日本の相続税は高すぎる?納め過ぎた税金を取り戻せる方法・納め過ぎてしまう理由を紹介

日本の相続税は高すぎる?納め過ぎた税金を取り戻せる方法・納め過ぎてしまう理由を紹介

相続税とは、親・親戚などが亡くなった際に相続した財産に対してかかる税金を指します。
日本の相続税率は、他国と比較して高いといわれています。
その上、相続税を納め過ぎても所得税などのように申告後、戻ってくることはないため、そもそも納めすぎていることに気付かない方が多いのも事実です。

本記事では日本の相続税が高い理由を解説した上で、納め過ぎてしまうケースや納め過ぎた相続税を取り戻す方法などについて解説します。
節税対策を行うためにも、税金に関する知識を深めましょう。

相続税が必要な理由

相続税が必要な理由

中国やオーストラリアなど、諸外国の中には相続税を納める必要がないところも複数あります。
日本ではなぜ相続税が必要とされているのでしょうか。
その理由について解説します。

富の再分配

相続税が必要な理由として、富(財産)の再分配が挙げられます。
富の再分配とは、貧富の差を減らして社会的な公平をもたらすことを目的とした、経済政策の一つです。
申告・納税された相続税は、国に納めることで国税として広く社会のために使われます。

相続税の課税対象に含まれるのは、現金や預貯金だけではありません。
有価証券や土地、家屋、宝石、貸付金、特許権、著作権など、経済的価値があるものすべてが該当します。

不労所得に対する課税

不労所得とは、労働に対する直接的対価の賃金や報酬以外で得られる所得のことです。
労働に対する賃金や報酬には所得税がかかります。
一方、相続した財産を不労所得とみなした場合、何も課税がないのは不公平であることから、相続税を課すのです。

所得還元による補完

相続税が必要な理由として、所得還元による補完機能を果たすことが挙げられます。
すなわち被相続人の生前における所得について相続時に清算的に課税(本来支払ってたはずの所得税を相続税として課税)するということです。

また、高齢化社会が問題視される近年は、老後扶養にかかる社会保障費を調達する目的から相続税を課税し、所得を社会に還元させるといった視点も加えられています。

日本の相続税は高すぎ?

日本の相続税は高すぎ

他国に比べて、なぜ日本の相続税は高すぎるといわれるのでしょうか。
ここでは、日本の相続税制度の概要を解説した上で、日本の相続税負担が重い理由について解説します。

日本の相続税制度の概要

相続税とは、親・親戚などが亡くなった後に引き継いだ財産に課される税金のことであり、財産の金額が高くなるほど税率が上がる「超過累進税率」を適用しています。

また、相続税の課税対象は幅広く、現金や土地・建物などの不動産、有価証券、各種債権のほか、生命保険、死亡退職金といったみなし財産、さらに暦年課税制度により相続開始前3年間(2024年1月1日からは7年)の間に相続人から生前贈与された財産なども含まれます。

また、相続税は相続財産から基礎控除といわれる一定の額を控除した上で計算されます。
基礎控除はバブル期の高い水準のままだったため、相続税の再分配機能が低下していることが指摘され、平成25年度の税制改正で見直しが行われました。
平成25年度税制改正では、相続税の再分配機能回復と格差の固定化の防止を目的とし、下落が続く地価動向などを踏まえた基礎控除の引き下げによる課税ベースの拡大と、税率構造について見直しが行われています(※)。

※参考:財務省. 「相続税」と「贈与税」を知ろう. “1相続税について”. https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei0110/04.htm , (参照2024-1-24).

