
なぜ時価ではなく固定資産税評価額で算定するのか
土地の評価の基礎となる固定資産税評価額は、公示価格のおおよそ70%程度を目安に、市町村が決定しています。
※注意:東京23区内では、特例により東京都が課税します。
本記事内では、市町村との表現に統一します。
この評価額は、固定資産評価基準に基づいて評価が実施され、3年ごとに改定されます。
固定資産税は、市町村が納税額を決定し、通知する賦課課税制度が採用されています。
そのため、市町村の固定資産税課の職員によって、評価額の算定が行われる固定資産税では、金額に間違いが生じることは、基本的にありません。
これに対し、相続税は取得した財産の金額を納税者側が申告し、計算する申告納税制度です。
相続税における評価によって導かれた数値は、客観的な指標に基づき算定される「価額」又は「評価額」として表現されます。
相続税は統一的な指標により財産の価値を計算するため、その性質が、当事者間の合意で決まる主観的な「価格」とは異なっています。
家屋の固定資産税評価額を調べる三つの方法
家屋の相続税評価額を求めるためには、まず評価の基準となる固定資産税評価額を知る必要があります。
この評価額を調べるには、主に次の三つの方法があります。
毎年送られてくる「固定資産税の納税通知書」を確認する
固定資産税の納税通知書は、固定資産課税明細書とも呼ばれており、毎年4月1日頃から6月30日頃にかけて市町村役場から納税義務者宛てに送付されます。
この書面には、その年度における固定資産税や都市計画税の課税対象となっている不動産の状況が記載されていますので、評価額の確認が可能です。
市区町村役場で「固定資産評価証明書」を取得する
固定資産評価証明書とは、固定資産課税台帳に登録されている評価額を証明するための公的書類です。
この証明書を取得すれば、固定資産評価基準に基づいて評価された、3年ごとに改定される家屋の適正な評価額を知ることができます。
参考:【土地・家屋】相続人・受遺者|固定資産に関する証明等(23区内)|東京都主税局
「名寄帳」の写しを取得して確認する
名寄帳(なよせちょう)は、その市町村内に納税義務者が1月1日時点で所有しているすべての不動産の一覧を記載した書類です。
名寄帳には、固定資産税が課税されているか非課税であるかに関係なく、所有不動産がすべて含まれます。
名寄帳は相続人等が委任状を持参して、市町村役場の固定資産税課などの窓口で取得することが可能です。
【状況別】家屋の相続税評価額の算定方法
家屋が自用であったか、賃貸されていたか、あるいは建築途中にあったかによって、家屋の評価額の計算方法は変わってきます。
ここでは主な状況別の評価方法を解説します。
被相続人が住んでいた家屋の場合
被相続人が所有し、自ら住んでいた家屋は自用家屋となります。
その価額は、原則として固定資産税評価額に評価倍率1.0をかけて算定されます。
建物の固定資産税評価額は、建築費の約40%から60%が目安です
家屋の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の自宅であれば、相続税評価額も2,000万円となります。
第三者に貸していた家屋(貸家)の場合
所有する家屋を第三者に貸している場合、その家屋は貸家として評価されます。
貸家は、借家権(借地借家法2条1号)によって入居者が保護されているため、家主の利用や処分が制限されており、自用家屋に比べて価額が低くなります。
貸家の評価では、固定資産税評価額から借家権相当額を控除します。
これは、借家人が使用収益権の一部を有しており、家主が自由に利用・処分できない実態を評価に反映するためです。
貸家の評価額は、固定資産税評価額に「1 − 借家権割合 × 賃貸割合」を乗じて算出します。
借家権割合は全国一律で30%、賃貸割合は評価時点で実際に賃貸している独立部分の延床面積(地積)割合です。
貸家の相続税評価額=固定資産税評価額×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合)
例えば、1億円で新築した賃貸マンションの場合、固定資産税評価額は建築費のおおよそ40%から60%程度(約4,000万〜6,000万円)となります。
この固定資産税評価額に、借家権割合30%と賃貸割合100%を考慮した係数(0.7)を乗じることで、相続税評価額は約2,800万円から4,200万円程度となるケースがあります。
