土地の相続税評価額を最大20%減額できる奥行価格補正を解説

相続税土地評価額を最大20%減額できる奥行価格補正

土地は大きすぎても小さすぎても使い勝手が悪くなりますので、相続税の土地評価では奥行距離に応じて「奥行価格補正」を適用し、評価額の調整を行います。

奥行価格補正は相続税評価額を最大20%下げられる画地補正であるとともに、正面路線価を決定する際にも用いるため、適用判定は必須です。

本記事では奥行価格補正の計算方法および奥行距離の測定のしかた、評価上の注意点について解説します。

奥行価格補正の目的と計算する際の注意点

相続税で土地を評価する方法は、路線価方式と倍率方式の2種類あり、奥行価格補正は路線価方式により評価する際に用いる補正計算です。

土地の評価額を調整するため

路線価方式は道路に路線価が設定されており、評価対象地に接している路線価に面積を乗じることで相続税評価額を算出します。

ただ同じ路線価に接している土地の面積の大小、形状などにより1㎡当たりの価値は変わり、たとえば100㎡の土地でも縦20m×横10mと縦100m×横1mでは利用価値が大きく違います。

そのため路線価方式では評価対象地ごとに必要な補正内容を把握し、土地の状況に応じた補正率を適用しなければならず、その補正計算の一つが奥行価格補正です。

奥行価格補正は道路に接している部分から奥行の長さを測定し、その距離に応じて補正率を乗じる補正計算であり、標準的な奥行距離であれば補正率は1.00と評価額は変動しません。

一方で、奥行距離が長い(短い)場合は土地の利便性が下がりますので、奥行距離に応じて最大20%の評価額の減額補正を行います。

路線価の地区区分で補正率は異なる

路線価は次の地区区分に分類され、評価対象地の該当する地区が異なれば、同じ奥行距離でも適用する奥行価格補正率は変ることがあります。

地区区分の種類

・ビル街地区
・高度商業地区
・繁華街地区
・普通商業・併用住宅地区
・中小工業地区
・大工場地区
・普通住宅地区

奥行距離が30mの場合、普通住宅地区であれば奥行価格補正率は0.95ですが、評価対象地が普通商業・併用住宅地区なら適用する補正率は1.00です。

また奥行価格補正率は側方路線影響加算や二方路線影響加算の補正においても用いますが、側方路線(二方路線)の路線価に対して適用する奥行価格補正率は、正面路線価の地区で判断しますので地区区分誤りに注意してください。

路線価図から地区区分を確認する方法についてはこちらをご参考ください。

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計算上の奥行距離で補正率を判定する場合もある

奥行価格補正は基本的に正面路線から測定した奥行距離により計算しますが、土地の形状が歪な場合、計算上の奥行距離により奥行価格補正率を判断するケースもあります。

また無道路地や土地を区分して補正計算した方が合理的な土地など、土地の状況に応じて奥行価格補正の計算方法は変わるため、適用する計算方法の見極めも重要です。

奥行距離の確認方法

評価対象地の奥行距離は公図や測量図で確認することが可能で、必要に応じて実際に測量して確認することになります。

公図は法務局で取得することができる図面ですが、場所によっては公図で示されている土地の大きさが実際とは異なる場合もあります。

建物を建築する際や土地を購入する際に測量している際は、手元にある測量図で奥行距離を確認することができますが、先祖代々引き継いでいる土地は測量図が存在しないこともあります。

なお相続税の土地評価では奥行価格補正率以外にも、補正計算のために現地確認が必要になることもありますので、該当する可能性がある画地補正を想定してから奥行距離を実測してください。

奥行価格補正の計算が必要になるケース

土地評価で奥行価格補正が必要になるケースは3つあります。

標準的な土地よりも面積が大きい(小さい)

評価対象地のある地区の標準的な土地より、面積が大きい(小さい)場合、奥行距離が長い(短い)可能性が高いため、奥行価格補正を適用できる可能性があります。

普通住宅地区の場合、奥行価格補正率1.00を適用する距離は10m以上24m未満であり、評価対象地の奥行距離が10m未満または24m以上であれば評価額を減額できるため、必ず奥行距離を確認してください。

