道路に接していない土地は、建物が建てられないなどの制限があるため、一般的に利用価値は大きく下がります。相続税評価額は時価をベースに考えるため、無道路地に該当する土地は相続税評価額を最大40%減額する補正計算が可能です。
本記事では無道路地の評価方法と、計算する際に注意すべきポイントについて解説します。
無道路地とは
無道路地とは、道路に直接接していない宅地のことをいいます。道路に接していない土地でも、実際は隣接する土地の一部を道路として使用し、通行している場合がほとんどです。
しかし建物を建築する場合には、建築基準法上の接道義務を満たさなければなりません。
接道義務とは、建築基準法などで規定されている建築物を建てるために必要な道路に接すべき最小限の間口距離の要件をいい、たとえば東京都建築安全条例では道路までの距離が20mを超える場合には道路幅が3m必要となるなど、法令ごとに接道義務の距離は異なります。
また道路に接している宅地でも、接している部分の距離が接道義務を満たしていなければ同様に建物の建築制限を受けますので、実際の状況に応じて無道路地と同様の補正計算を行い評価額を算出します。
なお評価対象地が他人の土地に囲まれていても、その他人の土地を通行用として使用する権利を設定している場合には、無道路地評価の対象外となります。
無道路地の相続税評価額の計算方法
無道路地の宅地を評価する場合は、一般的な宅地と同様に奥行価格補正や不整形地補正を行った後に無道路地補正を行います。
無道路地は道路から奥に入った場所にあるため、標準的な宅地よりも補正計算を必要とするケースが多くなります。
無道路地の計算の流れ
無道路地の土地の評価額は、利用している道路に設定されている路線価に奥行価格補正及び不整形地補正等を行い、算出された価額から無道路地補正の価額を控除して算出します。
無道路地補正の上限は、不整形地補正後の評価額の40%減額となります。
路線価×面積=評価額(A)
A × 奥行価格補正率=奥行価格補正後の評価額(B)
B × 不整形地補正率=不整形地補正後の評価額(C)
C-無道路地補正の価額=無道路地の宅地評価額
奥行価格補正の計算
奥行価格補正とは、道路から土地までの奥行距離に応じて路線価を補正する計算です。
同じ路線価の道路に接している土地であっても、評価対象地の奥行距離が長ければ利用価値が下がります。
また奥行距離が短すぎても、建物を建築しにくいなど、標準的な奥行距離の土地よりも利用価値が下がるため、奥行距離に応じて路線価に奥行価格補正率を乗じます。
なお路線価は地域ごとに地区区分が設定されており、奥行価格補正率は地区によって異なりますので、評価する際はご注意ください。
・ビル街地区
・高度商業地区
・繁華街地区
・普通商業・併用住宅地区
・普通住宅地区
・中小工場地区
・大工場地区
無道路地を評価する場合、無道路地と前面宅地(道路と無道路地との間にある土地)を合わせた土地(一体地)の奥行距離に応じた奥行価格補正率を乗じ、一体地の価額を算出します。
次に前面宅地に奥行価格補正率を乗じて前面宅地の価額を出し、一体地の価額から前面宅地の価額を差し引いたものが無道路地の奥行価格補正後の評価額となります。
路線価×一体地の奥行価格補正×面積(一体地)=奥行価格補正後の一体地の価額(A)
路線価×前面宅地の奥行価格補正×面積(前面宅地)=奥行価格補正後の前面宅地の価額(B)
A-B=無道路地の奥行価格補正後の評価額
不整形地補正の計算
不整形地補正とは、間口の狭い土地であったり、間口に対して奥行きが非常に長い土地であったり、形が悪い土地など、評価対象地が標準的な宅地の形状をしていないときに適用する補正です。
間口が狭い土地とは、道路に接している幅が狭い土地のことをいい、接している距離に応じて間口狭小補正率を乗じます。
無道路地は道路に接していないため、建物を建築するために必要な通路開設を想定した間口狭小補正率(地区区分ごとに補正率異なる)を適用します。
奥行きが長大な土地とは、間口距離に対して奥行距離が長い土地です。
