
相続税還付とは、相続税を納めた後、税務署に「相続税を納めすぎていました」と申し出ることにより、納めすぎた相続税を取り戻す制度です。
正式には「更正の請求」といいます。
相続税を納めた人なら誰にでも認められた権利で、国税通則法23条や70条などに記されていいます。
ここでは、
・還付手続きのメリット
・税理士選びで失敗しないためのポイント
・還付手続きを依頼した際の費用
・還付になりやすい土地の事例
などを分かりやすく解説します。
【動画】5分でわかる!相続税還付手続きとは
相続税還付の期限、ポイント、還付額の実例
期限は相続してから5年以内
税務署に還付を求めることができる期間は、原則、相続税の申告期限から5年間です。
相続税の申告期限は原則、亡くなったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10か月ですので、亡くなった日から数えると5年10か月が還付の申告期限になります。
なおこの期限は、「税務署に書類を受け付けてもらえる期限」ですので、期限内に書類を提出すれば、その後、実際の還付まで時間がかかっても問題ありません。
【例】
2020年1⽉1⽇にお亡くなりになった場合
亡くなったことを知った⽇ 2020年1⽉1⽇
相続税の申告期限 2020年11⽉1⽇(原則)
還付申告の期限 2025年11⽉1⽇(原則)
還付のポイントは土地の評価の見直し
還付のポイントは、土地評価の見直しです。
例えば土地を売買する際、同じような形の土地でも、周辺環境や権利関係、法令法規などで安価になることがあります。
相続税の土地評価も同様に、さまざまな要素が減額要因となり、評価額が下がり、結果として相続税が安くなります。
そのような理由から、税理士の間では「同じ土地でも、10人の税理士が評価すると10通りの評価額になる」と言われており、税理士にとっても土地の評価は難易度の高い分野です。
そのため、最初の申告を税理士が行った場合でも、後から土地評価に強い税理士や不動産鑑定士が見直すことで、さらなる減額要因を発見し、納めすぎた相続税を取り戻せる可能性があります。
還付額の実例
還付になる額は人によりさまざまですが、業務の経験上、平均して納税額の20%程度が還付になる方が多いようです。
実際の還付金額例
納税額 | 還付額 | |
東京都 | 9,600万円 | 3,600万円 |
埼玉県 | 6,500万円 | 3,000万円 |
埼玉県 | 1,500万円 | 890万円 |
神奈川県 | 1億9,000円 | 6,700万円 |
愛知県 | 5,200万円 | 2,500万円 |
大阪府 | 3,600万円 | 730万円 |
相続税還付の4つのメリット
還付の4つのメリット
■ 納めすぎた相続税が現金で戻ってくる
■ 次の相続に向けた節税になる
■ 延納の場合は利子税が不要になる
■ 金銭的リスクがないから積極的に減額できる
【還付のメリット1】納めすぎた相続税が現金で戻ってくる
還付手続きの最大のメリットは、手元の現金が増えることです。
相続税の税率は最大で55%ですので、一度の相続で財産が大きく減ってしまう方が大勢いらっしゃいます。
残高が大幅に減った通帳を見ながら「きまり事だから仕方ない」と諦めていたお金。
それが戻ってくるとなれば、こんなに嬉しいことはありません。
その金額も数十万円ではなく、数百万円、数千万円の単位で戻ってくるケースが多いのが特徴です。
また、現金以外で納税することを物納と言いますが、例えば物納で土地を納めた場合も、還付が認められれば現金で戻ってきます。
【還付のメリット2】次の相続に向けた節税になる
例えば父親の相続で、土地の評価を下げたことによる還付があったとします。
当初の申告時の評価のまま次の相続を迎えれば、通常、同じように高い評価額が算出され、再度、高額な相続税を納めなければいけません。
一方、還付手続きにより評価を下げられた場合、子や孫の相続のときにも下がった評価を基に相続税を計算するため、自然と節税になります。
【還付のメリット3】延納の場合は利子税が不要になる
相続税の申告時、現金一括で納税できなかった場合、延納とよばれる分割払いを選択できます。
しかし、延納は利子税がかかるため、一括払いよりもさらに税負担が重くなってしまいます。
そのような場合でも、延納した額を上回る還付があれば、延納が実質なかったことになりますので、支払うはずだった利子税も不要となります。
【還付のメリット4】金銭的なリスクがないから積極的に減額できる
納税は義務であるため、納税額が適正でなかった場合、過少申告加算税や重加算税といった罰金が課されます。
同じように相続税も、申告内容に問題があり納めるべき相続税が少なかったり、故意に財産を隠すなどしていた場合、税金が加算されてしまいます。
そのようなことにならないよう、わざと土地を甘く評価し、少し多めに納税することで、税務署から物言いが入らないように対策することがあります。
一方で還付手続きは義務ではなく権利ですので、税務署から「認められません」と否認されても、それに対する罰金はありません。