日本の相続税の負担が重い理由

日本の相続税の負担が重い理由として、以下の3つが挙げられます。

日本の相続税の負担が想い理由

1.相続人に対する納税義務
2.超過累進税制度の採用
3.相続税に対する基礎控除が少ない

日本の相続税の負担が重い一つ目の理由として、日本では遺産分割をした後の遺産に相続税が課せられることが挙げられます。
これにより、相続財産を多く取得した個人の納税負担額が重くなるのです。
ちなみに、アメリカやイギリスでは遺産に対して相続税が課せられるため、相続人は課税後の遺産を分けることになります。

二つ目の理由は、超過累進税制度の採用です。
前述したように日本の相続制度は超過累進税率が採用されており、相続する財産が高額なほど税の負担率が重くなる仕組みになっています。
法定相続分の取得金額が6億円を超えると、55%もの税金を納付することになるのです。

三つ目の理由に、相続税に対する基礎控除が少ないことが挙げられます。
高齢世帯ほど財産が多い傾向がある日本では、基礎控除枠のみで相続税を回避するのは難しいでしょう。

なお、相続税の基礎控除額は、 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)の計算式で導き出すことができ、相続税は以下のとおりに算出できます(※)。

相続税額を計算する基本的な考え方

1.相続税の基礎控除額を算出する
2.基礎控除額を超える部分に相続税率をかける

例として、相続人が配偶者と子ども1人のケースでは、4,200万円の基礎控除が認められたとしましょう。
相続財産が基礎控除額の4,200万円以下であれば相続税は発生しませんが、基礎控除額を超過する財産がある場合は、財産額に応じて設定される相続税率に基づいて相続税が算出されます。

※参考:財務省. 「親が亡くなりました。遺産を相続する場合にどのような税金がかかるのですか?」.https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda005.html ,(参照2024-1-24).

相続税の計算例

相続税の仕組みや基礎控除額の計算式を参考に、相続税を計算してみましょう。
記の速算表を用いて計算した合計額が、相続税の総額になります。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超から3,000万円以下15%50万円
3,000万円超から5,000万円以下20%200万円
5,000万円超から1億円以下30%700万円
1億円超から2億円以下40%1,700万円
2億円超から3億円以下45%2,700万円
3億円超から6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

例えば法定相続人が配偶者と子ども2人である場合、法定相続分は妻2分の1、子4分の1ずつです。

課税遺産総額が1億円とすると法定相続分に応じた取得金額は、妻が5,000万円、子は1人あたり2,500万円となります。
そして、相続税の速算表に当てはめると、法定相続分に応じた取得金額の計算は以下です。

相続税の計算例

(妻)  5,000万円 × 20% – 200万円 = 800万円
(子1) 2.500万円 × 15% – 50万円 = 325万円
(子2) 2.500万円 × 15% – 50万円 = 325万円

上記で算出された税額を合計した場合、相続税の総額は1,450万円となります。

参考:国税庁. 「No.4155 相続税の税率」. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm, (参照2024-1-24).

払い過ぎた相続税を取り戻す方法・ポイント

払いすぎた相続税を取り戻す方法・ポイント

相続税は計算ミスの発生や土地評価が難しいなど複数の理由から、知らない間に納め過ぎているケースも少なくありません。
日本は還付制度により、相続税を納め過ぎた場合は税金が戻る仕組み(更正の請求)があるため、場合によっては取り戻すことが可能です。
そこで、納め過ぎた相続税を取り戻すための方法やポイントを詳しく解説します。

申告期限日から5年以内か

納め過ぎた相続税を取り戻せるか否かは、還付できる申告期限によります。
相続税の還付は、相続税の申告期限から5年以内に請求しなければならないためです。
相続の事実を知った日から10カ月目に来る相続税の申告期限から、5年以内であれば還付申請に回数制限はありません。
還付申請が無効にならないうちに申告しましょう。

参考:国税庁. 「相続税及び贈与税の更正の請求手続」. https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/1585-10.htm , (参照2024-1-24).