複数の路線に接している

評価対象地が複数の道路に接している場合、評価額を計算する前に正面路線を決めます。

正面路線とするのは、路線価に奥行価格補正率を乗じた価額が最も高い路線であり、実際に使用している正面・裏面の向きは考慮しません。

路線価20万円と19万円の道路に接している場合、設定されている路線価は20万円の方が高いですが、奥行価格補正率を乗じた後の価額が逆転する場合は、路線価19万円の道路を正面路線として評価することになります。

また正面路線を判定する際は、路線価図で各路線に表示されている地区区分の奥行価格補正率を乗じるため、奥行距離が同じでも各路線の地区が異なれば補正率が違うこともあります。

なお土地を評価する際、側方(二方)路線に対する奥行価格補正率は正面路線に設定された地区区分のものを適用するため、正面路線の判定と側方(二方)路線影響加算の計算時に用いる補正率が変わることもあるのでご注意ください。

奥行距離が一様ではない

先祖代々引き継いでいる土地などは形状が三角形や台形であるなど歪なことが多く、奥行距離を確認することが難しいため、計算上の奥行距離を算出する必要があります。

その際、実際の間口距離と実際の面積を用いますので、下記事項に注意が必要です。

  • 評価対象地に接している道路が屈折している場合、間口距離の測り方で計算上の奥行距離に影響してきます。
  • 土地は相続開始時点における実際の面積で計算しますので、登記上の面積よりも土地が縄伸び(縄縮み)している可能性があれば測量しなければなりません。

奥行価格補正率の算出方法

正方形や長方形の土地は、実際の奥行距離から適用する補正率を確認できます。

しかし不整形地の奥行距離については、計算上の奥行距離などを算出する必要があり、計算方法も不整形地の形状等によって異なるため、ケースごとの奥行価格補正の算出方法を解説します。

面積と間口距離から奥行距離を算出する方法

三角形など奥行距離が一様でない形状の土地については、評価対象地の面積を間口距離で除した距離と、想定整形地の奥行距離のいずれか短い距離を奥行距離とします。

想定整形地とは、不整形地の全域を囲む正面路線に面する正方形または長方形の土地をいいます。

面積と間口距離から奥行距離を算出する方法
〇前提条件
・評価対象地の面積:700㎡
・想定整形地の面積:1,200㎡
・路線価:100,000円
・地区区分:普通住宅地区
〇奥行価格補正の計算
・評価対象地の面積を間口距離で除した距離
1,200㎡÷20m=60m
・想定整形地の奥行距離
30m
60m>30m
⇒30mを計算上の奥行距離とする
100,000円×0.95(奥行価格補正率)=95,000円(1㎡当たりの路線価)
〇不整形地補正の計算
・地積区分
普通住宅地区:B
・かげ地割合
30m×40m=1,200㎡(想定整形地)
(1,200㎡−700m)÷1,200㎡=41.67%(かげ地割合)
⇒不整形地補正率0.88
・不整形地補正と奥行長大補正の選択
0.88(不整形地補正率)×1.00(間口狭小補正率)=0.88
1.00(奥行長大補正率)×1.00(間口狭小補正率)=1.00
0.88<1.00
⇒0.88を選択
95,000円×0.88=83,600円
83,600円×700㎡=58,520,000円(相続税評価額)

不整形地を区分して計算する方法

評価対象地を整形地として合理的に区分できる場合、不整形地を区分して計算する方法もあります。

区分整形地による評価は、次の手順で行います。

  1. 評価対象地を合理的に区分
  2. 区分した整形地ごとに奥行価格補正を適用
  3. 算出した価額を合計し、評価対象地の面積で除した価額を1㎡当たりの評価額とする
不整形地を区分して計算する方法
〇前提条件
・評価対象地の面積:600㎡
・区分整形地Aの面積:300㎡
・区分整形地Bの面積:100㎡
・区分整形地Cの面積:200㎡
・想定整形地の面積:900㎡
・路線価:100,000円
・地区区分:普通住宅地区
〇区分整形地ごとの評価額
・区分整形地A
100,000円×0.95(奥行価格補正率)=95,000円
95,000円×300㎡=28,500,000円(A)
・区分整形地B
100,000円×1.00(奥行価格補正率)=100,000円
100,000円×100㎡=10,000,000円(B)
・区分整形地C
100,000円×1.00(奥行価格補正率)=100,000円
100,000円×200㎡=20,000,000円(C)
・合計
(A+B+C)÷600㎡=97,500円(1㎡当たりの路線価)
〇不整形地補正の計算
・地積区分の判定
普通住宅地区:B
・かげ地割合
30m×30m=900㎡(想定整形地)
(600㎡−900m)÷900㎡=33.33%(かげ地割合)
⇒不整形地補正率0.93
・不整形地補正と奥行長大補正の選択
0.93(不整形地補正率)×1.00(間口狭小補正率)=0.93
1.00(奥行長大補正率)×1.00(間口狭小補正率)=1.00
0.93<1.00⇒0.93を選択
97,500円×0.93=90,675円
90,675円×600㎡=54,405,000円(相続税評価額)