還付手続きは金銭的リスクがないのです。
そのため、還付手続きでは「この土地はもっと安いのではないか!」と積極的に減額の申請をすることが可能となります。
相続税が戻ってくる3つの理由
相続税が戻ってくる3つの理由
■ 土地の評価は複雑で難しい
■ 最新の判例や通達を遡って適用することができる
■ 税務署は知らせてくれない
【相続税が戻ってくる理由1】土地の評価は複雑で難しい
土地は一つとして同じものがなく、個別性が強い財産です。
さらに、不動産関係法規や各種権利が何重にも折り重なることで、評価がより複雑になるため、税理士であっても適正な評価が難しい分野です。
一方で、評価が複雑であるということはメリットでもあり、それだけ減額の要素が多いということも意味しています。
そのため、相続税と土地評価に精通した専門家の観点で見直しを行うことで、新たな減額要素が発見でき、当初の申告時の評価額との差が還付となる可能性があります。
【相続税が戻ってくる理由2】最新の判例や通達を遡って適用することができる
裁判での判決や通達により、納税後に評価基準が変わり、減額要素が増える場合があります。
還付手続きを行うことで、後から増えた減額要素を評価額に反映することができます。
【相続税が戻ってくる理由3】税務署は知らせてくれない
「納めすぎている場合は、税務署が教えてくれる。」と思ってはいないでしょうか。
残念ながら、経験上、そのようなことはめったにありません。
相続税が自己申告制度であることが大きな理由です。
相続税は自分で(または依頼した税理士が)税額を計算します。
税務署は、「財産を把握している納税者が自ら行う申告の内容は正しい。」という前提で処理をするため、万が一納めすぎていてもそれを知らせてくれることは原則としてありません。
「自分の財産は自分で守る」という姿勢で、専門家に相談することをおすすめします。
還付になりやすい土地と成功事例5つ
ここでは、還付になりやすい土地や成功事例を具体的にご紹介します。
一見、適正に評価したように見えても、実はまだ減額要素が眠っているケースが多くあります。
【事例1】複数の貸家が建っている土地
複数の貸家が建っている土地(貸家建付地)は、各棟の敷地ごとに評価することが原則であり、たとえ一筆の土地であっても、安易に一体で評価することはできません。
しかし、敷地と敷地の境界があいまいであったり、機能的に一体かどうか判断が難しい場合、すべてを一体で評価してしまっていることが多々あります。
すべてを一体で評価してしまった場合、個別に評価をした場合に生じる減額要素を適用することができないため、評価額が高くなってしまいます。
■複数の土地が建っている土地の還付成功事例
当初は、4棟の建物が建つ土地を一つの土地として、一体で評価されていました。
調査の結果、D棟は個別に評価されることが妥当であると判断し、評価を改めた結果、評価額は6,000万円の減額となり、3,000万円が還付されることになりました。
【事例2】一体で利用している土地
工場や事務所、アパートなど、土地を広く一体で使用する際は、複数の筆にまたがっている場合があります。
その場合は筆の境界にとらわれず、実際の利用単位に沿って評価するのが原則です。
もし、一体で使用しているにも関わらず、分けて評価されていることがあれば、一体で評価をし直すことで、「地積規模の大きな宅地の評価」など、地積が大きいことで対象となる減額を適用できる場合があります。
■一体で利用している土地の還付成功事例
事務所の駐車場として利用している土地が、当初は別々に評価されていました。
実際の利用に基づいて、一体で評価することが妥当であると判断し、評価を改めた結果、評価額は900万円の減額となり、200万円が還付されることになりました。
【事例3】利用しにくい(利用価値が劣る)宅地
「利用価値が著しく低下している宅地」は、評価額を10%控除できます。
利用価値の低下には、振動や騒音がある、墓地に隣接する、ごみ集積場に近く悪臭がするなど、環境によるものが多くあります。
そのため、発見するためには現地をよく見て周辺の環境を調べ、音を聴き、臭いを確かめ…と細かい配慮が必要になります。
また、減額できるほどの利用価値の低下があるかどうかは、時価の観点からの検討や自治体への聞き込みなど、さまざまな調査が必要となり、手間もかかることから、十分に検討されず、見逃されている場合があります。
■利用しにくい宅地の還付成功事例
当初は考慮されていなかったのですが、周辺環境を調査してみると、土地のすぐ横に地域のごみ集積所があることがわかりました。
調査の結果、利用価値が著しく低下している土地であると判断したため、評価を改めた結果、評価額は700万円の減額となり、220万円が還付されることになりました。
【事例4】路線価が付された道に面した土地
路線価が付された道に面した土地は市街地であればどこにでもあります。
そのような土地の計算方法は、「路線価×地積」が基本です。