『奥行距離』÷『間口距離』が一定以上になると、奥行長大補正率(地区区分ごとに補正率異なる)の対象となります。
不整形地とは、想定整形地(想定上の画地全体を囲む、正面路線に面する長方形または正方形の土地)と評価対象地の面積を比較し、かげ地が生じる土地のことをいいます。
(想定整形地の面積-評価対象地の面積)÷想定整形地の面積=かげ地割合
評価対象地の面積300㎡、想定整形地の面積500㎡の場合、かげ地割合は40%となり、地区区分や評価対象地の面積に応じた不整形地補正率を適用します。
間口狭小補正率を適用できる場合は、不整形地補正率に間口狭小補正率を乗じて得た数値を不整形地補正率とします。
また奥行長大補正率の適用がある場合においては、不整形地補正率と比較し、より補正率の値が低い方を選択します。
不整形地補正率×間口狭小補正率=①
奥行価格補正率×間口狭小補正率=②
①と②のいずれか小さい値を補正率として選択
※下限は0.60で、小数第2位未満は切り捨て
無道路地の通路開設費の算出
無道路地を評価する場合、建物を建築するために道路と接続する通路開設費を算出し、不整形地補正後の評価額から差し引きます。
通路開設費は、路線価に通路部分の面積を乗じた価額をいい、不整形地補正後の評価額の40%を上限とします。
路線価×通路部分の面積=通路開設費相当額(※)
不整形地補正計算後の評価額-通路開設費相当額=無道路地の相続税評価額
※不整形地補正計算後の評価額の40%を限度とする
無道路地を評価する際に注意すべきポイント
無道路地の評価額を算出する場合、いくつか注意点がありますのでご紹介します。
複数の道路に囲まれている場合に採用する路線価
無道路地の周囲に路線価の設定された道路が複数ある場合、道路と評価対象地との距離や、通路開設費の実現性などを総合的に勘案し、採用する路線価を決めます。
実際に使用している通路が存在しても、当該通路を使って建物建築を行うことが、実現性や経済的合理性に反するときは、別の道路に設定されている路線価を用いて無道路地評価を行う場合があります。
前面宅地に適用する奥行価格補正率
無道路地と前面宅地を合わせた土地(一体地)の奥行価格補正後の単価より、面していない無道路地の奥行価格補正後の単価が高くなる場合において、前面宅地の奥行価格補正率は1.00で計算します。
ただし一体地を評価する場合で、奥行距離が短いため奥行価格補正率が1.00未満の数値となるときは、前面宅地の奥行価格補正率も当該一体地の数値を用いて計算します。
通路開設費を算出する際は補正計算を行わない
通路開設費の計算は、路線価×通路面積で算出された価額であり、間口狭小補正や奥行価格補正などの補正率は適用しません。
都市計画区域外に存在する土地の無道路地補正の有無
無道路地とは、接道義務を満たしていない土地をいいますが、接道義務は都市計画区域内や準都市計画区域内に建築する際に定められている規定です。
従って、都市計画区域外にある土地については、接道義務の規定はなく無道路地という考え方もありません(条例で独自に接道義務の規定をしている場合を除く)。
水路が介在する土地
土地と道路の間に水路が存在する場合は、無道路地の対象となりますので補正計算をして相続税評価額を算出します。
水路占用許可を得て橋などを設置することで建物が建築できる場合には、無道路地には該当しませんのでご注意ください。
接道義務を満たしていない宅地の評価
接道義務を満たしていない宅地は無道路地と同様、通路部分を拡幅しなければ建物の建築に制限のある宅地です。
したがって、無道路地の補正計算は接道義務を満たしていない宅地に対しても適用されます。
無道路地と接道義務を満たしていない宅地の計算方法は基本的に同じですが、通路開設費については、接続義務を満たすために必要な費用だけを計上し、不整形地補正後の評価額から控除します。
無道路地の相続税評価額の計算例
道路に接していない宅地(無道路地)と、接道義務を満たしていない宅地の評価方法の設例です。
奥行価格補正率などの補正率については、『土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表(平成31年1月分以降用)』に基づき計算します。