このように、建築費を基準にすると、結果として評価額が約58%から72%程度圧縮されることになります。
| 評価項目 | 概要 | 根拠となる割合(一般例) |
|---|---|---|
| 固定資産税評価額 | 相続税評価額の基礎となる金額(建築費の約40%〜60%) | 40%〜60% |
| 借家権割合 | 借家人が持つ法律上の権利の割合 | 30%(全国一律) |
| 賃貸割合 | 独立部分ごとの入居状況(空室がない場合は100%) | 100%(満室時) |
| 評価額の圧縮効果 | 新築時(1億円)の圧縮率 | 約58%〜72%(価額の例:2,800万円〜4,200万円) |
建築中に相続が発生した家屋の場合
建物が新築や増改築の直後で、まだ家屋の固定資産税評価額が決定していない時期に相続が開始することがあります。
建築中の家屋は、課税時点における費用原価(請負金額 × 工事進捗率)の70%で評価します。
建設中の家屋の相続税評価額=課税時点における費用原価(請負金額 × 工事進捗率)×70%
請負金額は総工費、工事進捗率は実際の出来高を反映した割合であり、完成前であれば進捗率に応じて評価額も按分されます。
申告期限までに固定資産税評価額が決定した場合は、その評価額に1.0倍を乗じて評価することも可能です。
ただし、申告期限である相続開始から10か月以内までに、その家屋の固定資産税評価額が正式に決定したときは、決定した評価額に評価倍率の1.0を乗じた金額で評価することが可能になります。
参考:No.4629 建築中の家屋の評価|国税庁
参考:第3章家屋及び家屋の上に存する権利|国税庁
増改築やリフォームをした家屋の場合
固定資産税評価額は3年に一度見直されるため、増改築やリフォームをしたタイミングによっては、その工事内容が評価額に反映されていない場合があります。
その際は、増改築部分の価額を別途計算し、元の固定資産税評価額に加算して評価する必要があります。
計算は複雑になるため、税理士や不動産鑑定士などの専門家に相談することをおすすめします。
固定資産税は、3年に1度のタイミングで評価が見直されます。 見直しについて分かりやすく解説しています。
参考:総務省|地方税制度|固定資産税の令和3年度評価替えへの対応
家屋の評価で相続税の負担を抑えるための重要ポイント
家屋を相続財産として評価する際には、評価額を抑えることで相続税の負担軽減につながるいくつかのポイントがあります。
第三者に貸し出し、貸家として評価額を減額する
土地の上に建っている家屋を第三者に貸し出し、貸家として評価されるようにすることは有効な方法です。
家屋を人に貸している場合、自用家屋よりも低い評価額が適用されます。
また、その敷地も貸家建付地として評価額の減額を受けることが可能です。
さらに、賃貸経営を法人化し、建物の所有権を法人に移すことによって、家屋から生じる賃料がすべて法人の収入とできます。
この方法は、所得税・住民税の節税及び将来の相続税の節税や納税資金対策につながるといったメリットがある一方で、法人設立費用や法人税等申告・納税等による維持コスト、法人名義による売却時の手続の煩雑化といったデメリットもあります。
賃貸割合の維持による評価額の適正化
賃貸物件の敷地が貸家建付地として評価される場合、評価額の減額は賃貸割合にも影響します。
空室が多い状態で相続が発生すると、空室部分は自用家屋と同じ価額となるため、結果として相続税評価額が上昇する可能性があります。
空室が多い場合、将来的に売却価格が下がったり、借入金の返済が困難になったりするリスクも生じます。
また、相続開始時に空室であった部屋でも、その空室が「継続的に賃貸されてきたもので、一時的に空室だったもの」と認められれば、賃貸割合に含めることが可能です。
ただし、一時的な空室かどうかの判断は、空室期間の長さや入居者の募集状況、地域の特性など、事実関係を総合的に考慮して行われます。
なお、空室リスクを回避する方法として、サブリース契約(一括転貸方式)の活用が考えられます。
賃貸物件の入居者は、被相続人から見れば、転借人であり、空室の責任は、サブリース会社(賃借人兼転貸人)にあり、相続税評価において、賃貸割合は100%で計算できます。
小規模宅地等の特例は家屋ではなく宅地等に適用される要件を理解する