ところが、路線価が付されることそのものが妥当ではない場合があります。
その場合、「無道路地」として大きな減額要素を適用することが可能な場合があるため、どこにでもあるこんな土地こそ、注意が必要です。
■路線価が付された道に面した土地の還付成功事例
当初は前面道路に付された路線価に基づいて評価されていました。
調査の結果、前面道路は「建設基準法上の道路」ではないことがわかり、路線価が付されていることが妥当ではないと判断し、無道路地として評価を改めました。
その結果、評価額は1億4,000万円の減額となり、6,000万円が還付されることになりました。
【事例5】市街地にある山林
市街地にある山林の評価は、「宅地である」とした評価額から、宅地に転用する際の造成費を控除します。
このような土地は見ればすぐにわかることから、造成費の控除が見落とされることはほとんどありません。
しかし、市街地山林の評価で重要なのは造成費が控除されているかどうかではなく、「本当に宅地に転用できるような土地なのかどうか」です。
もし、宅地への転用が難しい場合、評価方法は大きく異なり、造成費を控除するよりも大きな減額を適用することができるためです。
ところが、造成費の控除だけで評価が終わっていることがよくあるため、市街地にある山林は減額要素を見落としやすい土地であるといえます。
■市街地にある山林の還付成功事例
当初は市街地にある山林として、造成費がきちんと控除されていました。
調査の結果、前提として宅地に転用することが難しい土地であると判断したため、当初とは異なる評価に改めました。
その結果、評価額は2,000万円の減額となり、130万円が還付されることになりました。
他にも、こんな土地で減額要素が見つかっています
紹介した事例以外にも、さまざまな土地で減額の可能性があります。
■減額の可能性がある土地
稲荷や地蔵尊が建っている土地、道路面より低い土地、道路に接していない土地、道路に接している部分が2m未満の土地、道幅4m未満の道路に接する土地、登記簿と実際の面積が異なる土地、敷地内に崖や傾斜がある土地、高圧線が通っている土地、私道として使われている土地 など
→自分の土地に当てはまるかどうかチェックしてみる(還付になりやすい土地5分チェック)
税理士事務所選びで失敗しないためのポイント4つ
相続税の還付手続きは、一度税務署が受理した内容を覆すものであるため、経験や知識、長年のノウハウが必要です。
そのため、土地評価に強く信頼の厚い税理士事務所に依頼するのが最善策となります。
ここでは、事務所選びで失敗しないための4つのポイントを解説します。
事務所選びの4つのポイント
■ 相続税還付の実績が多い
■ 不動産鑑定士と連携している
■ すべての土地をチェックしてくれる
■ 完全成功報酬である
【事務所選びのポイント1】相続税還付の実績が多い
「経験が豊富」=「ノウハウが多い」ことに直結するため、相続税還付においては、実績が多く経験豊富であるということは非常に重要です。
例えば、相続税は国税ですので、ノウハウが多いことにより、「○○県の税務署では認められました」といった交渉が可能になります。
また、これまでの成功事例に基づいて意見書を作成することで、容認される可能性も高まります。
こういった理由から、実績が多く経験豊富な事務所を選ぶことをおススメします。
【事務所選びのポイント2】不動産鑑定士と連携している
相続税を算出するための財産の評価は原則、財産評価基本通達に基づいて行われますが、不動産によっては時価を適正に反映できないこともあります。
この場合は、不動産鑑定士による不動産鑑定評価を検討することで、評価額を抑えられる可能性があります。
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相続税を計算するためには、まず、すべての財産の価値を金額に換算しなければなりません。
その計算方法は財産評価基本通達というガイドラインに示されおり、財産の評価は通常、この決まりに基づいて行われます。
しかし、財産評価基本通達も完璧ではなく、評価の原則である「時価(実際に売れる価格)」を反映しきれないことも多く、特に土地の評価においては、納税者が不利になる場合が少なくありません。
このような場合、時価評価の専門家である不動産鑑定士が、時価に近い評価額を算出することにより、適正な納税が可能となる場合があります。
還付手続きにおいても、時価評価の観点など、多面的な検討が重要となるため、不動産鑑定士と連携している事務所を選んでおくと安心です。
【事務所選びのポイント3】不動産鑑定士がすべての土地をチェックしてくれる
ときどき、「うちは不動産鑑定士の意見書が付いているから大丈夫!」という方がいらっしゃいます。
確かに、不動産鑑定士の意見書が添付された土地については、これ以上に減額となる可能性は少ないといえます。
一方で、その他の土地はどうでしょうか。
一般に、その他の土地は通常の評価である場合が多く、ここから減額要素が見つかることがよくあります。