土地を相続したか

土地の評価額によって、相続税額は大きく異なります。
土地の評価は複雑なため、適切に評価されなかった場合、本来の納税額よりも高い相続税を納めている可能性があるのです。
例えば相続した土地が下記に該当する場合は、還付申請ができるかもしれません。

このような土地を相続した場合、納めすぎた相続税を取り戻せる可能性が

・土地の形がいびつ
・土地が線路や踏切に面している
・土地の中を里道や水路が通っている
・土地が道路に接していない
・日当たりが悪すぎる土地
・登記簿情報よりも実際は狭い土地

土地の評価額以外にも更正の請求ができるケースがあるため、相続税を納め過ぎている可能性がある場合は専門家に相談してみることがおすすめです。

相続税を納め過ぎてしまう主な理由

相続税を納め過ぎてしまう理由は主に3つあります。

相続税を納め過ぎてしまう主な理由

・納め過ぎに気がつかないままでいる
・土地の評価が難しい
・最新の判例や通達を反映できていない

特に自分で申告した場合はミスが起きやすいため、注意が必要です。

納め過ぎに気がつかないままでいる

相続税は自己申告するため、正しい計算ができていないことで相続税を納め過ぎてしまうことがあります。
また税務署では、申告額が不足していないかどうかの調査のみが行われるため、相続税が不足していた場合は通知が来るような仕組みになっていますが、相続税が超過していた場合は税務署側から通知がくることはありません。
そのため、税金を納め過ぎているかどうかは自分で確かめる必要があります。

土地の評価が難しい

相続税を納め過ぎてしまう理由として考えられるのが、土地の評価が難しいことです。
原則的な土地の評価方法はあるものの、さまざまな減額要因があります。
実際よりも高い評価額で申請すれば、正しい納税額よりも高額になってしまうでしょう。

基本的に土地の相続税評価額は、毎年7月1日に国税庁が発表している路線価を基に計算します。
しかしエリアや面積の大きさ、分割の仕方、土地の形、間口幅などさまざまな要因によっても土地の評価は異なります。
相続税の土地評価は状況に応じて適切な価格補正を行う必要があるため、土地評価の見直しは相続税の納め過ぎを防ぐための重要なチェックポイントといえるでしょう。

最新の判例や通達を反映できていない

裁判での判決結果や通達により、納税後に相続税土地評価の新たな基準が明確となるケースがあります。
そのような場合は、納税後でも判例や通達の内容を適用することができます。
そのため、相続税申告を行った時点では正しい評価であっても、最新の判例や通達をもとに評価を見直すことで評価額を下げられる可能性があります。
過去に出された判例・通達には下記のようなものがあります。

過去に出された判例・通達

・平成24年6月の東京地方裁判所の判決により、庭内神しの敷地部分にかかる相続税を非課税とした。
・平成29年2月の最高裁判所の判決により、一定要件を満たす歩道上空地について、通常の私道と同様の評価とする旨が認められた。
・平成31年1月1日以降の相続開始案件より、土砂災害特別警戒区域の程度によっておおむね10%から30%程度の割合で減額を認めた(※)。

相続税には、細かいルールが定められており、日々新しい判例や通達も出るため、納め過ぎてしまう可能性があります。
自分だけで申告・納税が難しい場合は、常に最新の判例や通達研究を行っている専門家に依頼するのが望ましいでしょう。

※参考:国税庁. 「法令解釈通達-財産評価」. “20-6土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価”. https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/03.htm#a-20_6

まとめ

日本の相続税は、他国と比較して高すぎるといわれています。
それに加えて、細かいルールや複雑な計算方法などにより、本来納めるべき額よりも高く納めてしまうことが少なくありません。
ただし、納め過ぎた税金は取り戻せる可能性があります。
還付の手続きは相続税の申告期限から5年以内に行う必要があるため、気になっている方は早めに専門家へ相談してみてください。

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藤宮 浩(不動産鑑定士)・髙原 誠(相続専門の税理士)
【左】フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士/相続税還付業務の第一人者として、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿を行う。【右】フジ総合グループ副代表 髙原 誠(たかはら まこと)税理士/不動産に強い相続専門事務所の代表税理士として、年間約990件の相続税申告・減額・還付案件に携わる。

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