小規模宅地等の特例は、亡くなった方の自宅敷地や事業用敷地など「宅地等」の価額を最大80%減額できる、影響力の大きな特例です。
しかし、この特例が適用されるのは「宅地等」の価額に対してであり、家屋そのものの評価額に対して適用されるものではありません。
宅地等は、建物又は構築物の敷地の用に供されている土地を指します。
小規模宅地等の特例が適用可能かどうかを判断するための基本知識や適用した際の計算方法について解説しています。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
相続税の家屋評価に関する三つの注意点
家屋の評価を行う際には、いくつか注意すべき点があります。
これらを見落とすと、誤った申告に繋がる可能性があるため、しっかりと確認しておきましょう。
評価の基準日は「相続開始日」
相続税の計算は、被相続人が亡くなった時点、すなわち相続開始時の財産の価値を計算の基礎としています。
したがって、家屋の評価額についても、相続開始時点における家屋の現況に基づいて評価を行うことが原則です。
固定資産税評価額と課税上の地積などの不一致
家屋の相続税評価額は固定資産税評価額を用いて計算しますが、固定資産税の納税通知書に記載されている「課税地目」や「課税地積」などの情報が、必ずしも登記情報と一致しているわけではないことに留意すべきです。
なぜなら、これらの情報は、市町村が徴税のために調査した結果が反映されているからです。
門や塀などの附属設備・庭園設備も別途評価対象になる
門、塀、外井戸等の附属設備、庭園設備(庭木、庭石、庭池等)も家屋とは別に相続財産として評価する必要があります。
これらは「附属設備」や「庭園設備」として個別に評価額を算出し、申告に含めなければなりません。
評価漏れが起きやすい部分なので、忘れずにチェックしましょう。
家屋の評価で不安な場合は専門家への相談がおすすめ
ここまで家屋の評価方法について解説してきましたが、特に貸家や増改築があった場合など、計算が複雑になるケースも少なくありません。
少しでも不安や疑問がある場合は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
税理士に相談するメリット
一般的に、税理士の多くは会計や経理を専門としており、相続税を専門とする税理士は少ないのが実情です。
しかし、不動産、特に土地を持っている方にとっては、不動産に関する知識や経験が非常に重要になります。
なぜなら、土地評価の方法次第で、相続税額に数百万円から数千万円もの差が生じる例があるからです。
相続税の申告期限は相続開始から10か月と定められています。
この短期間で、信頼できる税理士を探し、十分な検証を経て、申告書を作成することは困難な場合があります。
相続税に専門特化している事務所であれば、その知識、経験、ノウハウ、そして手続のスムーズさの点で、依頼者は安心を得ることができるでしょう。
どこに相談すればよいか
相続財産を適正に評価し、払い過ぎを避けるためには、相続を専門としており、かつ不動産に詳しい事務所を選ぶよう注意することが大切です。
相続に関する相談は、悩みに応じた適切な相談先の選択が、早期解決のカギとなります。相談先と得意分野について解説しています。
まとめ
本記事では、相続税における家屋の評価方法について、その基本から具体的な計算方法、注意点までを解説しました。
相続税における家屋の評価は、原則として固定資産税評価額に基づいて行われます。
家屋の評価額は、建物の建築費のおおよそ40%から60%程度に設定されている固定資産税評価額を利用して求めます。
家屋を第三者に貸し出している場合や、新築直後で固定資産税評価額が未決定の場合など、状況によって評価方法は変化することをご理解ください。
特に貸家は、借家権や賃貸割合を考慮した減額が可能であり、新築時であれば約58%から72%の評価額圧縮効果も見込まれます。
このため、相続税の節税に有効な手段の一つです。
また、空室リスクを回避するためにサブリース契約を結ぶことで、賃貸割合を100%として計上できる点も大きなポイントと言えます。
適正な評価と適切な申告を行うためには、正しい知識を身につけることが求められます。
この記事が、相続税に関する皆さまの不安を少しでも和らげ、スムーズな手続を進めるための一助となれば幸いです。