一体評価後に前面宅地を除いて算出する方法

評価対象地の前面に他の土地がある場合、評価対象地と前面宅地を一体評価した後、前面宅地を控除し、評価対象地の面積で除した価額を1㎡当たりの路線価とする方法があります。

前面宅地の評価額を計算する際、奥行価格補正率は前面宅地の奥行距離に関係なく1.00を乗じます。

一体評価後に前面宅地を除いて算出する方法
〇前提条件
・評価対象地の面積:676㎡
・前面宅地の面積:224㎡
・想定整形地の面積:900㎡
・路線価:100,000円
・地区区分:普通住宅地区
〇奥行価格補正の計算
・評価対象地と前面宅地を合計した土地の評価額
100,000円×0.95(奥行価格補正率)=95,000円
95,000円×(676㎡+224㎡)=85,500,000円(A)
・前面宅地の評価額
100,000円×1.00(※)=100,000円
100,000円×224㎡=22,400,000円(B)
※奥行距離に関係なく1.00を適用
・1㎡当たりの路線価
(A−B)÷676㎡=93,343円(1㎡当たりの路線価)
〇不整形地補正の計算
・地積区分の判定
普通住宅地区:B
・かげ地割合
30m×30m=900㎡(想定整形地)
(900㎡−676m)÷900㎡=24.89%(かげ地割合)
⇒不整形地補正率0.97
・不整形地補正と奥行長大補正の選択
0.97(不整形地補正率)×0.90(間口狭小補正率)=0.87
0.90(奥行長大補正率)×0.90(間口狭小補正率)=0.81
0.87>0.81⇒0.81を選択
93,343円×0.81=75,607円
75,607円×676㎡=51,110,332円(相続税評価額)

近似整形地から奥行距離を算出する方法

近似整形地とは、評価対象地の形状を把握することが難しい場合に用いる評価方法です。

近似整形地は、評価対象地からはみ出す部分の面積と近似整形地に含まれる評価対象地以外の部分の面積がおおむね等しく、かつ合計地積ができるだけ小さくなるように求めます。

近似整形地から奥行距離を算出する方法
〇前提条件
・評価対象地の面積:1,150㎡
・想定整形地の面積:1,200㎡
・路線価:100,000円
・地区区分:普通住宅地区
〇奥行価格補正の計算
100,000円×0.95(※)=95,000円(1㎡当たりの路線価)
※奥行価格補正率は、近似整形地の奥行距離(30m)に応じて算出します。
95,000円×1,150㎡=109,250,000円(相続税評価額)

屈折地にある土地の奥行距離の算出方法

評価対象地の間口が屈折しているような、奥行距離が一様でない土地については平均的な奥行距離を算出し、不整形地の面積をその間口距離で除した値を奥行距離とします。

なお算出された奥行距離については、想定整形地の奥行距離が限度です。

屈折地にある土地の奥行距離の算出方法
〇奥行距離の算出方法
550㎡(評価対象地)÷(5m+25m)=18.3m
18.3m<20m(想定整形地の奥行距離)
⇒18.3mを奥行距離とする

まとめ

奥行価格補正は、土地の相続税評価額の計算で最も用いることが多い画地補正です。

奥行距離は公図や測量図に基づき計算することになりますが、場合によっては実際に距離を測ることも必要になります。

減額補正は適用しないと評価額が過大に算出されますし、奥行価格補正率を乗じることで正面路線価が変わることもあるため、奥行距離を正確に把握することはとても重要です。

また土地の形状等により奥行価格補正の計算方法は異なりますので、相続財産に土地が含まれている場合には相続税専門の税理士事務所へご相談ください。

藤宮 浩(不動産鑑定士)
フジ総合グループ代表 藤宮 浩(ふじみや ひろし)不動産鑑定士 ‖ フジ総合グループの代表を務め、年間990件以上の相続関連案件の土地評価に携わる。相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。

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