参照:土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表│国税庁
設例1:道路に接していない宅地
・無道路地と前面宅地を合わせた土地(一体地)の奥行価格補正後の価額
100,000円(路線価)×0.95(奥行価格補正率)×600㎡=57,000,000円
・前面宅地の奥行価格補正後の価額
100,000円×1.00×200㎡=20,000,000円
・無道路地の奥行価格補正後の価額
57,000,000円-20,000,000円=37,000,000円
・不整形地補正率の判定
(600㎡-400㎡)÷600㎡=33%(かげ地割合)
不整形地補正率0.9
・間口狭小補正の判定
2m(間口距離)→0.90(間口狭小補正率)
・奥行長大補正の判定
30m(奥行距離)÷2m(間口距離)=15→0.90(奥行価格補正率)
・不整形地補正と奥行価格補正の選択
0.90×0.90=0.81(不整形地補正率×間口狭小補正率)
0.90×0.90=0.81(奥行価格補正率×間口狭小補正率)0.81=0.81⇨0.81を採用
37,000,000円×0.81=29,970,000円
100,000円×(2m×10m)=2,000,000円
・通路開設費の上限判定
2,000,000円<29,970,000円×0.4
29,970,000円-2,000,000円=27,970,000円(相続税評価額)
設例2:接道義務を満たしていない宅地の計算例
・無道路地と前面宅地を合わせた土地(一体地)の奥行価格補正後の価額
100,000円×1.00×300㎡=30,000,000円
・前面宅地の奥行価格補正後の価額
100,000円×1.00×70㎡=7,000,000円
※通常、奥行距離が5mの場合の奥行価格補正率は「0.92」ですが、無道路地と前面宅地を合わせた土地(一体地)の奥行価格補正率「1.00」よりも低くなるため、前面宅地の奥行価格補正率は「1.00」で計算します。
・無道路地の奥行価格補正後の価額
30,000,000円-7,000,000円=23,000,000円
・不整形地補正率の判定
(300㎡-230㎡)÷ 300㎡=23.33%(かげ地割合)
不整形地補正率0.94
・間口狭小補正の判定
2m(間口距離)→0.9(間口狭小補正率)
・奥行長大補正の判定
20m(奥行距離)÷2m(間口距離)=10→0.9(奥行価格補正率)
・不整形地補正と奥行価格補正の選択
0.94×0.90=0.84(不整形地補正率×間口狭小補正率)
0.90×0.90=0.81(奥行価格補正率×間口狭小補正率)0,84>0.81⇨0.81を採用
23,000,000円×0.81=18,630,000円
100,000円×(1m×5m)=500,000円
・通路開設費の上限判定
500,000円<18,630,000円×0.4
18,630,000円-500,000円=18,130,000円(相続税評価額)
「無道路地の土地評価」で相続税を減額した事例
「無道路地の土地評価」で実際に相続税を減額した事例をご紹介します。
建築基準法上の道路に接していない宅地(無道路地)は「建築不可」というマイナス要素から相続税評価額を減額できる場合があります。建物が建てられないのに高い路線価が付されていた土地について、大幅に評価額を下げられた事例をご紹介します。
路線価のついていない道路は、「特定路線価」を個別に設定し、それをもとに評価するのが一般的です。「特定路線価」の設定の要否を検討したことによって、無道路地の評価を適用でき、土地の相続税評価額を下げられた事例をご紹介します。
まとめ
無道路地の相続税評価額の計算は専門知識が必要であり、適切な補正率を乗じなければ相続税評価額が過大に算出され、その分過大に相続税を納めることになりかねません。評価誤りがあれば税務調査により指摘を受ける可能性もあります。
無道路地を保有している場合は、相続税専門の税理士事務所へご相談いただき、適正な評価額を算出してください。