
令和7年6月に相続土地国庫帰属制度の運用状況が法務省より公表されました。
それによると、令和7年5月末時点での申請件数(速報値)は3,854件、うち帰属件数は1,699件となり、約44%の帰属率となりました。

令和5年4月に制度が始まってから2年以上が経過しましたが、皆さまはこの数字をどのように感じられたでしょうか。
個人的な見解としては、申請件数・帰属件数ともに少ないという印象を受けました。
なぜなら、制度開始後に発生した相続による土地だけではなく、制度開始前に発生した相続に係る土地も申請が可能であるにもかかわらず、申請件数が約3,800件に留まっているからです。
そこで、今回は「相続土地国庫帰属制度」の概要とその考え方について詳しく解説していきます。
制度の概要① 「申請要件と手続き」
相続や遺贈(遺贈は遺言による贈与。ただし、この制度では相続人に対する遺贈に限ります)によって土地の所有権を取得した人が、その土地の所有権を国庫に帰属させたい場合、まず法務局に相談し、その後、承認申請を行います。申請窓口は、対象土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)となります。
法務局は、書面審査や実地調査などを行います。
承認が下りた場合は、負担金を納付することで所有権が国に帰属します(所有権移転登記は国が実施します)。
この制度は単独所有地はもちろん、共有地にも適用可能です。
ただし、共有地の場合はすべての共有者が申請を行う必要があります。
なお、対象者は「相続または遺贈」によって土地を取得した相続人であり、売買や贈与によって取得した土地の所有者は、この法律の適用外であるため、申請できません。
また、相続や遺贈によって財産(土地)を受け取らない法人も申請は不可となります。
制度の概要② 「手続き費用」
次に手続き費用についてです。
申請に際し、審査手数料として一筆あたり14,000円の費用が発生します。
この手数料は、申請を取り下げたり、不承認となった場合でも返金されません。
帰属承認後の負担金は、今後10年間の土地管理費用に相当し、土地の特性に応じた標準的な管理費用を考慮して算出された額となります。
具体的な負担金の額は20万円が基準となり、地目や登記面積などによって、面積単位で負担金を算定する場合もあります。
また、不動産売買において慣習として行われる未経過固定資産税などの精算は、国との間では行われません。
申請は所有者本人のみ行うことができますが、書類作成の代行を依頼することは可能です。
ただし、代行を行えるのは弁護士、司法書士、行政書士のいずれかです。
申請件数が少ないのはなぜ?
相続土地国庫帰属制度に関する申請件数や帰属件数は法務省から公表されていますが、相談件数については公表されないため、その具体的な数字は不明です。
ただし、過去の相続によって取得した土地も適用可能であるにもかかわらず、申請件数が現状にとどまっているのは、何らかの要因があると考えます。
例えば、制度の周知が不十分であったり、申請時に境界確定が求められるなど、条件が物納のように厳しいことが影響しているのかもしれません。
また、例えば民間の「負不動産引取業者」の存在も要因のひとつとして考えられるでしょう。
相続土地国庫帰属制度は、いわゆる「負動産」の受け皿としても機能していますが、今後も利用者数の増加は見込みにくく、その傾向は続くと予想されます。

民間による引取業者との比較
民間の負不動産引取業者とは、国に代わって有料で負動産を引き取る業者をいいます。
お客様(所有者)のニーズに合わせたサービスを提供できる点は大きなメリットといえますが、国の制度と比べると、信用性においては業者ごとに差があり、利用者は慎重に見極める必要があります。
以下、内容を一部比較してみます。
「相続土地国庫帰属制度」と「民間引取業者」の違い
相続土地国庫帰属制度 | 民間引取業者(一般的な範囲) | |
---|---|---|
対象者 | 相続または遺贈により土地を取得した相続人 | 不問 |
相続以外の理由で取得した土地 | ✕ | 〇 |
建物あり | ✕ | 〇 |
担保権あり | ✕ | ✕ |
境界未確定 | ✕ | 〇 |
農地(田畑) | 〇 | ✕ |
審査手数料 | 14,000円/筆 | 不要 |
負担金 | 20万円~ | 個別見積もり |
信用性 | 高め | 業者ごとに差があり、見極めが必要 |
負動産を処分する方法は、民間の引取業者以外にも次の方法があります。
- 隣の土地の所有者と相談し、負動産の活路を見出す。
- 農地中間管理機構(いわゆる農地バンク)などの公的機関を活用する。
負動産の処分に際し、どのようなゴールを描くかで選択肢も変わってきます。
各方法のメリット・デメリットを十分理解し、適切に判断しましょう。
相続対策の一丁目一番地は、「不動産の色分け」から
負動産を抱えることになったお子さまをはじめ、ご相談にいらっしゃる相続人の方からよく聞かれるのは、「山奥の土地をなんとか手放したい」というご相談です。
国や都道府県、市区町村に無償で寄付をすれば引き取ってもらえると思われがちですが、残念ながら、その考えはあまり現実的ではなく、実際は困難なケースがほとんどです。
なぜなら、「自分にとって不要なものは、他人にとっても不要であることが多い」というのが、不動産の世界では通例だからです。
物納の際に、税務署が負動産を優先的に引き取らないのも同様の理由です。
現所有者である親御さま世代も、所有する土地に「負動産」が含まれていると知りながら、その煩わしさも手伝って、その処分を「子どもに任せます」と仰るケースは少なくありません。
お子さまが同席されていない場で率直なお気持ちを吐露されているのだと思いますが、そのようなご意見を耳にすると、一税理士としてはとても複雑な気持ちになります。
なぜなら、その負担を担うのは、紛れもなくお孫さまや次の世代のお子さまたちなのです。
一方、お子さまたちは、ご多分に漏れず「なぜこんな土地を自分に残したのか」と戸惑い、時には親御さまやその上の世代に対して強い不満を抱かれるケースもあります。
その連鎖は、世代が代わっても繰り返されているのが現状です。
まずは、過度な生前贈与や保険の加入、法人の設立や安易なアパート建設を行う前に、不動産の要不要を区分けする「不動産の色分け」から始めてみましょう。
色分けに際して、サポートを依頼できる専門家がそばにいると安心です。
申告書作成のような事務作業にとどまらず、皆さまの不安やお困りごとを一緒に解決してくれる税理士を見つけましょう。