これは、税理士が「意見書が必要だ」と感じた土地だけを不動産鑑定士に外注しているためで、不動産鑑定士は依頼されていない土地まではチェックをしていないのです。
還付手続きは不動産鑑定士と提携している事務所が安心だとお伝えしましたが、それに加えて、全ての土地を不動産鑑定士の時価評価の観点でチェックできる事務所に相談すると万全です。
【事務所選びのポイント4】完全成功報酬である
完全成功報酬とは、業務が成功した場合のみ費用が発生する仕組みのことをいいます。
手付金といった前払い費用や、最低報酬といった必ず必要な費用は存在しません。
相続税の還付手続きは、相続税が減額とならなければお客様のメリットが少ない手続きですので、完全成功報酬で、費用が発生するのは実際に相続税が減額された場合のみとしている事務所をオススメします。
不動産鑑定士の時価評価の観点を入れると、追加で費用がかかる場合が多いのですが、完全成功報酬としている事務所であれば、追加費用がかかりません。
また、すでに売却した土地の還付手続きでは、譲渡所得税の修正を行うことで、追加の納税が必要となる場合があります。
その際は、修正納付のマイナス分も考慮し、報酬額を引き下げてくれるかどうかも重要なポイントです。
【具体例】完全成功報酬で依頼した場合の費用
税理士事務所への費用が完全成功報酬となっている場合の計算例をご紹介します。
多くの場合、還付額の〇〇%というふうに割合を定めています。
割合は難易度や還付査定額で変動する場合があります。
【例】
費用(報酬額)が還付金の40%の場合
還付額5,000万×40%=2,000万(税理士報酬)+消費税
税務署からの還付金がお客様の口座に振り込まれ、それを確認してからの支払いとなります。
なお、報酬の多さだけで事務所を決めるのは危険です。
費用が安くても戻ってくる額が少なければ、手元に残るお金は少なくなってしまうからです。
実績やノウハウ、担当者との相性などを総合的にみて依頼先を決めることをおススメします。
還付手続きの流れ
必要書類
手続きには相続税申告書の控え一式が必要です。
手元にない場合は、閲覧請求や開示請求をすることで内容を確認できます。
■閲覧請求
本人や代理人が税務署の窓口で過去に提出した申告書を閲覧することができる。
閲覧の際にはメモや写真撮影を行うことができるが、申告書の控えをもらうことはできない。
■開示請求
本人や代理人が税務署から申告書の控えを受け取ることができる。
「保有個人情報開示請求書」の提出が必要。
手続きの流れ
一般に、契約から還付金の振り込みまでは、1年程度を有します。
書類提出まで 3か月~9か月
税務署検討期間 約3か月
土地の数や評価の複雑さ、また税務署の繁忙度合いなどによって期間は異なります。
手続きの流れは下記の通りです。
- 還付がありそうか否かの査定
- 申告書の控えを見て、還付の可能性をチェックします。
- 査定をすることで還付額の概算、報酬額の概算がわかります。
- 契約書の取り交わし
- 税務代理権限や報酬について取り交わします。
- 土地を中心に財産評価の見直し
- 書類の取り寄せ
- 現地の調査
- 役所の調査
- 減額要素の検討
- 書類を作成し、税務署に提出
- 税務署による検討
- 税務署から更正通知書と還付金振込通知書が到着
- 更正通知書 還付を決定する通知書
- 還付金振込通知書 振り込み額を知らせる通知書
- 税務署からお客様の口座へ還付金の振り込み
- 税理士事務所へ報酬の支払い
よくある質問5つ
還付の可能性があった場合、必ず還付の手続きをしないといけないのでしょうか。
いいえ。還付手続きをするかどうか決めるのは納税者の自由ですので、実際に手続きを進めるかどうかはご自身で決められます。
還付手続きをすると、当初の申告をお願いした先生に申し訳ない。先生が気を悪くしませんか?
納税者の権利を守ることも税理士業務の一つです。
クライアントの味方である税理士が、正当な手続きである「更正の請求」を行うことについて気を悪くすることはないはずです。
また最近は、税理士も医師のように得意分野に特化して業務を行うことが多くなり、専門外の業務は積極的に別の税理士を紹介するというケースが増えました。
このように、税理士同士でも互いの専門性を認め合っていますので、お客様の判断で複数の専門家に相談することは決して悪いことではありません。
税務署に目を付けられませんか?
還付手続きは、納税者が持つ当然の権利です。
その権利を行使したことで、税務署から目を付けられることはありませんし、あってはなりません。
また、税務署は相続税(資産税)、個人税、法人税とそれぞれ部門が大きく異なり、担当者も変わるため、対応が悪くなるということもありません。
相続した土地を売却した場合も還付の対象になりますか?
はい。亡くなったときにその方が所有していたすべての土地が対象となりますので、相続後に売却した土地も還付の対象になります。
延納や物納をした場合も還付の対象になりますか?
はい。延納や物納をしていた場合も還付の対象になります。